山田浅右衛門(やまだあさえもん)一
これは朝香と浅右衛門の過去の物語である。
日本における防衛局の中で極めて異質と言われているのが、暗殺部隊である。誰の目にも触れず、誰もその存在を知られないその中で唯一知られているであろう存在がある。
それが山田家である。
山田家は代々、浅右衛門の名を受け継ぐ一家であり、防衛局の掃除屋とも言われるだけあり、裏切り者や上からの指示により、首を切断することを生業としている。そんな山田が人の命を奪う時は決まって、首を切断する決まりになっている。
そんな山田家では、山田家に属する者、山田家で剣技を磨く全ての者が集められていた。
「この時が来た!先代浅右衛門が殺された。分かるな。この中から次の浅右衛門の名を襲名させたいと思う。一週間後に誰を浅右衛門とするか決めたいと思う。相応しいと思う者はそれを示すと良い」
山田夜一のその言葉をどの様に解釈したのかは、その場に居る者によって異なるだろう。だが、多くの人間が理解していた。今までの朝右衛門の名を襲名した者は剣技の優れた者にその名が与えられる事になっている事実がある事から、多くの者がそれを示す為動くだろう。だが、どれだけ優れた剣技を持っていても、それを披露する機会はこの一週間では無い。だが、男が告げた一週間と言う期間内でそれを示す方法に気付いた者はそれを直ぐに実行していた。
翌朝の事だった。
「酷い!浅右衛門の名を欲しさに皆んなを」
その日の朝呆れる様にして朝香が呟く。山田家には大量の遺体が転移魔法によって続々と送り込まれていた。浅右衛門の名を手に入れる為、山田家の人間とその門下生達による大量殺人が始まっていた。
それにより、山田家から多くの逮捕が出る事になったそしてそれを処断したのは山田家に任される事になっていた。
「朝香。防衛局の指示が届いたわ。貴女は首を十個斬り捨てなさい」
久しぶりの親子の会話がこれである。朝香の母である山田明日香は先代浅右衛門の妻であり、現在山田の実質の権限を全て持つ人間である。
この時の朝香は何も疑問も抱かずにただ、指示かれるがまま、差し出された首を切断するそれが自身を課せられた宿命なのだと言われ育ってきた朝香にとって、母の言葉は絶対であり、朝香の全てだった。
その時の朝香は黒髪で、母が用意した服を身に纏い母に言われた通り日々を送る朝香に浅右衛門の名の為に動くこと等頭にも無い。
「分かりました」
母に言われれば、朝香は常にそう答えるだけそれがこの親子の会話である。




