百花繚乱(ひゃっかりょうらん)一
黒白院の指示により、朝香と黒白院の二人は肉片の上を駆ける。そんな二人の足元から無数の口が出現する。
「何処に向かっているのかな?」
現れた口から発せられたその言葉によって、黒白院が抱いていた耳の件は確信に変わった。肉片から現れた耳や口等のパーツは人本来の機能を持ち、持ち主とリンクしている事を
「それを言う必要はあるか?」
黒白院のその言葉にすぐの返答が返ってくることは無かった。返って来たのは暫くしてからだった。
「好きなだけ逃げると良い。この沖縄の地は全て埋め尽くしている。逃げろ!憐れな虫けら共!」
男のその言葉と共に無数にあった口は消滅し、辺りは静寂に包まれる。
「黒白院さん。本体を倒しましょう」
逃げ続ける現状に嫌気が差す朝香は痺れを切らし、黒白院に提案する。
「敵のおおよその位置は分かっているだが、今は駄目だ」
「何処に居るんですか?」
「私達が走ってきた道とは逆側だろう」
「逆ですか?」
「あぁ、離れているからこそ、途中は会話が途切れ、肉の操作も出来ないこの位置が奴との睨み合いが出来る。中立的な位置と言えるだろう」
「確かに口、耳の出現はありませんね。今は駄目と仰いましたが、いつなら良いと?」
「異常な聖剣は本体の力から逸脱している。先ずは、異常な聖剣について調べる必要がある」
黒白院がそう告げたその瞬間だった。黒白院は突然倒れ、蹲る。黒白院が今まで神の如き強者で抑えていた心臓の痛みが黒白院を襲う。
「黒白院さん?大丈夫ですか?」
倒れる黒白院に寄り添う朝香が、その手を地面にただ今は肉片に埋め尽くされているそれに触れようとしたその時だった。
「身体を直接、触れるな!」
黒白院のその叫びによって朝香は身体の動きを停止した事によって、朝香の手が肉片へと触れる事は無かった。突然襲われた心臓の痛みで倒れた黒白院は違った。黒白院の手は地面を覆い尽くす肉片と同化していた。
「山田⋯⋯私の両手を切断しろ!」
「しかし」
「いまは神の如き強者で肉体を奪われない様に抵抗している。早くしてくれ⋯⋯神の如き強者の力を心臓に回したい」
「⋯⋯分かりました」
朝香は決意すると手にしていた剣を黒白院の両手めがけ、振るう。首切り朝香と言われる程の実力者の一太刀はまるで豆腐に刃を入れる様にすんなりと切断してみせた。出血や痛み等伴う両手の欠損の筈が、黒白院は声一つ上げる事も無く、表情も崩す事は無かった。
そんな黒白院の切断された箇所から蓮の花が咲き誇る。




