戻れないなら、こっちで頑張ってみる
ステータス測定、なんか、ゲームのキャラになった気分だ。まあ、ハズレキャラだろうけどさ。
肉体に対して、魂が変動している可能性ありって、つまり、肉体に宿った魂が入れ替わっているってことで良いんだよね?
ステータスも基準が分かんないけど、各種耐性・総合Sって悪くはないんじゃないかな。他の数字も、ゲーム感覚で言えば初期値としてはそこそこ良い感じじゃね?
「バカな……」
ん? 何か、神父さんが驚いている。まさか、意外と悪くはないどころか、並外れているとか?
「本当に、魂が入れ替わっているのか……!」
あ、それか。それのためにステータスを測定したんだから当然の反応か。
つーか、神父さんも驚くようなことなんだな。魂の入れ替わりって俺が初なのか?
「アリスさん」
「はい?」
「俺のこのステータスってどうなんです? 高いんですか?」
「え? あー……」
あれ? なんか、言いにくそう。もしかして、そんなに高くない?
「低くはないです。むしろ、同年代の中では高位の部類です。ですが……」
「ですが……?」
「MPが上昇しています。元々は12しかありませんでした」
「え、ひっく!」
「はい。だから、Eランクだったんです」
「あー、そうでした」
ふむ。悪くはないのか。むしろ、上昇しているのか。MPも上がっているってことは、もしかしたら、ランクも上がっていたりすんのか?
「MPとは魔力生成性能のことを言います。魔因子による魔力の生成量が多ければ、このMPの値が上がります」
突然の神父さん。説明はありがたいけど、唐突なのはやめてほしいぜ。聞き逃しちゃう。
「一般的に、魔因子量100に対してMPは1と言われています。なので、あなたの魔因子量はおよそ8000ほどです」
「それって、凄いんですか?」
「ランクで言えば、Dランク相当です。本来なら、このような上昇はありえません」
「ありえない?」
「持って生まれた才能と言える魔因子量は成長ともに増加します。1つの細胞内に含まれる魔因子量は変動せず、肉体の成長によって細胞が増えることで魔因子量は増加するのです」
「つまり、体が大きくなったわけでもないのに魔因子量が増えたのが異常ってことですか?」
神父さんは神妙な面持ちで頷く。
悪いことじゃない気がするけど、何かあるのかな? んー、ミトコンドリアが細胞内で異常増殖するようなもんか? それで弊害があるなら、確かにヤバいことなのかもしれん。
てか、体の成長で魔因子量が増えるってことは、体が成長しなかったら魔因子量は増加しないってことか? この体は大丈夫か? ちゃんと成長するんだろうな?
「竜太郎さん」
「は、はい?」
神父さん、顔が神妙なままだ。表情差分が少ないのか?
「あなたに、私が修行をつけようと思います」
「修行、ですか」
「憤懣遣る方無いことですが、一度決定されたランクが上がることはありません。体がうまく成長せず、他の同年代に比べて魔因子量が低くなると下がることはありますけどね」
「そういうことはあるんですね」
「はい。ランクが上がらない以上は、あなたは学校へは通えません。ですが、あなたはかなり特殊な状態にあります。鍛えることで、通常ではありえない変化があると思うのです」
「え、本当に……?」
「確実に、とは言えません。魂が入れ替わったことによる一過性のものでもある可能性もあります」
「でも、やってみないと分からない、ですよね?」
「はい。それに、鍛える分には損はありませんよ。低ランクだと選べる職種は多くありません。冒険家や傭兵がほとんどという有様です」
「…………」
ううむ。冒険家にしろ、傭兵にしろ、体を鍛えないことには始まらないのは確実だな。魔力量的に魔術には頼れないってのが痛いな。
それなのに、学校に通えないって強烈なデバフまである。魔術の基礎も知らない中で、独学だと限界なんてすぐだ。
もう、答えは1つのだな。
「お願いします!」
「こちらこそ、お願いします」
こうして、俺は神父さんから修行をつけてもらうことになった。
俺を見下した連中を見返してやるぜ!
いや、もう、見下されたままでもいいかもしれん。
意気揚々と修行を始めた。場所は、アリスさんの施設を囲む森の中だ。ここなら、周囲から邪魔されないし。
うん、意気揚々だったよ。最初は。
でも、あの神父さん、じゃなくて、師匠様は鬼だった。
「まずは基礎体力です。足腰も鍛えないといけませんね」
穏やかな口調のまま、50km走れと命じられた。コンスタントに走れるようになるまでは時間は問わないとも言われたけど、毎日走らないといけない。
いや、師匠様が毎日来るわけじゃないけど、アリスさんの監視付きだ。意外と、厳しい。水分補給のサポートはあるけど、足を止めると鬼の形相で睨まれる。怖い。
「ふむ、日暮れですか。頑張りましたね。では、次です」
腕立て、腹筋、背筋、スクワット。筋力アップのためのトレーニングを片っ端から。
眠れるのはそれらを一通りやってから。眠れないまま夜を越えると、回復魔術やらで回復されてからランニングが始まる。
修行が始まってから3週間経った。後悔しかしてないよ。
今は寝たい。回復魔術のせいで寝なくても死なないけど、とにかく寝たい。いや、絶対この方法は効率悪いって。ただ、ひたすらに体を虐めてるだけじゃんよ。
あー、くっそ! 修行するなんて言わなきゃよかった! 辞めたいけど、なんか知らないけど、師匠様もアリスさんもすっごい乗り気だし。師匠様、なんか色々言ってたけど、単なる興味本位だったんじゃないだろうな!
「ほら、ペースが落ちてますよ! 足を止めない!」
ほらもう、アリスさんの叱咤が飛んでくる! もう、凄い乗り気だもん! 辞めれねーや。
そんなこんなで半年ほど経過して、師匠様が言った。
「そろそろ、ステータスを測定してみますか? 何かしら上昇しているかもしれません」
「メッチャあやふやな言い方っすね」
「効果があるかどうかも分からない修行でしたからね」
「はい⁉」
「まさかやりきるとは。若かりし頃の私が暇潰しにしていた筋トレなんですがね」
「何ですと⁉」
こいつ、涼し気な顔で何言いやがる⁉ こちとら、きっとステータスが倍くらいにはなっているだろうってことで頑張っていたんだぞ!
こ、効果があるかどうかも分からないって……マジか……。
少しばかりじゃないくらいに肩を落として俺は町の教会へ。相変わらずの侮蔑や嘲笑。はいはい、それ以外にすること無いのかね。暇な奴らだな。
そして、測定陣へ。そういや、前に光った時には謎の声がしたな。声の内容的には、どうも俺が元々いた世界っぽかったけど。また聞けるかな。
そうやって期待に胸を膨らませ、ビカーっと光って、そのまま光は収まった。
あれ?
声は? 前の時には聞こえたのに。あの時のはバグか何かだったのか? ステータスに気を取られてうっかり聞き忘れ無ければ良かったな。
修行頑張った! 頼むよ。結果にちゃんと反映されていてくれ! じゃないと心が折れちゃう!