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戻れないなら、こっちで頑張ってみる

 状況を打開するために教会へ行くことにしたリュエル(竜太郎)。しかし、町に着くと、すれ違う人々から侮蔑や嘲笑に晒されることになる。早速、町に来たことを後悔することになった。

 正直、ナメてた。最低ランクへの差別意識。ここまで酷いとは。

 町の中央付近にあるっていう教会に行くために、町に入った途端に、周囲からヒソヒソ声、次いで嘲笑。指を差されて隠す気の無い侮蔑。

 うーん、こりゃ、10歳の子供じゃ耐えきれないだろ。逃げたくもなるな。同情するよ。

 でも、俺を巻き込むなよ。どうせ巻き込むなら町の連中を巻き込んで自爆でもすれば良かったんだ。同情はできるが、俺を巻き込んだことは許さん。

 というか。


「…………」


 アリスさんは、町に入ってからずっと黙っている。町に着くまでは色々と話をしてくれたのに。主にこの世界について。

 てっきり、俺と一緒にいるせいで嘲笑や侮蔑に巻き込まれて怒っているのかと思ったけど、どうも違うようだ。むしろ、俺を守ろうとして、嘲笑や侮蔑を向けてくる連中を睨み返している。

 これがなかなかどうして、結構な迫力で、近くにいる俺は背筋が冷えて仕方ない。

 でも、まぁ、町の連中にはあまり効果が無いようだ。

 睨むだけで差別意識が無くなるなら、学校でのイジメはとっくの昔に消えているだろう。

 少し、いや、結構なレベルで町に来たことを後悔していると、アリスさんの足が止まった。


「着きましたよ。ここが教会です」


 なるほど、教会だ。十字架こそかかっていないけど、それを除けば教会としか言いようが無い。十字架が無いのは、成り立ちが違うからか?

 無宗教の俺がそんなことを考えても仕方ないか。

 おっと、アリスさんが入ってく。置いてかないで〜。


 長椅子が両端に並んでいるところは俺がいた世界の教会と同じだな。ここでも結婚式とか挙げたりしてるのか? おのれリア充爆死しろ。俺なんて、異世界の子供の家出に巻き込まれているんだぞ。


「アリスさんですか。どうしました?」


 優しげな声が響いて、そっちを見ると、あの、あれ、何て言うんだ、あの黒い服。牧師とか、神父とかが着てるアレ。その服を着た妙齢の男性が立っている。

 こいつも、俺に対して差別意識とかあるんじゃねーだろうな?


「君は、リュエル君でしたか。心は大丈夫……ではないでしょうね。常々、魔因子量で差別すべきではないと説いているのですが、長年の差別は簡単には無くならず、君には申し訳ない限りです」

「へ……?」


 まさかの謝罪の言葉とともに頭を下げてくる。演技……ではなさそうだ。

 え、もしかしなくても良い人?

 少しでも疑ってすみません。


「神父様、今日は相談したいことがあって参りました」

「相談ですか? ……もう、漫才はしませんよ」

「いえ、違います」


 漫才ってこの世界にもあるのか⁉ 神父様したんか⁉ てかアリスさんさせたのか⁉ どっちがボケで、どっちがツッコミやったの⁉ 今はそれが知りたい!

 でも、空気を読んで黙る俺。きっと教会の敬遠な空気が俺の冷静さにバフをかけたのだ。

 周囲からの嘲笑や侮蔑が無い空間は素晴らしいな。もう、教会内を見回す余裕もあるもんね。俺のイメージにある教会と違って、十字架も何か聖女の像みたいなのも無い。んー、でも、不思議と神聖な雰囲気あるなー。


「竜太郎さん、ですか」

「へ?」


 あ、アリスさんが俺の紹介してくれてたのね。名前を呼ばれると思ってなかったから、マヌケな声が出ちゃったよ。


「魂が異世界を越えて入れ替わる……。……正直に言って、にわかには信じ難い話ですが……」

「実際に入れ替わっているのです。今の彼に、昨日までの記憶は無いようなのです」

「ふむ……。仮に、そのように己を偽っても、何の得も無いですし……。しかし、そのような話は聞いたことが……。異世界へ、魂だけとは言えど移動するなんて……」


 ううむ、何やら小難しい顔してらっしゃる。やはり、俺が置かれている状況って、相当に特殊な感じなのか。まぁ、俺自身が「起きたら異世界にいて、見知らぬ少年の体になっていた」くらいにしか認識できてないし。しかも、何かクッソ弱くて、周りから差別されまくってるって、マジで最低な状況じゃん。

 うーん、俺も話に加わりたいけど、下手に加わって話が拗れても悪いしなぁ。……うん? 神父さんが手招きしてる? 呼ばれてるの、俺だよな?


「申し訳ない。あなた方を疑いたいわけではないが、にわかには信じ難いのも正直なところ。なので、魂を鑑定させて頂けないだろうか?」

「魂を鑑定……?」

「あなたの記憶には無いのかもしれないが、昨日に行われた魔因子量測定をより厳密にしたものと思ってもらって構わない。もしも、本当に魂が入れ替わっているのなら、教会で保管しているステータスと変動があるかもしれない」

「ステータス? 身体能力みたいな?」

「ええ。成長や訓練で上昇するものだが、まず、1日で変動するものではないので」


 ううむ。ゲームみたいな単語だな。それこそ、俺にしてみればにわかに信じ難いけど、興味を引かれるのも事実だし。

 よっし! こんな状況で怖気づいても仕方ないしな!


「宜しくお願いします!」

「こちらへ」


 淡々とした口調だけど、不思議と嫌な感じじゃないな。性根が優しい人なのか? ただ、足が速いな。歩いているのに、俺は小走りだぞ。人見知りなのか? 俺もだよ。

 教会の奥にも色々と部屋があるんだな。あ、止まった。部屋の前で待ってくれてる。


「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 部屋の中は、外から見るよりも広いな。……つーか、天井とか床とか壁とか、至る所に魔法陣? みたいなのが描かれているんだけど。こっわ!


「安心なさい。ステータスを客観的に測定し、数値化するためのもの。苦痛を与えたりはしない」

「は、はい」

「では、測定陣の真ん中へ」


 あ、これ測定陣って言うのか。むう、真ん中に立ってみると儀式の生贄にされているみたいで良い気分じゃないや。何かを召喚したりはしないよな? 俺じゃ、触媒にはなれないぞ!


「始めます。力まずに、リラックスして」

「はーい」

「鑑定開始、魂測定」


 神父さんが端的に言うと、測定陣が光りだしたぞ。え、これ大丈夫だよね? アリスさんは落ち着いているな。なら、大丈夫か?

 そんな心配してたら、光が強くなってきたんだけど。眩しいんだけど! ちょ、もう目を開けていられないんだけどー!


(何なんだよ……この世界は)


 はい?


(仕事とか、僕は何も知らないのに)


 は? 仕事?


(すまほ? とか、ぱそこん? とかいきなり言われても……)


 すまほ? ぱそこん? んん? スマホ! パソコン! ちょっと待て! それって、もしかして俺がいた世界の⁉


(はぁ、今日も仕事か……。すーつとかねくたいとかも分からないし、もう、なんなんだよ……。……もう、嫌だ……)


 おい、ちょっと! もしかして、お前は!


「終わりです。お疲れ様でした」


 あ? 光が……。声も聞こえなくなった……。何だったんだ、今のは? でも、確かに聞こえたし、最後のはスーツとネクタイ……。スマホやパソコンとも言っていたし、もしかして俺が元いた世界なのか? なら、あの声の主は、この体の……?


「竜太郎さん?」

「のわぁ⁉」


 いきなり神父さんの顔が視界の大半を占めてビックリした! 俺、ドッキリとか無理だよ。

 あ、神父さんも驚いてる。いや、何か、ごめんなさい。

 身なりを整えて、咳払いして、驚いているのを誤魔化している……?


「竜太郎さん、鑑定は終わりです。今は、自動書記で結果を記載しているので、こちらでお待ち下さい」

「はい、分かりました」


 俺も大人だ。下手なツッコミはしないぞ。

 アリスさんの隣に座ると、何か落ち着くな。この世界で、アリスさんだけだもんな、名前を知ってるの。

 それにしても、何だったんだ、さっきのは。うーん、あまり安心できる感じじゃなかったな。クッソ、頼むから下手なことはするなよ。嫌なんだよな、こんな胸のザワつく感じ。


「竜太郎さん、大丈夫ですか? 何か、悩んでいるみたいですが」

「え? あー、いや、そんなことは……まぁ、ちょっと」

「訊いてもいいですか?」

「んーと、さっき、鑑定されている時になんですけど」


「竜太郎さん」

「はい?」


 あ、神父さんだ。なんか紙持ってる。


「お話中に申し訳ない。自動書記が終わって、鑑定結果が出たのでね」


 アリスさんに相談しようとした矢先だけど、こっちに興味あるな。何だろ、学校のテスト結果の返却に似た緊張があるな。

 アリスさんもジェスチャーでこっちを優先させてくれているし、遠慮なく紙を受け取る。


『名称:不明 HP45 MP81 ATK56 DEF54 俊敏性48 各種耐性・総合S 常時発動スキル枠に5つの空きあり』


 おぉ、本当にゲームみたいなステータスだ。高いのか低いのかは分からないけど。あと、名称が不明って。リュエルでも竜太郎でもないのか?


『状態異常:肉体と魂に変調あり。肉体に対して魂が変動している可能性あり』


 最後の一文が、俺の魂が入れ替わっていることを決定的にした

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