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神はケモノに×される  作者: あおうま
第一章 ながすぎるアバン
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第九十四話 神は、戌と、酉と

 

◇◇◇

 

「神さん、元気ないですか?」

 食堂にての朝ごはんの時間、隣に座った戌丸(いぬまる)さんが突然そう聞いてきた。

「そ、そんなことないよ?」

「そうですか? 本当に?」

「……うん」

 残念ながら元気はない。だって私イジメられてるんだもん。

 だけど戌丸さんには、私がイジメられっ子だとバレたくなかったので誤魔化したわよ。

 ていうか私、そんなにわかりやすく元気なかったのかな……気をつけよ。

 最近はかなりの頻度で、戌丸さんとご飯をご一緒している。

 だけど戌丸さんは部活の人とか、『どこでどうやって仲良くなったんだ。スゲェ!』みたいな別のクラスの子ともご飯を食べているから、私はときどき前みたいにボッチ飯するときがあるんだけども。

 偶然なのか、狙われてなのか。

 この前のおかずスティールは、そんなボッチ飯をしていた時に発生しやがった。

 ていうか、もし狙われてのことなら、私ずっと監視されてるってこと?

 えっ、こわポヨ……勘弁してほしいのだけども。

「……神さん、本当に大丈夫ですか?」

「えっ!? う、うん。ぜんぜん元気へっちゃらだよ? 元気モリモリのモリだよ」

「そうですか……なにかあったら言ってくださいね? わたし、何でもお力になるので!」

「うん……ありがとね」

 あぁ、ダメだダメだ。

 気を抜くとすぐにイジメのことばっか考えちゃう……。

 戌丸さんにも心配かけちゃってるし。暗くなっちゃ、折角の戌丸さんとのご飯タイムがもったいないよね?

 わかってる、わかってるんだけど……はぁ、もうヤダ……。

「えーと、あっ! そういえばこのあいだですね! スゴイ珍しいことがありまして」

 私が噴き出してしまっている重苦しい空気を読んで、戌丸さんはなんとか話題を変えようとしてくれていた。

 へへっ、申し訳ねぇぜ。こんな根暗女のためによぅ。

「珍しいこと?」

「はい! 久しぶり……っていうか、もしかしたら初めてかもしれないんですけど。同室の亥埜(いの)さんから話しかけられましてですね」

 亥埜さん……同じクラスだけど、一度も話したことないんだよなぁ。

 すんごい美人なんだけど、クールでちょっと近寄りがたいんだよね。

 辰峯(たつみね)さんとは違ったベクトルで真面目そうと言うか、少し怖そうだし……目力(めぢから)つよつよなんだもん。

「そのとき、神さんのことを少し話したんですよ?」

「……えっ? なんで?」

 戌丸さんと亥埜さんが?

 私のことを……なにゆえ?

「あっ、でもそんなモチロン、陰口とかではないんですよ!?」

 私が気づかぬうちに、さぞや訝しげな視線を向けてしまっていたのだろう。

 戌丸さんは手をパタパタと振りながら、『心配せんで大丈夫やで』と一言目からフォローしてくれた。

「亥埜さんから『神さんと一緒にいるとこ見たけど仲良いのか』って聞かれて。ちょうど、あの、このあいだ……色々あったじゃないですか? それで、仲良くなったってお話をしまして……」

 戌丸さんに『このあいだ』と言われれば、思いつく出来事なんて一つしかない。

 私がみっともなくズッコケたけど、戌丸さんが優しさ発揮して待っていてくれた、戌丸さんとの仲を深められたあの日ね。

「仲良くなった……えへへ。戌丸さんと私、なかよしだもんね!」

「はい! なかよしです!」

 そのあと、私は戌丸さん本人からの仲良し認定に舞い上がり。

 直前まで話していた亥埜さんのことなどは、ウッカリ忘れてしまったのだけど。

 それだけじゃなく、イジメのことも少しばかり忘れることもできたので。

 戌丸さんのおかげで、落ち込んでた気持ちを少しだけでも紛らわすことができたのだった。

 

◇◇◇

 

 その日の放課後、なんか前にもこんなんなってた身に覚えがあるんだけども。

 私はコッソリと人目を忍んで、学校の図書室にやってきていた。

「あ、神さん。いらっしゃい」

「こ、こんにちわ酉本(とりもと)さん。委員の仕事お疲れ様です……」

 貸出カウンターには、以前にお世話になり過ぎなくらいに世話をおかけした酉本さんが座っていて、私に声をかけてきてくれた。

「本を探しにきたんですか? もしくは中間テストの勉強?」

「あ、えと、どっちもです……」

 見事に私が図書室を訪れた理由を的中させた酉本さん。

 私のことを理解しすぎている。

 多分メチャクチャ私と相性がいいんだろう。大丈夫、私も好きだから。

「そうですか。もしよかったらお手伝い……あれ? 神さん、もしかして元気ありませんか?」

「えっ!? あ、あるある、ありまくりだよ。元気あるよ」

 戌丸さんといい酉本さんといい……なんでわかんの?

 私そんなにも顔に『元気ないよぅ……』って書いてある感じなのかな。

 それとも陰気なだけ? 

 それ元々だよ? 元来私に備わっている根暗さだよ?

「そう、ですか? 神さんがそう言うなら……あ、そうです。神さんこれ、ありがとうございます。いつも使わせていただいてます」

 酉本さんはそう言いながら、手に持っていた文庫本を掲げてみせてくれた。

 文庫本には鳥さんが空を飛んでいるブックカバーがかかっていて、それはこのまえ私がプレゼントしたものだった。

 ちなみに選ぶ時には戌丸さんも『可愛いです!』と太鼓判を押してくれたヤツだし、たぶん女子高生が使っていてもダサくないデザインではあると思う。

 そのあと戌丸さんにあげたプレゼントは、私ひとりで選んだからな……。

 不安だったけど、戌丸さんは表面上は気に入ってくれているみたいだから良かったよ。うんうん。

「喜んでもらえて……それに使ってくれて、私も嬉しいです」

 酉本さんにそう言ったあと、私は奥の方の席に腰を落ち着かせた。

 図書室に来たのは、あわよくば酉本さんとおしゃべりするのも目的ではあったけど、それだけじゃない!

 勉強と草調べである。

 自分の部屋にいても、一人っきりなの怖いから落ち着いて勉強できないし。

 テスト前にそりゃあかんと、いつぞやよろしく、ここまで逃げてきたわけである。

 さらにはこの草。

 毎朝、私の下駄箱をゴミ箱がわりに捨てていかれてるわけだけど、この草たしかにクローバーだ。

 小学生の時に友だちでもおれば、『おそとで遊んでいる時に草かんむり作ったり』なんつぅ素敵エピソードで馴染みがあったのかもしれないけれど。

 そんなキラキラした思い出がない私にとっては、ただの草でしかなかった。

 だから今日登校したとき、戌丸さんに「この草なんの草か知ってる?」「クローバーですね!」と教えてもらうまでは、ただのゴミだと思っとった。

 だけど草の名前さえわかれば、草言葉とか調べられるかもしれない。

 きっとそれがいじめっ子の伝えたいことなんだ!

 草言葉なんてものが存在しない場合には……うん。しょうがない。

 普通に何の他意もない、ただの嫌がらせだったんだろう。ぴえん……。

 まずはそっちを片付けちゃろうと思いましたは良いものの、本ってどうやって探せばいいの?

 こんなにたくさん本があるんだし、目当ての本なんて一生見つけられなくない?

 だけど大丈夫。私は知り合いに本の妖精さんがおるからね。

「あ、あの、酉本さん……」

 ということで、貸出カウンターに座っている酉本さんに声をかけて助けてもらうことにした。

「はい。どうされましたか?」

 なにやら書き物の仕事をしていたっぽいから、邪魔しちゃって申し訳ないとは思ったんだけど。

 酉本さんは不快そうな顔ひとつせず、にこやかに対応してくれた。

「本を探してるんだけど、どこにあるかわかんなくて……」

「かしこまりました。どんな本をお探しですか?」

 そう言いながら、酉本さんは席から立ち上がって私のそばまで来てくれた。

 一緒に探してくれるんだろうか。

「あのね、草の本なんだけど」

「草の、ほん……?」

 いやわかるよ。普通にそんな顔になるよね。

 いきなり草の本とか大雑把な枠組みぶつけられても、園芸か野宿か始めんのかって感じだもんね。

「草っていうか、草言葉? みたいな本がもしあれば、なんだけど……」

「草言葉ですか……花言葉なら聞いたことあるんですが」

 酉本さんが歩き出したから私も後ろについていくと、酉本さんはある本棚の前で立ち止まった。

「花言葉の本はここにあるんですが、草言葉、草言葉……ないですね」

「そっか。だよね……」

 うぅん、やっぱそうだよね。

 聞いたことねぇもんね。そもそもそんな言葉。

「もしかしたら花言葉の本に載ってるかもしれません。なんて名前の草かわかりますか?」

 棚から抜き取った本をパラパラとめくりながら、酉本さんはそうたずねてきた。

 あんな緑一色の草、流石に花言葉の本には載っていないだろうなとは思いつつ。

 酉本さんのせっかくご厚意も無碍には出来ないので……。

「クローバー? 正確には何て言うのかわかんないけど、みんながクローバーって呼んでる草だと思う」

「あっ、それなら載っているかもしれません。クローバーはシロツメクサという花なので……ありました。ちゃんと載っていますね」

「ほんと!?」

 酉本さんが指先で指し示した先には、たしかにシロツメクサの花言葉のページがあった。

 ページを開いたまま渡してくれた本に、ドキドキしながら目を通すと、いくつもの花言葉が書いてあった。

 いや、そもそもね?

 いじめっ子が花言葉とか込めて、私の下駄箱にこの草を入れてるって決まったわけでもないんだし。

 そりゃ私の思い違いというか、現実逃避なのかもしれないんだけどさ。

 それでも、もしかしたらって、宝探ししている気持ちになっちゃたんだもん。

 さてと、なになに……。

 私は本をパタンと閉じた。

「探していたことは載っていましたか……って、大丈夫ですか? 神さん、顔色が……」

「だ、だだだいじょぶ。元気だから、ありがとね、あはは、あっ勉強しなきゃ。あはは……」

 酉本さんにもう一回お礼を言ったあと、固まった身体をなんとかギコギコ動かして、図書室奥の席まで戻ってきた。

 花言葉の本、シロツメクサのページ。

 そこには……『復讐』という言葉が、おどろおどろしく書いてあったのだった。

 調べなきゃよかったよぅ。うぇーん。

 

◇◇◇

 

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