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神はケモノに×される  作者: あおうま
第一章 ながすぎるアバン
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第八十四話 酉はさえずり、神は計画する

 

◆◆◆

 

 フワフワした気持ちのままで、寮の部屋まで帰ってきました。

 部屋に入ったときに電気はついていなかったですし、同室の申輪(さるわ)さんの姿はどこにもありませんでした。

 おそらくまだ部活の後片付けをしているか、あるいはすでに帰寮していて、他の子の部屋や談話室に遊びに行っているのでしょう。

 兎にも角にも、今は申輪さんがいなくてよかった。

 部屋着に着替えることもせず、ブレザーの上着だけを脱いで、私はそのままベットに倒れ込みました。

 身体が酸素を欲しがるまで布団に顔を埋めて、あの時の神さんの顔を思い浮かべていると、何とも言えない未知の感覚に襲われるのです。

 ホッとしたように笑いながら、だけど同時に不安だった気持ちから解放された安心で、涙を流していた神さん。

 可哀想な目に遭っているところがみたいとか、急に乱暴したときの反応がみたいだとか、散々最低な想像を膨らませてきたわけですが。

 そんな私の浅ましさは、まるで路傍の石ころのように矮小で。

 神さんの笑顔という巨大な足に蹴っ飛ばされて、何処か遥か彼方に飛んでいってしまいました。 

 私がおとぎ話に出てくるようなバケモノだったなら、きっとあの瞬間に、神さんのことをパクリと食べてしまっていたでしょう。

 それほどまでに、初めて見た神さんのあの表情は圧倒的でした。

 いやまぁ矮小だなんだと言いつつも、私は愚かが過ぎるような非常にどうしようもない人間だと、今日の一件でわかってしまったので。

 数日もすれば、またぞろ神さんの悲惨で卑猥な姿なんかを妄想して、悦に入っているのかもしれませんが。

 さらに言えば厄介なことに、神さんの輝かんばかりの愛らしい笑顔を目にしてしまったので、その笑顔が曇る様なんかを妄想のレパートリーに加え出す恐れさえありますが。

 だけどそんなこと、いまこの時には些細なことです。

 頭に何度も浮かぶどころではなく、まるで暗闇の中から急に太陽を眺めたように、眩い光のような神さんのほころんだ顔が、永遠と脳裏に投射され続けています。

 神さんの破顔した様を見られたことに加えて、酸素が薄くなっているせいで、だいぶ脳がハッピーな状態になっているのでしょうか。

 流石に苦しくなったので布団から顔を上げて、ノソノソと身体を動かしてベットに寄りかかりました。

 そのように仕切り直しても、頭に浮かぶのは神さんのことばかりでした。

 この数日で少しはお近づきになれたかな、とか。

 いつも表情の変化が乏しい神さんの、あの人懐っこい笑顔を見た人はどれくらいいるんだろうか、とか。

 笑顔だけでなく、さらにはあの神さんが、まさか涙を流しているところを目の当たりにするなんて……。

 そんなことをボーッと考えていて。

 この時ようやく、私は冷静さを僅かばかり取り戻し、自らの行いをかえりみることができました。

 私が神さんを泣かせてしまったという事実。

 あのとき、自分の欲求を優先したせいで、誰かに酷い態度を示してしまいました。

 それはどうあっても言い逃れできない卑劣な行為です。

 あの時の私は急に生まれた衝動的な感情に支配されて、かなり混乱していたせいでもあるわけですが……。

 そうであったとしても、未知の情動に足を踏み入れたからこそ生じた戸惑いなんて、誰かを虐げて良い理由になんかなり得ません。

 神さんにとって、ただのクラスメイトでしかない私には、身に余るほどの傲慢な行動だったと思います。

 今後は絶対に我慢してしかるべき感情なのでしょう。

 ……けれど、もし、あのとき感じた情動を抑え続けることができそうにないのなら。

 それなら、どうすればいいのか……どんな関係であれば許されるのか。

 自分の欲望を押し付けても良くて、甘えることを許してもらえる、そんな関係なんて。

 たとえば……恋人、とかでしょうか。

 もし、もしかしたらの話として、私と神さんが恋人という関係に、もしなったとすれば。

 神さんの泣いた顔も、笑った顔も、その全ての愛くるしい感情が私に向けられるとするならば……。

「〜っ!」

 私の顔はもう一度布団の海に潜り込み。

 浅ましい妄想という名の海の中で、はしたなく足をパタパタとバタつかせながら、声にならない叫びを上げたのでした。


◆◆◆

 

 課題が全部終わった。

 私、最強すぎんだろ。

 多分かぐや姫が出した無理難題を悠々と越すようなレベルの、嫌がらせとも思えるほどのプリントの量だったけれど。

 私の優秀さと勤勉さが、先生の想像を上回ったっぽい。

 きっとこのプリントの提出に参ろうもんなら、英語の先生はビックリ仰天で目を回すこと間違いないね。絶対そうだね。

 ……ってのは、課題が終わってテンションが絶好調の有頂天の万々歳な私の大言壮語であるわけだけども。

 それでも……んおわったー! ぃやったー! すごいぞわたしー!

 こりゃもう頑張った自分へのご褒美を、メタクソに奮発せねばなるまいね。

 ということは、ですわ。

 今週末、これまで心の内に秘めてきたあの計画を、とうとう実行に移すときがきたようだ。

 そんな感じでルンルンのまま、寮の部屋まで戻ってきた私だったんだけども。

 シャワーを浴びて少しばかり頭が冷えたことで、ふと思いましたけどさ。

 提出日までに課題を終えることができたのも、主に酉本さんのおかげなんだよなー。

 だからこそ言葉のお礼だけじゃなくて、もっともっと感謝の気持ちが伝わるように、なにか買ってプレゼントしたいなぁと思ったのです。

 酉本さんの優しさに対してお礼したいし、他にも、迷惑をかけてしまったことをお詫びしたい。

 もしかしたら酉本さんは、私なんかと今後も関わるのなんて真っ平ごめんって、そんくらいのことを思ってしまっているかもしれないけれど……。

 私はこれからも酉本さんと仲良くしたいもん。

 いや、もっともっと仲良くなりたいって、心の底からそう思っているくらいだし!

 あと、お礼したいとかお近づきになりたいとか、そんだけじゃなくて。

 あんなクソデカため息を二回もかますほど、悩み事もあるみたいだもんね。

 酉本さんを元気づけるためにも何かプレゼントしたい! 喜んで欲しい!

 そうと決まれば……。

 今週末の計画の一環として、酉本さんへのプレゼントを調達するミッションも加えようじゃあないですか!

 酉本さんへのプレゼントを何にするかとか、今週末に立てている計画のためのリサーチを行うために。

 私はウキウキワクワクしながらスマホをお供にしつつ、解放感に包まれた一人の夜を過ごしたのだった。

 

◇◇◇

 

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