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神はケモノに×される  作者: あおうま
第一章 ながすぎるアバン
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第六十二話 未は静観する

 

◇◇◇

 

 部長が良い先輩で嬉しいってのは、今は一旦置いておいて、後で部屋に帰ったあとで噛み締めよう。

 今あたしが対処するべきは神さんなんだし。

 あたしたちが部室に戻ると、神さんは背筋をピンと伸ばして、お行儀良くイスに座っていた。

 それは飲み物を買うために部室を出ていくとき、最後に見たまんまの光景でもあった。

「遅くなってごめんね〜。部室の中はどうだった? なんか面白いものあった〜?」

「えっ……あっ、いえ。ど、どうでしょう……えへへ」

 部長に声をかけられるまで俯いて机とにらめっこしていた神さんは、キョロキョロとあたりを見回したあと、ぎこちない愛想笑いを浮かべた。

 『本当にちゃんと見学してたんでしょうね……』なんて思いつつ。

 あたしは黙ったまま、さっきまで座っていた神さんの向かいのイスに腰掛けた。

「んまぁいいか。んじゃ親睦会を再開しよ〜か。あっ、好きな飲み物を選んでね〜」

 松鵜(まつう)部長は、どこかぎこちない神さんの様子を特に気にすることもなく。

 買ってきた飲み物を机に置くと、あたしの隣のイスに座った。

「あぅっ、す、すいません……いただきます」

 そう言いながらも神さんは、並んだ飲み物とあたしの顔を交互に、チラチラと視線を行き来させていた。

「……あたしは良いから、神さん先に選んで良いよ」

「あ、ありがとう」

 神さんは遠慮がちにリンゴジュースのパックを手に取った。

 なんか意外だ。

 さっきまであたしと真っ向から口げんかしてたのに、今はそんな勢いはどこにもないし。

 むしろあたしに気を遣ってるくらいだし。

 飲み物だって、お茶とか他のを選ぶと思っていた。

「羊ちゃんどっちがいい〜?」

 あたしたちが飲み物を決めるまで待っているのか、神さんは手持ち無沙汰に手に持ったリンゴジュースを眺めている。

 そんな神さんを観察していたあたしに、松鵜部長がそう聞いてきた。

「あたしはどっちでも大丈夫です」

「そっか〜。んじゃコーヒー貰おうかな」

 そんなこんなで皆に飲み物が行き渡り、歓迎会……っていうには小規模だけど。

 神さんを交えた天文部の、親睦を深めるためのおしゃべり会が、あらためて始まろうとしていたのだった。

 

◇◇◇

 

 始まろうとしていたはずなのに、なんかすぐに頓挫(とんざ)した。

 だって松鵜部長がとっとと退場したんだもん。

 それまでは各々飲み物を開けながらも、松鵜部長の仕切りのおかげでぎこちないながら、会話が開始しようとしていたはずだったんだけど。

「同じ部活入ったんだしさ? せっかくならたくさん仲良くなりたいよね〜」

「はぁ。そうですかね」

 あたしは別に誰かと仲良くなるために天文部に入ったわけでなく。

 むしろ、そういうのから逃げてきているわけなんだけども……。

 けどまぁ、松鵜部長の気持ちだって理解はできる。

 同じ部員同士で仲良くすることくらいは……まぁしょうがないだろう。特別イヤっていうわけじゃないし。

 ただその『仲良く』のお相手となる子はどう思ってんのと、神さんの様子をチラと見ると。

 何を考えてるのか読み取れない顔しながら、アップルジュースをチュウチュウ吸っていた。

「え〜、反応良くないな〜? 二人にだって仲良くしてほしいじゃんかよ〜」

 そんな言葉と共にニヤニヤ笑いながらも、人懐っこく松鵜部長はあたしに軽く肩をぶつけてきた。

 あたしだって中学生のときまでは普通に友だちもそこそこいたし、社交的な方だったと思うけど。

 なんかそんな次元ではないくらいに、松鵜部長はコミュ力高そうなんだよなぁ。

 生徒会でたくさんの人と関わる機会多いからとか、逆にコミュ力が高いから、生徒会って役職で仕事こなせてるのかな?

 まだ天文部に入部して以降、それほど一緒にいる時間は多くないけれど、わりとスキンシップ取ってくるし。

「てことでさ〜……神さん!」

「っ! ぶひゃ」

 自分に話の矛先が向くとは一切予想してなかったのか。

 部長から突然名指しされた神さんが驚いて、口の隙間からアップルジュースを吹き出していた。

 あぁ……みんなの憧れの神さんが口から甘汁吹き出すなんて、滅多に見れないところかもしれない。ちょっとウケた。

「あっ、大丈夫? ティッシュあるから拭きな〜」

「ごひゅっ……ず、ずいまでん」

 ただ流石というべきか、鼻から吹き出すような醜態は見せなかった。

 腐っても神さんというべきか……あ、いやちょっと鼻水も出てるじゃないの。すぐ拭いちゃったけど。

「よしよし。そんで神さん〜、誰かと距離を詰める簡単な方法があるのだけどね?」

 神さんがこぼしたジュースを拭き終わるのを待ったあと、仕切り直してそんな発言をかました部長だったけど。

 残念ながらこの先輩、神さんの人となりをあまり理解していないようね。

 クラスでも寮でも、ずっと一人を貫いているような子だもん。

 きっとコミュニケーションの攻略法なんてもの、一切まったく興味なんてないでしょ。

 だがしかし、孤高だなんだと噂されてるはずの神さんは……。

「そそそそそん、どん、どんな方法ですか!」

 あたしの予想に反して目をキラキラさせながら、テーブルの上に身を乗り出して聞き入っているご様子だった。

 えっ、どして?

「お、おう! ちょいビビったけど良き反応だ〜。それはね……」

「は、はい! そ、それ、それ、それ、それは!?」

 なにこれ? なんだこの二人。

 まず松鵜部長、焦らしすぎです。

 なぜか興奮してる神さんが不憫だから早く教えてあげてよ。コマーシャル前のクイズ番組じゃあるまいし。

 あと神さん。あんたはどうした?

 いつもの無愛想で無表情な神さんは別人なの? 興奮しすぎて祭りの掛け声みたいになってるの、マヌケにしか見えないから落ち着いて?

 二人の独特なノリについていけないあたしは置いてけぼりのまま。

「それは……ズバリあだ名! 呼び方を変えると、人と人は急接近します〜!」

「そ、そんな……しゅごい!」

 置いてかないでー……いやいいや、黙ってよ。

 見てるだけでも恥ずかしいのに、あたしもこのノリについてくのは無理よ。てか乗り方がわかんないし……。

「でしょでしょ〜。ということで……神さんも羊ちゃんのこと、『羊ちゃん』って呼んでいこ〜」

「うえっ!?」

「……はい?」

 てっきりあたしは無関係で、松鵜部長が神さんにあだ名でもつけるのかなって思っていたのに。

 なんと渦中の当事者は、あたしと神さんらしかった。

「さっき羊ちゃんの名前を噛んでたじゃん? 気持ちはわかるけど、毎回そうなるのも良くないでしょ? だから神さんもさ〜……」

 突然なにを言い出すんだと。

 松鵜部長がその全てを言い終わるのを待っていた、そんな途中で……。

「……松鵜いる? そろそろ戻ってきて欲しいんだけど」

 そんな言葉とともに、一人の生徒が天文部室に入ってきた。

 顔は一度見たことがある。

 たしか松鵜部長と同じ生徒会役員の、梅鶯(ばいおう)先輩……だったはず。

「うげ〜、良いとこだったのに。梅ちゃんタイミング悪いよ〜」

「知んないわよ。良いから早く来てよ、仕事溜まってんだから……あれ? 松鵜、その子って……」

 それまでは用のある松鵜部長しか見えてなかったんだろうけど。

 同じ部屋にいた予想外の人物に気付いた梅鶯先輩は、神さんを指差しながら少し驚いた顔をしてた。

「ちっ、見つかったか〜。わかったわかった、一緒に戻ろ〜」

 そんな梅鶯先輩の反応になにを思ったか。

 あたしの前ではいつもニコニコしている部長からは、まるで想像もできないような苦い顔と舌打ちをした上で。

 松鵜部長は梅鶯先輩を引っ張って、天文部室から出て行こうとし始めた。

「いや、あれ例の子でしょ? 竹雀(たけすずめ)が異常に惚れ込んでるっていう……」

「しっ! いいから出て出て〜。ごめん羊ちゃん、神さんも。あとよろしくね……あっ、仲良くね〜」

 なんか二人してゴニョゴニョと内緒話をしながらも、最後にあたしたちに向かってそれだけを言い残して。

 松鵜部長と梅鶯先輩はとっとと退散していっちゃった。

 そして天文部室には、またもやあたしと神さんだけが残されてしまったのだった。

 

◇◇◇

 

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