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神はケモノに×される  作者: あおうま
第一章 ながすぎるアバン
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第六十話 神は対抗する

 

◆◆◆

 

 ついさっき自覚したことなんだけど、どうやら私は自分より身長が小さい子相手だと、あんまり緊張しないらしい。

 たしか子日(ねのひ)ちゃんと初めて会話した時も、未口(ひつじぐち)さんと話してる時みたいに、自然と敬語を使わず話せてた気がする。

 それはどうしてかって考えると、もちろん敬っていないとか、下に見てるってことではなくて。

 私ったら精神的に達観してるというか、大人びているところがあるから、そういう性格ゆえになんだろうな……。

 未口さんも子日ちゃんも私より身長が小さいし。

 幼く見える二人には、ついついお姉さんとして接してしまうのかもしれない。

 さっきまで未口さんは、私の入部をあまり歓迎していないような感じを出していた。

 そのせいで私もちょびっとだけ傷ついたけれど、私は未口さんより身長が高いお姉さんだからね。

 そんな天邪鬼なところもさ、ぜんぜん余裕で許してあげないとね。

「私のことが『好き』で、『どうしても入部して欲しい』って。そう言ってくれたら信じてあげようかな……」

 私が傷心しながら部室を出て行こうとしたら、未口さんは焦って引き留めてきたし、迷惑でないとも言っていた。

 それなら、それを素直に言ってもらいたいし。

 それに私はお姉さんとして、さっきみたいな捻くれた態度も良くないよって教えてあげないといけないのだ。

 でもなぁ……未口さんは見るからにオシャマちゃんだし、意地っ張りそうだしなぁ。

 もしかしたら未口さんはそんな私の殊勝な心意気も、さっき生意気な態度を取ったことへの仕返しとか、意趣返しだとか誤解しちゃってるのかもなぁ。

 それは思い違いだし、そんな誤解されるのも本当に心外だよ!

 実際に目の前の未口さんは何やら納得いかないって顔をしながら、素直に気持ちを出すことに躊躇っているようだし。

 まさに『ぐぬぬ……』とでも言い出しそうに、可愛らしくジトっとした目で私を睨んでいる。

 ほれほれ。とっとと素直になっちゃいなよ?

 幼い妹を可愛がっている世間のお姉ちゃんたちも、きっといまの私のような気持ちなんだろうな。

 私は一人っ子だから、初めて味わう姉妹感情を味わいながら、ニヤニヤと未口さんを眺めていると……。

「……な、なんであたしがそんなこと言わなきゃいけないのよ!」

 そう声を荒げて言いながら、未口さんはプイッと顔を逸らしてしまった。

 おやおや? そんな反抗的なことを言っちゃってー。

 素直に私に『入部して欲しい』ってお願いするのが恥ずかちぃのかなぁ? 可愛いでちゅねー。おほほ。

 目の前で頬を膨らましてプンプンとむくれている、未口さんの様子があまりにも可愛かったから……。

「……よちよち」

 そう言いながら、未口さんの頭をナデナデしてあげた。

 パーマをかけているわけではないのなら、おそらく生まれつきの髪質なんだろうけど。

 未口さんの髪はフワフワしていて、彼女のあだ名にピッタリな柔らかさと温かさだった。

「ちょっ……はぁ!? なに、なにしてんのよ!」

 美少女の髪の毛の感触を堪能しているのも、まぁちょっとはあったけれど。

 メインの目的としては、未口さんの拗ねてしまった機嫌を宥めてあげるために、私が撫でてあげていたっていうのに。

 未口さんは頭を撫でていた私の手を跳ね除けて、何故か怒りながらワーワーと騒ぎ始めた。

 えっ、なんで?

 ナデナデされたら嬉しいんじゃないの?

 好きな相手だから撫でてくれるんじゃん。だから私も頭を撫でてもらえるの嬉しいのに……。

「てか『よちよち』ってなによ! 子ども扱いするんじゃないわよ!」

 あぁ、なるほどね。

 格好つけて大人ぶりたいお年頃ってやつなのかぁ。思春期特有のやつね。

 私は精神的に成熟しちゃってるし、そんな思春期の段階とかはすでに過ぎちゃっているけれど。

 だからこそ未口さんの気持ちも、ちゃんと理解してあげれるよ?

 背伸びしたい難しい年頃な未口さんにとって、頭ナデナデはプライドが傷ついちゃったんだよね? メンゴメンゴ。

 そんな心の機微に配慮してあげられなかった自分のせいだなと反省しながらも。

 未口さんに弾かれた手を撫でながら、ニコニコと微笑ましく見守ってあげていた私に向かって……。

「なにニヤニヤ笑ってんのよ! 子どもあつかいとかっ……神さんの方があたしよりチビなくせにっ!」

 未口さんは私に向かって、そう言い放ったのだった。

 ……はぁ? 今なんて言ったこのチビ女?

 未口さんのその一言が試合開始のゴングとなり。

 放課後の人気の少ない辺鄙な一室で、幼いチビっ子同士の醜い争いの火蓋が切って落とされたのだった。

 

◇◇◇


 きっと校舎のいたるところでは、のんびりと穏やかな雰囲気で放課後を過ごしている子たちがいたりするのかもだけど……。 

「だから絶対に私の方がおっきいって言ってんじゃん!」

「何回言えばわかんのよ! 神さんの方が絶対チビだから! 神さんなんて子日さんよりちっちゃいわよ!」

 よそ様のそんな平和さとは比較できないほどに。

 激しい言い争いのせいで、天文部室の空気は盛り上がっていた。

「はぁ〜!? それはそっちじゃん! 可哀想だから言わなかったけど、そっちのが絶対子日ちゃんよりちっちゃいから! クラスで一番チビだから!」

「はぁっ!? 神さんが一番チビよ! 間違いないわよ! みんなそう思ってるし!」

 私たちの口論が始まってから何分経ったかなんて、そんなこと考える余裕なんざなかったけれど。

 私も未口さんもお互いに引くことなく、言われたら負けじと言い返すといった争いを続けて、幾ばくかの時間が過ぎた頃。

 口げんかをしていたせいか、私たちは教室に近づいてくる彼女の足音に気づくことができなかった。

「……なんで早速ケンカしてんの〜?」

 急に聞こえた第三者のそんな声に、私たちは虚を突かれたようにビックリしながら、声の聞こえた部室の入口に目を向けた。

 ……えっ? だ、だれ?

 話しかけられるまで全然気づかなかったよぅ。

「ぶ、部長……」

 だけど目の前で私と同じく驚いていた未口さんの漏らした声のおかげで、この人が誰か察することができた。

 多分この天文部の部長さんなんだろう。

「よしよし、落ち着いたかな? 廊下を歩いてても二人の声が聞こえてきたよ〜。どんだけヒートアップしてんのさ〜」

「うっ……」

「うぐっ……」

 たしかにちょっとだけ我を忘れて熱くなりすぎていたかもしれない。

 お母さんが身近にいなくなって、久しぶりに言い争いなんかしたもんだから、うまく感情がコントロールできなかった。

 でもそれも、目の前のクラス一のチビっ子がいろいろ生意気を言ってきたせいだし!

「なんでケンカになっちゃったの? 先輩に話してごらんよ〜?」

 『この部長さん、随分ゆったりとした話し方やんな』などと思いながら。

 部長がどっちが悪いか判断してくれるならと、私たちは我先にと同時に口を開いた。

「だって神さんがチビって言ったから!」

「だってひちゅじぐちさんがチビって言ったから!」

「……保育園児かよ〜」

 このチビっ子ったら言うに事欠いて、私に責任をなすりつけて来やがってと憤慨して目線を移すと。

 同じことを思ったのか、未口さんも私を睨んできたため、私たちの視線がバチバチと交錯した。

 てか名前とっさに言いにくいねん!

 噛んじゃったじゃん、恥ずかしい! 私にも『羊ちゃん』って呼ばせろぉ!

「はいはいどうどう〜。んじゃまず羊ちゃんはさ〜、身長何センチなの?」

「……だいたい百七十センチは無いくらいですけど!」

 部長さんの確信をついた問いかけに、未口さんは曖昧にはぐらかすような答えで、お茶を濁そうとしていた。

 せっこ! セコすぎだよ未口さん!

 しかも絶対に百六十センチすらないのに、ちょっと盛って『百七十』とか言ってるし!

「そ、そっか……んじゃ神さんは何センチ〜?」

「……おおよそ四捨五入したら二メートルくらいですけど!」

 嘘は言ってない。

 一の位を四捨五入したあとに、十のくらいを四捨五入したら、バッチリ二メートルである。嘘は言ってない。

「ふ〜ん……それなら今から測りに行こっか? 保健室ですぐに測れるしさ〜」

 流石に私たちの回答ではジャッジすることが出来なかったんだろう。

 部長さんはそう言って、私たちを勝負の場に誘ってはきたんだけども……。

「いや、それはちょっと……ねぇ?」

「うん。そこまでするのは……なんか違う気が……」

 私たちは部長さんから目を逸らし、ゴニョゴニョと煮え切らない感じで口を濁した。

「……なんで二人して、白黒つけるのにはビビってんのさ〜」

 いや、ビビってるとかでは、決してなくてですね。

 『そんなんしたら未口さんが可哀想でしょ……』って思ってのことだから。

 決して怖気付いてるとかでは……ないんですから。

 さっきまでのバチバチにやり合っていた雰囲気は、部長さんの登場により一掃されはしたけれど。

 口ゲンカしてたのを見られた恥ずかしさとか。

 他のいろいろと複雑な感情を含んだ気まずさなんかを抱えながらも。

 これから入部することとなる天文部の人たち全員と、私は顔を合わせることができたのだった。

 

◆◆◆

 

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