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神はケモノに×される  作者: あおうま
第一章 ながすぎるアバン
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第五十八話 未は低迷する

 

◆◆◆

 

 昔から周りの大人たちは、あたしのことをチヤホヤと甘やかしてきた。

 両親も、歳の離れた兄や姉も、親戚のみんなも。

 私が一番年下で一番可愛かったから、可愛い可愛いと褒めちぎってくれた。

 大して良くもない成績でもすごい褒められたし、学校の授業で絵など描こうものなら、上手だ天才だと口々におだてられた。

 あたし自身の性格が頭に乗りやすいのもあったんだろうから、全部まわりの大人のせいだとか言うつもりもないけれど……。

 そういった育った環境も原因となり。

 あたしの自己肯定感はとても高くなったままで、大人たちから離れて、この学校に入学してしまった。

 その結果……。

 現在あたしは校舎の隅で、クロスワードパズルなんぞをひとり寂しく解きながら、放課後の暇な時間を潰すハメになってしまったのだろう。

 入学した当初は、私は優秀だし、新しい学校でも活躍することなんて簡単だとか、余裕綽々に思っていたけれど。

 委員長のように勉強ができるわけでなく、小テストの結果だって振るわず。授業にだって、なんとかついていけてるような状況だし。

 巳継さんが過去に絵での受賞歴があると小耳に挟んだから、こっそり検索してみたら。あたしなんぞの描いた絵とは雲泥の差があったし。

 さらに極めつけには……。

 彼女の容姿や数多ある逸話により、とにかく大人気の神さんなんていう、とんでもない子だって同じクラスにいちゃってるわけだし。

 井の中のちっちゃなカエルだったあたしは、今までの環境から離れることにより、自分が大層な人間でないことを理解してしまったのだった。

 ながーく伸びきった自信がポッキリと折れたせいで。

 いま以上に、自分が大したことない人間であるってことを目の当たりにするのを恐れてしまい……。

 校舎の片隅で細々と活動するようなこの部活に、最終的に流れ着いてきてしまったのだった。

「……んーっ」

 暇つぶしに解いていたクロスワードも早々に詰まってしまって。

 休憩しようと身体の凝りをほぐす為に伸びをすると、部室のスミに置かれたソレが目に入った。

 部活の名前的に、名目上とりあえず置いてますって感じで鎮座している……もはやただのオブジェと化してしまっている、埃だらけの天体望遠鏡。

 星とか惑星なんてものに、今まで一度だって興味を抱いたことはないけれど。

 部員がそれぞれ持っている自分の才能とか能力を発揮することもなさそうで。なおかつ、部員自体が全然いないからといった理由によって。

 あたしはこの天文部に、入部を決めたのだった。

 

◇◇◇

 

 四月半ばになってまで、あたしは一向に部活を決めることもできず。

 きっとあたしがクラスで……いや入学生のなかでも、部活をウジウジと決めかねている最後の人間なんだろうなと焦っていたとき。

 そうこうしているうちに、とうとう猫西先生に呼び出された職員室で。

 どうとでもなれと投げやりな気持ちで、あたしは一番部員の少ない部活に入ることをその場で決めた。

 わざわざご丁寧にも各部の部員数を調べてくれた上で、猫西先生から紹介されたのが……この天文部だったというわけである。

「こ、この部屋ね」

 その次の日の放課後。

 猫西先生が天文部の部長に話をつけておいてくれるとのことで。

 部室の場所を教えてもらったあたしは、天文部の部室前までやってきた。

 そもそも何で天文部を紹介されたかっていうと、そりゃもちろんあたしの希望通りで、部員が少ないことがその理由ではあったんだけど。

 なんと現在の部員が、部長の先輩たった一人だけらしい。

 さらにその先輩とやらも生徒会に入っているらしく。

 基本的にそっちで活動しているために、天文部室も時々しか使っていないと猫西先生は教えてくれた。

 わずかに緊張する気持ちを落ち着かせ、一応のマナーとして、天文部室のドアをノックした。

「……は〜い。どうぞ〜」

「失礼します」

 ドアを開けて部室に入ると、まず一番に目に入ってきたのは、ドアのそばに置いてあった天体望遠鏡だったんだけど。

 半透明な袋が被せてあり、さらにはうっすら埃が積もっているように見えた。

「はじめまして〜。ひつじぐ、未口(ひつじぐち)さんだよね? 猫西先生から聞いてるよ〜」

 声が聞こえた方に目を向けると。

 だいぶゆったりした声で話しかけてきた、おそらく部長の先輩が一人だけ椅子に座っていた。

「はじめまして。未口です。えっと……よろしくお願いします」

「うん、よろしくね〜。あっ、そこ座って座って〜?」

 部長の目の前の席を促されたから、言われるままに座ったあと。

 改めて自己紹介でもした方がいいのかなと、口を開こうとしたけれど。

 あたしが声を出すより先に部長が口を開いた。

「天文部の部長の松鵜(まつう)です〜。よろしくね〜」

「……未口です。よろしくお願いします」

 松鵜先輩はフレンドリーに手をヒラヒラさせていたけど。

 こっちは一応後輩なんだし、しっかり頭を下げてそう挨拶をした。

「そんな堅苦しくしないでいいからね〜。そんでひつじ、ぐちさんは……あのさ〜、ひつじちゃんって呼んでもいい? あだ名あだ名〜」

 何かを聞こうとしたけれど、途中で別のことが気になったようにも見える様子で、先輩は親しげにそんな提案をしだした。

 まぁ自分の名字がちょっと発音しにくいかもって自覚はあるし、それは全然構わない。

 それにしても、クラスや寮だけじゃなく部活でも、さらに言うなら中学でだって一貫してそのあだ名をつけられるのね……。

 別にいいんだけど。

「はい。好きに呼んでください」

「うんありがと〜。そんで羊ちゃんは星に興味あるの? だとしたら悪いんだけど、ウチの部活そういう活動はしてないんだよね〜」

 『天文部なのに、星とかについての活動をしないとは?』とも思ったけれど。

 さっき目にした天体望遠鏡が、何よりその事実を雄弁に語っていたもんね……。

 まぁ別にそれならそれで、あたしからしてもありがたいことなわけで。

「大丈夫です。あたしも全然、星に興味ないので」

「……っぷ。あはは〜、それなら安心だね。んじゃ改めてよろしくね〜」

「はい。よろしくです」

 ひとまず部長とは挨拶を交わして、無事に初対面を済ませることができた。

 あたしの天文部での入部初日は、そんな感じで幕を下ろしたのだった。

 

◇◇◇

 

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