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神はケモノに×される  作者: あおうま
第一章 ながすぎるアバン
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第四十三話 巳は嘯く

 

◇◇◇

 

 次はうちが背中乗せてもらう番やと思ったけど……大丈夫?

 神さんポッキリ折れてまうんやない?

 そんな心配をしながらも背中を逸らすと。

 体育館の天井がちょい見え始めたくらいんとこで、「ぐっ……!」という悲鳴とともに神さんの体が固まった。

「も、もう無理? ここまでにしといた方がええ?」

「むり……むり、む……り」

「あ、あいー」

 いやこれ、うち柔軟なっとらんわ……。

 てか神さんもさっきから全然柔軟できてへんし。たつみーはペア組んどったとき、どうしてたん?

 毎回これでなんも言わんかったんかいな。

 ほんのちょいと背中逸らすだけのお遊びを終えて、次の柔軟するために神さんと向かい合った。

「ゼ、ハー……ゼハァー」

「だ、大丈夫? ちょっと休憩しよか?」

 うちの提案にコクコクコクコクとうなづく元気はあるみたいや。

 いやでも普通、柔軟に休憩いらんやろ。てか疲れすぎやで。サボりもんのキリギリスのがまだタフやん。

 ペタンと腰を下ろした神さんの隣にうちも座り、チラと周りを見渡すと、みんなまだ真面目に柔軟しとる。

 せやせや、見てみい神さん。アレがホンマの柔軟体操いうもんなんよ?

 まぁ神さんも真面目にはやってるっぽいから言わんけどね。可哀想やし。

 たつみーも遠くの方でまじめに柔軟しとった。えらいえらい。ようやっとる。

「……す、すいません。いつもはもっと、ちゃんと出来るんですが」

「ホンマかいな?」

 あ、やば。つい突っ込んでもうた。

 たつみー見ながら、ボーッと昨日の夜んこと思い出しとったせいや。

 『ちょっと言い方キツくなってもうたかな?』と神さんの方を見やると。

 キツめの言い方よりはそん内容にムッとしたのか、口をちょっと尖らせてむくれているようやった。

「うぅ、ホントだもん。辰峯さんとする時はもっと……」

 へぇー。

 たつみーとの方が良くできるって?

 へぇー……ふーん?

 うちよりもたつみーのがいいってこと? ほーん?

「……なぁなぁ神さん? ホントは最初たつみーと組みたかったんやろ?」

「へっ? い、いえ……でも、巳継さんが誘ってくれたから……」

 この子も大概ウソをつけん子みたいやなぁ。神さんといいたつみーといい、うち素直な子は好きやで?

 けどそんな微笑ましいんも、今はちょっと考慮できんわ。

 普段は温厚で気ぃ長いうちやって、まさか仲良くなりたい子から『別の子がええ』みたいなこと言われたら、ちょっと意地悪したくもなっちゃうやんなぁ?

「そっかー、そりゃ悪いことしたなぁ。神さんはうちよりたつみーのが良かったんかー」

「ち、ちがっ! 私は巳継さんとペアになれて……あの……」

「でもなぁ? 神さんはそう思うとったかもしれんけど、たつみーからは昨日オッケーもらったんよ?」

「……えっ?」

 神さんはうちの言葉を聞いて、ポカンと口開けてちょっと驚いたようだった。

 うちは昨日たつみーから話を聞いてたからね。

 神さんからしたら、泣くほどにはたつみーからハシゴ外されたんがショックやったみたいやしな。

 ふーん? なんかそう思うとちょっとムカムカしてきたわ。

 たつみーとは世間話するくらい仲良ぉできて、うちとの柔軟んときは、あんま話しかけてくれんと唸ってるだけやったもんなぁー。

「うちが今日は神さんと組もかな―って聞いたらな? たつみーもいいよーって言ってくれたんや。勝手にしてええよーって」

「……へ、へぇー」

「だから、たつみーんことは気にせんでええよ? あとでウチからフォローしとくしな? ほら、うちとたつみー同室やし、メッチャ仲ええし」

「むぅ……」

 まぁちょっと端折ったけど、嘘は言っとらんし。

 それよりもこの子、実はけっこう感情表現わかりやすいやん。

 こんなわかりやすい拗ね方する高校生ほかにおらんやろ。ムーってほっぺ膨らして、なんともまぁ可愛えことで。

「で、でも! 私も結構、仲良いと思いますけどね? 何回もペア組んでるし……」

 おっ、対抗してきた。

 でもそれは『たつみー』と、っていう意味やもんなぁ?

 やっぱまだ、うちよりもたつみーのが気にかかってるんや?

 まぁ過去は変えられんし、うちと神さんはまだこれからやから別にええんやけど。

 どうせあの堅物よりは、うちのが気に入ってくれるようになるやろうし。

 今はたまたま水をあけられとるかもしれんけど、これからいくらでも巻き返せるしな。

「へぇー。神さんもたつみーと仲良しなんやー?」

「そ、そうですけど? 一緒に登校したり、ご飯食べたりとか……したもん」

 はぁ? 

 ずっるいわ、あの女。昨日は一緒にご飯したなんて言ってへんかったやん。

「ほぉーん? んじゃ連絡先とかも交換したん?」

「……いえ」

 よし。

 ええやん。あの女、よぉー(わきま)えてるわ。

 流石にそこまでズルしてなかったか。

「えっ、そうなん? うちはたつみーとLINEしとるけど、神さんしとらんの!?」

 クッサイ演技やけど、めっちゃ意外そうに大仰に驚いたフリをして神さんを煽ると。

 神さんはリンゴみたいにプクッとほっぺを膨らまして、不機嫌そうにむくれだした。

「……」

 あぁ顔逸らしてぇどしたん。そっぽむかんで顔見せてよ?

 今度はどんな可愛い顔しとるん?

 拗ねてるん? 泣きそうなん?

 あぁでもごめんなぁ。ちょっと興が乗ってもうて、口が止められそうにないわぁ。

「んじゃたつみーのほかはー? 誰か仲ええ子おるん? なぁなぁ、おるん? 教えて教えて?」

 いうて神さん、ホンマにいつもひとり行動やしな。

 誰かと話しとるとこも、たつみー以外でほとんど見たことないし。

 たつみーさえ超えちゃれば、うちが一番仲ええってことやろって、そう思ってたんに……。

「……うづきしゃん」

「えっ? 卯月?」

 ここでその名前がでてくるとは思わんかったわ。

 あいつも陰で神さんにちょっかいかけとったんか?

 あのギャルなんだかんだ優しいし結構ええ奴やと思ってたのに、裏ではやることやってるやんけ。

「へ、へぇー……んじゃ卯月とはLINE交換したん?」

 そう聞くと、神さんはフルフルと微かに首を振って答えてくれた。相変わらずそっぽを向いたままやったけど。

 よし。これはもしかしたら、もしかするんか?

 まだ誰も神さんの連絡先知らんのちゃう?

「そ、そうなんかー。て、てか、もしかして神さん……まだ誰とも交換しとらん……とか?」

 あぁ、目に見えて落ち込んどる!

 こんなん返事を聞かんでもわかるわぁ!

「そ、そうなんかー! ゴクッ……ん、んじゃ神さん! それじゃ寂しいやろうし、うちとLINE……」

「み、つ、ぎ、さん?」

 さっきペアに誘ったとき以上に緊張しながらも、連絡先の交換をお願いしようとしたところで……。

 なんやキッツイ猫撫で声と共に、ガッとうちの肩を誰かが掴んだ。

 あぁクソ……いつの間に近づいてきてたんや。

 無視しようにも、とんでもない力で無理くり振り向かせられた視線の先に。

 案の定、いまは見たなかったたつみーがおって……。

「いつまでサボってるのかしらー?」

「サ、サボっとらんし? ほら、まだみんな柔軟してるやん?」

 周りをみると、確かに柔軟を終えてマットの方に集まってる子もおるけど、まだうちらみたいにのんびり柔軟しとる子もおるし?

 だけどそんな訴えも、まるで意味をなさんようで……。

 どこで培ったんやとツッコミたいほどの怪力で、たつみーはうちと神さんを物理的に引き離してきよった。

「やっぱり巳継さんじゃ、ペアにふさわしくなかったみたいねー? あ、神さんは気にしないで柔軟終えてね?」

「ちょっ、いたっ! 痛いて、何すんねん! まだ終わっとらん! 神さんにまだ用事あんねんてぇ!」

 グイグイとひきずられるように引っ張られながら、神さんに手を伸ばすも。

 神さんは急に現れたたつみーに驚いたのか、うちらのことをポカンとしながら見送っていた。

「用事なんて済ませなくていいのよ? 途中からぜんぶ聞いてたからねー?」

「いやこわっ! なんやこの女!」

 最悪なことに、うちは神さんをいじめただけみたいになってもうたし。

 さらには連絡先は聞きそびれるし、その後たつみーはおっかなく怒ってくるしで。

 せっかく神さんとの初絡みやったんに、散々な目にあってもうたわ……。

 これは、アレですわ。

 いつも誰かをからかって楽しんでたのとか、神さんを可愛がろうとイジって悦に入ってた罰があたったんやと思います。

 流石に反省させてもらいますわ……はい。

 

◆◆◆

 

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