表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神はケモノに×される  作者: あおうま
第一章 ながすぎるアバン
41/302

第四十一話 巳は装う

 

◇◇◇

 

 たつみーからの視線を感じるものの、今だけは一旦無視させてもらうわ。

 神さんの後ろに並んでいた子とすれ違いながら、一直線に神さんのとこまで歩いていく。

 徐々に神さんの顔が近づくにつれて、あぁこれはアカンやつやとマジマジと思わされた。

 こんな顔がこの世に存在するんかいな。ちょっと常軌を逸している気もする。

 だってそうやろ?

 普通は人には好みっちゅうもんがある。

 整ってるのが好きな子もおれば、不恰好なのが好きな子だっておるんやろうし。うちらくらいの年頃の女の子なんか、その幅がみんな全然違っても当然なのに。

 漫画やアニメじゃないんやし、誰もが夢中になる顔が存在するなんておかしなことなのに。

 にも関わらず、人の好みなんて些細なもんだと、そんなん無関係に寮でもクラスでもみんなからキャーキャー言われるなんて普通じゃなさすぎる。

 そんな普通じゃない子が実際に目の前にいるんやもん。この子は本当にうちと同じ人間なんやろか。

 うちが神さんの横から近づいた時、神さんもうちに視線を向けてきたから、意を決して声をかけた。

「……なぁなぁ、神さん。ちょっとええ?」

 うちには珍しく緊張してる気がする。

 そもそもマトモに話すんも初めてやし。

 神さんの声すら、あんま聞いたこともないもん。だって神さん、いつもひとりやからなぁ。

「ぅえっ、あっ、えっと……」

 う急に話しかけられたから戸惑っとるのか、神さんはなんかマゴマゴしとった。

 ちょっと時間が空き、どんな返事が返ってくるんか、そもそも返答してもらえるんかとか考えながら、その間もドンドン増しつつある緊張感を落ち着けながら待っとると……。

「あ、あの……はい。大丈夫です……」

 ちゃんと言葉が返ってきてくれたわ。よかったー。

 てか絶対にこの子、たつみーのことチラチラ見てたな? 意外にもわかりやすい子やん。

 まぁうちは昨日たつみーとのこと聞いてたから、神さんの視線の先が誰かってのがわかったんやろうけどもね。

「そお? よかったわー。そんでなー? ちょっと神さんにお願いがあるんやけどー」

 神さんがたつみーのこと気にしとることは、いま自分の目で見てなんとなくわかったけれど。

 さんざんたつみー煽りまくってもうたし、こっちかて引くわけにはいかんのや。

 昨日気づいたけど、たつみーは取り乱してる方がオモロいし。逃げ帰ってたつみーに鼻で笑われるのも癪やし。

「うち、神さんともっと仲良くなりたいんやけどなー? せやから今日……うちとペア組んでくれん?」

 なんか恥ずいわ。

 こんな正面切って誰かのこと誘うなんて。今までなかったし。

 たかだか授業のペア組みやで? 好きな子デートに誘うわけやないのにな。

「……えっ? うえっ!?」

 うちのお誘いがあまりにも予想外だったのか。

 神さんはおっきい目を、さらに大きく見開いてビックリしとった。

 いや、いちいちそういうかわ……初めて見るような顔すんのやめて?

 なんや体温上がってきたわ。

「わ、私と……ですか?」

「うんうんー。神さんのこと誘っとるんよー?」

「……っわ、わぁぁ」

 いや待って待って。なにその嬉しそうな顔。ホンマ待って?

 たかだか一回『ペア組もー』って誘っただけやで?

 なんでそないニコーってしてんの。

 お口ムニャムニャさせてなに? もしかしなくてもうちが誘ったの嬉しいん?

 うちは思わず顔を逸らしてしもた。

 アカン! なんか直視できん!

 ぶっちゃけ『なにアホみたいにみんなして夢中になっとんのや……』って小馬鹿にしてたわ! みんなスマン!

 今まで自分には無関係やと、遠巻きに見とっただけやったからなうち。

 これは関わろうとすればするほど沼るやつかもしれん!

「組みます! ペア!」

 ……えっ? ええの?

 そんなあっさり……たつみーは?

 チラと視線をたつみーに向けると、あの子めっちゃうちらの動向監視しよるけど。

 あんなんなってるたつみー、放っておいてええの?

「あっ! ちょ、ちょっと待って……くださいね?」

 あぁ良かった。

 うちが目ぇ向けてる方を神さんも見たから、たつみーのこと思い出したっぽい。

 いや、良かったてなんやねん自分。たつみーのこと嫌いやないし、忘れられてて可哀想で同情したんか。

 なんかめっちゃくちゃ葛藤しているように見える神さんは、「ど、どうしよ……」とか小言つぶやきながら考え込んでしまった。

 よし。この怪物と視線さえ交わらせなければ、うちだっていつもの自分らしさ発揮できるんよ。

「えぇ……やっぱうちと組むのイヤとかー?」

 意地の悪いうちは、用意してきた台詞をようやく口にした。

 さっき即答された時には、神さんを籠絡するために考えとったいろいろんが無駄になるかと思ったけどな。

「いやではないです! でも、先に組もうとしてた人がいまして……」

「それって、いっつも組んでるたつみー?」

「はい……だから巳継さんとは……うぅ。でも組みたい……っぱい大きぃし……」

 最後はモゴモゴしてたせいで、よぉ聞こえんかったけど。うちと組みたいってのは確実に言ってくれてたな。

 そんな唸るほど悩んでくれてんのかー。

 なんか、なんやろ、アレやな?

 照れるってか、めっちゃ嬉しいってか。

 いや待て待て自分。一旦思い出しぃや。

 この子はやっぱり、実はめっちゃタラシかもしれんやん?

 直接はなして気づけたけど、初めて話してこんな嬉しい気持ちにさせられることあるか?

 わざとやってるかもしれんやん? うちのことも、あの意志弱委員長と一緒にタラシこもうとしてるんちゃうんか?

 それを確認しにきたんやろ。なに些細な一言で舞い上がってんねん。

「……でもうちは神さんと組みたいなー? ダメ?」

 そういう籠絡するとか揶揄うとかっての。

 うちはされるよりする方が好みやねん。バトルやバトル。

「うぅ、でも、辰峯しゃんが……」

「別に今日組まんでも、これからもたつみーと組む機会はあるわけやん? なぁ、ダメ? やっぱうちと組むのイヤなんかぁ……悲しいわぁ」

 わざとらしく両手で顔を多い、指の隙間からチラと神さんを覗き見た。

 とんでもなく演技かかったクッサイ仕草やで?

 神さんもうちと同じような性格なんやったら、『なんやこいつ……けったいやな』みたいな目で見てくるやろ?

 ……めっちゃアワアワしとる。そんなのズルイやろ。なんやこれ。うちの負けや。

「どうしよ……このままじゃうち、一人あぶれてしまうなぁ。あぁ、神さんのせいとかじゃないから全然気にせんでね? はぁ、どないしよ。泣きそうやわぁ」

「えっ、ちがっ! 違いますから! いやとかじゃなくてっ! あぅ……な、泣かないでくださぃ……」

 むしろ指の隙間越しに見える神さんの方が泣きそうになってた。

 すまん。今のはマジでからかっただけや。

 アワアワしとる神さんめっちゃ可愛い……いや、面白いし。

「……あの、組みます! 私、巳継さんと!」

「え ホンマ!? ありがとぅなぁー。神さんめっちゃ優しくて助かったわー」

 感謝の気持ちを伝えるために、顔を覆ってた両手を顔から離して神さんの手を握ろうとしたけど、すんでのとこでやめといた。

 ビビったり恥ずかしがったわけではない。

 まだ手ェ握るのは早いやんなと思っただけやから。

 まだそこまでは、流石のうちでも馴れ馴れしくなれんわ。礼儀や礼儀。

「い、いえ……あの、優しい? 私が、ですか?」

「そやでー。神さん優しいやん? うちのためにペア組んでくれるんやからー」

「私、優しい……ほ、褒められた……えへへ」

 チョロ……いのかチョロくないのかは、ちょっとまだ判断できんけど。

 ちょっと褒められただけで照れ笑いしてるのは……もうええわ。言い訳すんの無理や。

 可愛いが過ぎるやろ。

 ほんまいい加減にして?

 なにこれ? なにこの子? 価値観も性格もバグるわ。

 うち今まで生きてきてこんな性格ちゃうかったやん。

 冷めてるとか斜に構えるとか、飄々としてるんがうちのアイデンティティやろ?

 もうええわ。なんや馬鹿らしいわ。可愛いは可愛いでええわ。

 ドチャクソ可愛いわこの子。

 たつみーと部屋交換してくれんかな……いや、それは流石にたつみーに失礼か。

 すまんたつみー。脳がバグってたせいや。つまり神さんのせいや。

 なんやちょっと世界がグルグルする感覚に襲われながらも。

 うちは神さんのペアの座を、たつみーから奪い取ることに成功したのやった。

 

◆◆◆

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ