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神はケモノに×される  作者: あおうま
第一章 ながすぎるアバン
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第三十九話 巳は企む

 

◆◆◆

 

 寮で同室のたつみーは委員長ってな立場におるんやし、まぁ仕事なら仕方ないんやけど。

 朝も早よから出かけていったせいで、その日、うちは朝ごはんも登校もひとり寂しくせなあかんかった。

 隣ん部屋のギャルとかヤンキーに声かけても良かったんやけど、朝からあの煩さは流石に鬱陶しいしなぁ。

 なんやつまらんなーってな具合に教室でダラダラしてても、何故か一向にたつみーは教室に現れず。

 なんかあったんかなと心配してあげた優しいうちは、学校の昇降口でその場面を目の当たりにした。

 校門から入ってくるたつみーと、さらにはうちらの中でいっちゃん目立っている神さんが隣におるのを見つけたうちは、ちょっとした悪戯心で、こっちまで来たらおどかしたろと下駄箱の影に身を潜めた。

 コッソリ二人の様子を覗いていると、急にたつみーが神さんの前に立ち塞がっとった。

 二人でなに話しとるんやろ。てかたつみー、そこ立たれたら神さんの反応見れんやん。ちょっとズレてくれんかな。

 そんなうちの思いが届いたわけではないんやろけど、たつみーが身体を動かして神さんの姿がまた見えた時、うちはドえらい驚いた。

 だって神さん泣いとるし。

 寮でもクラスでもお人形さんみたいに感情を表に出さず、いつも澄ました顔してるあの神さんが、まさか泣き顔さらしてるなんて。

 ……流石にビックリやわー。

 そもそもうち、無表情以外の神さん見たのも初めてやし。

 何があったんかなと興味本位で寄っていこうと下駄箱から身を乗り出したものの、うちが近づく前にたつみーが神さんの手を引いてどっかに逃げてった。

 いやたつみーアンタ、一歩横にズレてくれるだけでよかったんに。泣いてる神さん連れて、いったいどこ行くつもりやねん。

 『あんな場面見せられたら気になるやろ!』と、二人の後を追いかけようとしたんやけど……。

「巳継さん? もうすぐホームルーム始まるけど……」

 担任の猫西センセに見つかってしまったせいで、それも叶わず。

 うちはなんや悶々としながら、猫西センセと一緒に教室に戻ったのだった。

 

◇◇◇

 

 そのあと遅刻して教室に二人が入ってきたときには、神さんも泣いてるなんてこともなく。

 まぁたつみーの様子はちょっと変、ってか落ち着かなさそうな感じではあったけど、普通に揃って教室に現れよった。

 みんなの前でさっきのことをたつみーに詰め寄るんもナンやしなーと思い、その日一日をモヤモヤしたまま過ごして。

 夜にようやっと部屋で二人きりになれたから、たつみーに今朝んことを問い詰めることにした。

「なぁなぁ、たつみー?」

「……何よ?」

 たつみーは机に向かって宿題中やったせいか、チョイと無愛想な返事がかえってきた。

 いつもは邪魔せんように話しかけたりしないんやけど、今日は流石にそうもいかん。

 せっかくここまで我慢したんやし、好奇心がもう抑えられんわ。

「今朝な? 神さんとなに話してたん?」

「……べつに、世間話だけど。なに? 見てたの? いつ? 食堂?」

 いや、今の間はなんやねん。

 それにいつも勉強中に仕方なく話しかけた時は塩対応のクセに、今日はえらい饒舌やん。

 今たつみーがどない顔してんのかは見えんけど、なんかさっきの間で平静を装おうとしとらん?

 残念やけど知らんぷりしようとしても無駄やで?

「そうなんー? 世間話かー」

「んっんん! そ、そうよ。もういい? いま勉強中だから」

 この子ホンマ嘘つくのとか誤魔化すのヘッタクソやなー。

 そういうバカ正直なとこもたつみーのエエとこではあんのかもやけどね。だけど今日は見逃してやらんで?

「あぁ、邪魔してゴメンな〜? んじゃ最後に一つだけ」

「……なによ」

「なんで神さん泣かしたん?」

 うちの質問にかえってきた答えは、はいとかいいえとかって言葉ではなく、ノートがたてたらアカンやろってくらいのグシャっていう音やった。

 うちの言葉のせいでたつみーが宿題してたノートのページを握り潰したっぽい。

 ホンマに邪魔してしもたわー。ごめんなたつみー?

 でもしらばっくれようとしたたつみーのせいやから、おあいこやで?

「な、な、な、泣かしてないわよ!」

 それまでうちに背を向けていたたつみーが、勢いよく椅子から立って振り返った。

 たつみーはなんや興奮してんのか顔赤らめて嘘つきよるけど、でもうちちゃんと見てたからね?

「うわぁ……うそつきがおるわー。うち見てたでー? 昇降口でたつみーが神さん泣かしてたん。動画でもバッチリ取ったしー」

 動画は嘘やけどね。

 あん時うちもビックリしすぎて、そんなん思いつく余裕なかったし!

「う、嘘つきはどっちよ! いつもくだらないウソ言ってるのは巳継さんの方じゃない! どうせ動画とったっていうのも嘘なんでしょ!?」

 ありゃりゃ……まぁ確かに。うちはいっつもくだらんこと言いよるしなー。

 でも実際にその現場を見てるって何よりの証拠もあるし。

 それに今の興奮しているたつみーなんて、お茶の子さいさいで言いくるめられそーやんな?

「そうかー……あくまで認めんかー。んじゃ、そんなイジメっ子のたつみーはお仕置きせんとあかんねー? みんなに動画送っちゃるわ。えっと、グループ作ってー……」

 嘘ついたことがバレんように、いかにもちゃんと動画を撮ってましたって感じで、スマホをポチポチいじくるフリをした。

 嘘つきのスキルんひとつやな。嘘ついた時ほど堂々とするんよ。

「なっ、ちょ、待って! 待ちなさいよ!」

「あぁ、まずグループにみんな招待せなあかんのかー。ギャルと、ヤンキーと……」

 『どうや? 効いとるかな?』ってチラとたつみーを盗み見ると。

 たつみーはうちの言葉が本当だった場合にビビってんのか、なんやメッチャ焦ったようにアワアワしとってメッチャウケた。

 いや笑ったらアカン。笑ったらアカン。

「だ、ど、ダメだから! 学校でスマホ使うとか! それ校則違反だから! ダメなんだからね!!」

 待ってたつみー。もう笑わせんで?

 なんやこの子、可愛いわー。

 テンパりすぎて駄々こねる子どもみたいになっとるー……って危な!

「ちょっ! よけないでよ! よこしなさいよソレ!」

 聞く耳持たずにスマホをいじる手を止めなかったうちにたいして、たつみーが実力行使でスマホを奪おうとしてきよったから、間一髪んとこでヒョイと避けたわ。

 いつもの泰然自若としてるたつみーにしては珍しく、慌てふためいとる。

 コレはうちに有利な流れやな。

「何すんねん、もー……無理矢理はアカンで、無理矢理はー? てかうちのガッコ、授業中じゃなきゃスマホ使ってええんやから問題ないやろー」

「巳継さんが変なことしようとするからでしょ!?」

 いやゴメン。たつみーもう半泣きやった。

 流石にからかいすぎたかもしれんけど、でもいつもやったら、もっと全然平然と受け流すやん。

 ……こりゃマジで神さんとなんかあったな。

 たつみーの様子で確信は得たうちは、流石にもうまどろっこしいと思い始めてたし。

 揶揄いも一旦ここまでにしといて、今度はちゃんとたつみーに視線を向けた。

「たつみーがしらばっくれるからやろ? まぁ動画を拡散するってのは冗談やったけど、たつみーが神さんいじめてたんみたのはガチのマジやでー?」

「うっぐ! だから、あれは別にいじめてたとかじゃないし……私だって、あんな泣くなんて思わなかったし……」

 よし。語るに落ちたな。言質もらったわ。

 たつみーも認めたことやし、そんじゃ詳しく話してもらいましょかと、意地の悪い気持ちも湧きかけたけど。

 やっぱ今日のたつみーはいつものたつみーらしくもなく、朝のことを思い出してえらい落ち込んでるみたいだった。

 だから流石にうちも調子狂ってしまって、空気よんで悪戯心も薄れていってしもたわ。

「まぁまぁ。うちだって本気でたつみーが神さんいじめてたなんて思っとらんし」

「……ほんとに?」

「ホンマほんま。だからこそ気になるやん? 誰にも言わんから、何があったか教えてや?」

 そう言ってたつみーをひとまず椅子に落ち着かせて。

 たつみーと神さんに起こった朝の顛末を、うちはたつみーの口から教えてもらったのだった。

 

◇◇◇

 

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