第三一六話 巳とグリーンベル
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うちら仲良しこよしの三人組で、張り子の惑星に色付ける作業を和やかぁに始めていこうとしとったんに。
空気を読めとらんお邪魔虫こと豚座が、無粋にもやかましくストップをかけながら割り込んできたのやった。
「ごめんね、神さん、未口さん。ちょっとだけ巳継かりてくね?」
突然のチャチャ入れにポカンと呆けてる神さんたちに、ヘラヘラとダラしない笑顔を向けながら。
うちの腕をグイグイと強引に引っ張って、なんや豚座は無理クリうちのことを美術室の外まで引っ張り出してきおった。
「なんやねんピーちゃん。なんで邪魔すんの」
豚座が締めたドアについた窓ガラスから美術室の中を覗き込むと、戸惑ってるみたいな顔した羊ちゃんと目があったから、『先に作業はじめとって』とハンドサインで促しときつつ。
こない雑な連れ出し方をされた意図を確かめるため、部活仲間にあらためて視線を移すと、口をへの字に曲げた豚座が眉をピクリと動かした。
「いやその前に、なにその『ピーちゃん』っての」
「名前に豚ってついとるんやから、そりゃピーちゃんやろが」
「なんで!? ピッグのピーってこと?」
「知らん。ブタのあだ名はピーちゃんって昔から決まっとるんや。てかそんなことどうでもいいねん。何の用やっての」
美術部に入部した当初、同じ一年っちゅうことで仲良くしようと思て、豚座のことを『トンちゃん』とあだ名で呼んだことがあったんやけども。
当の本人が『ブタ系であだ名つけんのやめれ!』と文句垂れるもんやから、なんや紆余曲折を経てゴザとかゴザルってあだ名に今は落ちついとった。
だけど今ばかりは、コレから始まる楽しい工作の時間を邪魔された恨みも込めて、意図的に『ピーちゃん』なんて呼んでみたら。
予想通りに豚座には不評だったようで、ブーブーとうるさくわめいとった。
まぁ、そんなチャチな意趣返しもどうでもいいわ。とっとと部屋ん中に戻って手伝わなきゃアカンわけやし。
「巳継がちっちゃい子好きだからって、部活の出し物をほっぽって神さんたちに混ざってるのはどうなんだよ!」
足をわざとパタパタさせて、上履きと廊下で奏でる抗議の音で豚座に圧をかけてると。
いったんあだ名んことは置いておくことにしたんか、ピーちゃんも同じように足でペチペチと音を鳴らしつつ、ピーピーと抗議し返してきやがった。セッションしとるみたいでキモいから真似せんでほしいわ。マジで。
「人をロリコンみたいに言うなや。ロリに執着してんのはお前やろ。一緒にすな」
「は、はぁ!? べつに執着なんかしてないし! 全然してないし!」
「ウソつけや。ゴザがルームメイトにご執心なん知っとるし。ルームメイトの子もちっちゃくて可愛い子らしいもんなぁ?」
以前、神さんとふたりで出かけるキッカケとなった、顧問の先生から美術館のチケットを貰ったとき。
同じ美術部員のよしみで真っ先に豚座に声をかけたんに、コイツと来たら薄情なもんで……。
デレデレしながら『同じ部屋の子とふたりで行くから。ごめんちゃい』とかムカつく断り方しやがったんよな。
いま思い出しても、緩みきったなっさけない顔さらしてきおってイラっとするわ。
「キモっ! なんでそんなこと把握してんのさ! 人のルームメイト狙わないでよっ!」
「狙っとらんわ!」
トンチンカンな邪推をもとに、人様んことをキモいだなんだと貶してきおったこともそうやけど。
ルームメイトとデート行けるって惚気を、ムカつく蕩け顔とともに聞かされたことを思い出してしまったせいもあって。
うちもチョイと頭に血を上らせてしまい、そのあとも数分ほど、『ロリコン』という不名誉の押し付け合いをすることになったのやった。
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ふと我にかえって、あまりにも不毛な時間の浪費しとる場合とちゃうなと思いなおし。
話の線路を本筋に戻すように訴えると、豚座いわく『美術部の準備も手伝わんでええのか』っちゅうことやった。
「壁画のほうは先週たくさん手伝ったし、さっきかて先輩たちが群がってガンバっとったやろうが」
美術部では、部員おのおので最低でも一点、個人で制作した作品を展示するんやけども。
それとはべつに、部員みんなで制作したモザイクアートを壁画として展示するのが伝統っちゅうことらしく。
だいぶ前からそっちの制作にも個人制作と同時並行で、部員一丸となって協力しながら手をつけていた。
「美術部の先鋭たちが寄ってたかって制作すすめとるんやから、今日はうちの出る幕ないやろし。なら友だちの手伝いくらいしてもええやろ」
「んじゃクラスのほうは!? 部活ばっかじゃなくて、ちゃんとそっちもやってんのかいって!」
「どの立場の誰やねん、お前は……やっとるやっとる。そっちのお役目もちゃんと果たしとるわ」
壁宣伝のデザインも無事に完成して、だいぶ前に戌丸たちに渡しとるし。
クラスTシャツのデザインかて、ダラけたがる脳みそに鞭打って締切までに提出したんやから、豚座にツベコベ言われる筋合いはないやんな。
「ホントかぁ? 巳継のことだし、適当に煙に巻いてサボったりしてないだろうな?」
「そんなことないわ。一昨日やって、休日返上で衣装班のおしごと手伝ったりしてたっちゅうねん」
「ちっ……巳継のくせに、それはちゃんと偉いじゃないかよぉ!」
「舌打ち余計やろ。ふつうに褒められんのかオドレは……」
さっきからピーチクパーチクといちゃもんをつけてくる豚座も、まさかうちとおしゃべりしたいから、神さんたちとの間に邪魔に入ってきたわけやないやろし。
そんなら、こうして美術室の外にまでうちを連れ出してきた理由があるんやろうけども……。
「さっきからギャーギャーと、結局なにが目的やねん……」
そん理由を推理する時間ももったいないし、んじゃもうカッタるいからって直接問いただしてみたところ。
豚座はさっきのうちと同じように、美術室のドアについたガラス窓からコソッと顔を覗かせて。
顔の方向的に、あきらかに作業してる神さんたちをジッと見つめながら……。
「いやさ? ほら……巳継が忙しいなら、わたしがね? 神さんと未口さんのお手伝いをしてあげなきゃって。ねっ?」
さっきまでのやかましさはどこへ捨てよったのか、キショいくらいに照れ照れとしおらしく。
何かを期待してるように……ってかもう強請るみたいに、そないこと言ってきおったもんやから。
さすがにこのアホが求めてることも、あまりにも簡単に察することができてしまった。
「はぁ……ゴザって、マジでスレスレやな……」
「スレスレってなにがだよ!」
「スレスレのギリギリでアウトや! このロリコンが! 欲まる出しやんか!」
コイツときたら、おそらく別のクラスやから中々かかわる機会が少ない神さんたちと、お近づきになれる絶好の機会やとでも期待して。
そんな邪な目的のためにうちを他所に放したあと、空いた席に図々しく座って、神さんたちとよろしくしようとしてたっちゅうのか……なんちゅうヤツや。
ただまぁ豚座の俗な企みにはいったん目を瞑るとして。
天文部の出し物ん手伝いに、手を貸してくれるやつが増えるの自体はありがたいことやろうしな……。
「ったく……お前も混ざりたいなら素直に――」
「わたしも手伝いたいです! 手伝わせてください!」
「食い気味すぎてキモっ……」
っちゅうことで、たぶん神さんと羊ちゃんのためやったら、どんな面倒事でもいくらでも手伝ってくれそうなスレスレの協力者をお土産にして、ふたりの元に戻ったんやけども。
うちら美術部の助っ人組も作業を開始して、神さんと羊ちゃんにいろいろ教えながらも色塗りを進めていると。
なんやほかの部員たちもチョコチョコとさりげなく、ひとりふたりとこっちの作業に参加してきたもんやから。
最終的には美術部員総出でカワイイお客さんたちのお手伝いに励むことになり、天文部の出し物準備の作業は、なんやエラいスピードで進んでいったのやった。
いろんな意味でうちの部、大丈夫なんやろか……。
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