第三〇九話 神とルリタマアザミ
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うぅ……失敗しちゃったよぅ。
良かれと思って羊ちゃん担当分の金星の誕生を勝手に企てたら、結果として材料をムダ遣いして羊ちゃんに迷惑をかけてしまう事態を招いてもうた。
しでかしたポカの責任を取ろうにも羊ちゃんにすげなく断られてしまい、こうして自分の荷物を抱きしめながら、トボトボとひとり寂しく寒々しい廊下を歩いている始末である。ぐすん。
やっぱり部室にもどって手伝った方がいいのかなぁ……でも羊ちゃんからはクラスの手伝いをするように仰せつかってもいるしぃ。うぐぐぅ。
それに羊ちゃんはそんな子じゃないって信じてる、信じてはいるんだけども……。
もしも部室にもどってドア越しに『ったく、あの役立たず』とか、『あたしの金星に不満でもあるっての?』とか、そんな愚痴が聞こえてこようもんなら……ひぎぃ。
天文部での出し物準備は、松鵜部長の完璧な計画と羊ちゃんの頑張りにより、今日までたいした問題もなく進んできたというのに。
そんな順調だった進捗に、黒いインクをボチャンと塗りたくるが如く足を引っ張ったとあっちゃあ、申し訳なさで気持ちもヘナヘナになってしまうのよぅ。
そんな感じで頭グラグラ心グラグラと廊下を歩いていると、制服のポッケに入れてたスマホがブブブと震えた。
届いていたのは羊ちゃんからのメッセージで、念のため松鵜先輩に相談してみたところ、なんとまぁ不足していた和紙の確保ができそうであると書いてあった。なんとまぁ!
体育祭での部活対抗リレーのために、松鵜先輩がバトン代わりのお月様をつくってくれたけれど、そのときに余った和紙がちょっとは残っているようで。
さらには同じ生徒会役員の梅ちゃん先輩にお願いして、書道部で使っている和紙も少しだけコッソリと分けてくれるらしかった。
うぅ……羊ちゃんたら、なんて出来る子なんだよぅ。ちっちゃくて可愛いだけじゃなくて、私のミスのリカバリーまで果たしてくれるなんてぇ。
それに比べて私なんてさ……って、いやダメダメ!
さっきはミスしちゃったけど、その失敗を少しでも取り返さないとって状況なのに、こんな一人でずっと落ち込んでたらダメだよね!
羊ちゃんからも『クラスの準備で挽回してきなはれや』とお願いされたのだし。
今の私がすべきことは、冬を迎えたキリギリスのようにヨロヨロとひとりぼっちで歩いてることでは絶対にないんだからさ?
そうやってナンとかカンとか気持ちを奮い立たせ、意気込み新たに俯いていた顔を真っ直ぐ前に向けて。
招いてしまった汚名を挽回だか返上だかするために、私は一歩まえに力強く足を踏み出したのだった。
◇◇◇
などと意気込んでから数十分後、私のテンションはさっきよりもさらに底の底までブチ落ちていた。
クラス準備をとにかく何でもいいから手伝おうと、自分のクラスの教室に戻ってきたけれど、そこに同じクラスの子の姿はひとりも見当たらず。
教室の中に唯一いらっしゃったのは、机を囲んでなにやら難しそうな作業をしていた二年生の行事委員さんたちだけだった。
ドアからチラチラと顔を出して覗いていると、私に気づいた先輩たちの方から声をかけてくれたんだけども。
何やら休憩所担当クラスの作業を取りまとめてくれているリーダーみたいな人たちで、今日はこの教室で話し合いとかの作業をしていたらしく。
ほかの子たちは邪魔にならないように、別の作業場所に移動していったとのことで……。
そんならと、私たち一年生のまとめ役をしてくれてる卯月さんたちの所在を聞いてみたら、タイミングが悪く今は揃って不在であるとのことでしてんな。あちゃー。
勇気を出して先輩たちの作業の手伝いを申し出ても、『あはは、大丈夫。ありがとー』と軽く断られてしまって、そこでまず心の柱が一本ポッキリ折れてしまった。
まぁ先輩たちは難しそうなお仕事をなさっておられたでね。
なんの資格も免許も持ってねぇ私なんかは、大した役にもたてないだろうから仕方ないね。うん……。
そんならしゃあないと、学園祭当日に休憩所として使用する予定の、最近では作業場所にもなっている教室にダッシュしてみたものの。
そこで作業してた子たちに声を掛けども掛けども、行く先々でやんわりご遠慮される現実が待っておられたもんだから。
心の中で気持ちを支えていた土台の柱が、ポキポキと人知れず折れていってしまったのだった。
みんな協力しながら作業に集中してたもんね。私みたいなポッと出の新参おチビが『い〜れて』とか言って混じってこられても、作業のテンポが崩れて困っちゃうよね。あはは……。
でもね、物運びみたいな単純な作業なら私でも出来ると思ったのにね?
道具の運搬をしていた馬澄さんや戌丸さんに手伝うって言っても、『神さんに重い物を運ばせられない』って断られちゃったんだよぅ。私そんなに非力で役に立たなそうなヤツって思われてるのかな……。
活気よく作業してるみんなの中で何もお手伝いできずに、お地蔵さんみたいにボーッと突っ立ってるのはあまりにも居心地が悪くて。
その場から撤退して『どないしよ……どないしよ』とアワアワ廊下を徘徊してると。
それぞれのクラスの出し物準備のためか、ところどころで作業をしていたり、廊下を行き来している他のクラスの子がアチコチにいらっしゃった。
……そう、そうだよ。学園祭はみんなで協力しながら作りあげていく行事だもん!
たとえほかのクラスの出し物の準備だったとしても、せめて少しでもお手伝いできたら、羊ちゃんも『まぁいいでしょ』って納得してくれるかもしれないもんね!
というわけで、廊下で壁宣伝の飾り付けをしていた、今まで一度も話したことのない別のクラスの子にススッと近寄っていったあと。
メチャクチャ勇気を振り絞って、『お手伝いをしましょうか』と話しかけてみたのだけれども……。
「だ、大丈夫です大丈夫です! 神さんに手伝ってもらうなんて、そんな……!」
人見知りしちゃいがちな私がそれでも頑張って奮った勇気も、これほどまでに何度も何度もことごとく無駄に終わるのかって。
そんな無情なお返事が決定打となってしまいまして、とうとう勇気カラッポのテンション激落ちなメンタルとあいなってしまったのだった。
誰かのお手伝いをしたくとも行く先々で断られ続けるし、勇気を出した甲斐もなく何の成果も得られてないし。
もういっそ寮に帰ってベッドで泣き寝入りしちゃろうかと頭を過ぎるも、今も頑張って天王星を作ってくれてるであろう羊ちゃんを思うと、そんな逃げ恥を晒すことなどできなくて……。
これ以上は、まだ仲良しになれていない他のクラスの子に話しかけたりする勇気も湧かず、されども誰かのお手伝いをすることも諦めきれず。
どっかしらの役に立てる場所を探して、だいぶ暗くなりはじめてしまった廊下を歩いていた、そんなとき。
きっと学園中をウロウロと徘徊していなかったら気づかなかったであろう、学園祭準備により至る所で賑やかな喧騒からも遠く離れた校舎の隅の教室から、明かりが漏れ出しているのが目に入った。
傷心した心の向くまま、暗闇の中で電灯に群がる羽虫のごとく光の差す方に歩いていくと……。
ドアの窓から覗いた教室の中には、たった一人で真剣な表情をしながら、黙々と布地に針を通し続ける虎前さんの姿がそこにあったのだった。
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