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神はケモノに×される  作者: あおうま
第三章 ゆれるココロ
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第三〇七話 未とアジュガ

 

◆◆◆

 

「うん、わかった。それじゃあ学園祭で。うん、おやすみ」

 耳から離した画面に、通話終了の表示がされていることをちゃんと確認して、あたしは自室に戻るために歩き出した。

 左手に持ったスマホをとりあえずパジャマのポッケに収めようとしたものの、どうせすぐに取り出すことになるなと気付いて、そのまま手に握ったまま。

 寮生の子と何度かすれ違ったりしながら、自室の前まで戻ってきてドアを開けた。

 視界の先ではルームメイトの馬澄(うまずみ)が、さっき部屋を出たときから変わらずにベッドに腰掛けて、何かの雑誌を読んでたんだけど……。

「おかえり。家から?」

 あたしが戻ってきたことに気づくと雑誌から顔を上げて、そう声をかけてきた。

「うん、ママから。学園祭のこと」

 握っていたスマホを学習机に置いてから、倒れ込むように自分のベッドに寝転がると、なんか一気に身体の重さが増したように感じられる。

 顔の向きをズラして息苦しさを解消するために小さく空気を吸い込むと、吸った分とは釣り合ってないような大きな溜め息が自然とこぼれた。

「羊ちゃん、なんか疲れてるね。お母さんから何か言われたりした?」

「いや、ママからは別に……ただね?」

 さっき掛かってきたママからの電話も、最初は学園祭当日の予定を確認するだけのはずだったのに。

 パパやお兄ちゃん、お姉ちゃんも『次かわって』とか言い出したらしく、結局は長電話することになっちゃったわけである。

 次から次に家族との通話が続いたし、みんな学校はどうだとか寮の生活はどうだとか、同じような質問ばっかりしてくるんだもん。

 そんな理由を語って聞かせると、馬澄はこっちの疲労感もしらずに声を出して笑っていた。

「相変わらず仲がいいんだね」

「仲がいいっていうか、過保護っていうか……」

 もう高校生だし、そんなに心配してくれなくても大丈夫とは思ってるんだけど。

 うちの中では一番の末っ子なあたしのことは、たとえいくつになっても家族としては心配しちゃうものなのかもしれない。まぁ流石に成人した後とかには、そんな家族からの過保護さも薄らいでくはずでしょ。多分ね。

「羊ちゃんちは家族みんなで学園祭に来るの?」

「ううん、ママとパパだけ。泊まりになっちゃうだろうし。馬澄んちは?」

「うちは両親と、あと妹も『行きたい』って言ってるらしいから一緒に来るんじゃないかな」

 開いていた雑誌のページを閉じてから机の上に軽く放ったあと、馬澄は立ち上がって洗面所に向かっていった。

 馬澄は毎日のように朝にランニングしてるし、わりといつも寝る時間も早いから、たぶん寝る支度を始めるのだろう。さっきまで電話をどのくらいの時間してたかはわからないけど、たぶんもうそこそこいい時間なんだろうし。

 机の上に置いたスマホを手にとって、時刻やメッセージが届いてないかを確認したり、ちょこちょこ暇つぶしなんかをしたあとで。

 部屋に戻ってきた馬澄と入れ替わるように、あたしもナイトルーティンってのを済ませるために洗面所に向かったのだった。

 

◇◇◇

 

 あらかたの寝る支度を整えて部屋に戻ると、馬澄も掛け布団に包まれながらスマホをポチポチといじってたし、寝る準備はもう万端のようだった。

「電気消すわよ」

「うん」

 スイッチを押し込んで部屋の照明を落とし、窓から差し込む月明かりのなかをソッと歩いて自分のベッドに潜り込んだ。

 最近めっきり寒くなってきたし、少し前におろした毛布が温かくて心地いい。

 一日の疲れを吐き出すようにピンっと足を伸ばすとなんか無性に気持ちよくて、やっぱりここ最近の学園祭準備の疲れなんかが、知らず知らずのうちに溜まってたのかな。

「……そいえばさ、天文部の方はどうなの? 準備は順調?」

 今までだって寝る前に、こうしてちょっとしたおしゃべりをすることはよくあったけれど。

 馬澄が選んだ今日の話題は、偶然にもちょうど今ほどあたしの頭に浮かんだソレと一緒だった。

「張り子づくりはあとちょっとかな。たぶん明日の放課後で全部できあがると思うし」

 天文部の出し物として、学園祭では太陽系のそれぞれの惑星を手作りして部室で展示することになっている。

 松鵜(まつう)部長は生徒会のお仕事で忙しいし、基本的にあたしと神さんの二人だけで準備を進めることに最初は不安はあったけども。

 幸いなことに作業の進捗としては順調で、このままだったら問題なく学園祭にも間に合う見込みだった。

 まぁいろんな下調べとか下準備とか、松鵜部長が調べてまとめてって感じで指示を残してくれていたおかげよね。あたしと神さんだけで一から準備しなきゃいけなかったら、絶対にもっとワチャワチャと焦りまくってただろうし……。

「そうなんだ。そのあとは?」

「あとは色を塗って、壁に貼り付ける模造紙つくって……それで完成ね。たぶん前日準備までには間に合うんじゃないかな、うん」

「そっか。順調そうでよかった」

 暗い部屋の向こうから、そんな声と一緒に小さく欠伸が漏れたような音も聞こえてきた。

 いつも馬澄の方が寝付くのが早いし、こうして寝る前のおしゃべりをしてても、いつのまにか相手が眠っていることがままある。

「そういえば陸上部って学園祭でなにするんだっけ?」

 とはいえ特に気をつかって黙ってる必要もなく、あたしはそのまま会話を続けた。

 話しかけるのが馬澄の睡眠を邪魔するわけじゃないってことも、会話の途中でも馬澄は平気で眠っちゃうなんてことも。

 さすがに半年もルームメイトをしていればわかってるし、あたしもアッチもべつにたいして気にしないから。

「陸部は出し物とかとくにないよ。先生とか寮の人のお手伝い」

「ふーん。そうだったんだ」

「まぁ毎年そんな感じらしいからね。けっこう気楽なもんだよ……」

 だいぶ蕩けた声が聞こえてきたと思ったら、そのあとすぐにスヤスヤと一定のリズムを刻んで薄い寝息が聞こえてきた。

 馬澄のベッドの方にチラリと視線を向けて、あとはもう口からは言葉を発することもなく、あたしも本格的に寝に入ろうと目を閉じた。

 今週もあとちょっとで終わって週末を迎えたら、その次の週末にはもう学園祭がやってくる。

 お祭り中の学園の賑やかな光景を想像したり、夏休み以来に再開することのできる家族の顔を思い浮かべたり。

 ほかにもクラスのこととか天文部のこととか、そういう色々なことを頭の中で浮かべたり沈めたりしているうちに、あたしも心地よい夢の世界に落ちていったのだった。

 

◇◇◇

 

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