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神はケモノに×される  作者: あおうま
第三章 ゆれるココロ
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第三〇二話 戌とイヌシデ

 

◇◇◇

 

 みなさんの団結を強める意味でも、学園祭に向けてクラスごとで作るクラスTシャツは大切なものだと思いますし。

 そういった役目を抜きにしても、クラスのみなさんとお揃いの衣装を着るのはとても楽しみではあるのですが……。

 そんなクラスTシャツのデザイン担当に抜擢された巳継(みつぎ)さんは、苦い顔をしながらフラッと目の前から離れていってしまいまして。

 すぐに戻ってこられた巳継さんの手には、ほぼ白紙と言ってもいいようなクラスTシャツのデザイン提出用紙が摘まれておりました。

「わかるかワンコ。これがいまの進捗や……」

「な、なるほど……あまり芳しくないと」

「『あまり』も何も見りゃわかるやろ。まったくの手付かずや」

 眉間に皺を寄せながら手に持ったプリントを睨みつけている巳継さんの表情は、まさに苦虫を噛み潰したという表現がピッタリなほどでして。

 どのような慰めのお言葉を選べばいいか、多少まよってしまうほどではございましたが……。

「あの、アイデアが思い浮かばないせい……とかですかね?」

 偶然にもこのような場に居合わせたのは、ほかでもない自分な訳ですし。

 困っているお友だちの力になれればと、解決方法を一緒に探すために、まず原因となっている理由なんかをお聞きしてみたところ。

「いや……すまん。そもそも面倒で今日まで取り掛かってなかっただけや」

 チラとわたしの方に一瞬だけ視線を投げたあと。

 気まずそうな顔を明後日の方向に逸らしながらも、巳継さんはボソリとそんなことを呟かれました。

「締切が徐々に近づいて来よるのもわかっとるんやけど……うちダメなんや! こういうケツが決まっとる提出物はギリギリにならんとやる気でぇへんねん!」

 ともすれば今度は自らの怠け癖を堂々と訴えてきまして。

 なんでしょう……巳継さんもいろいろな作業でお疲れなのでしょうか。情緒がすこしお乱れのようです。

「たつみーも直接急かしてはこんけど、視線で『早よしろ』言うとるんは感じるし!」

「まぁ巳継さんの怠け者なところはご存じなので、とくにいまさら言及するつもりはないですが……」

「おい! まぁいいわ。んでうち、どないすればええと思う?」

「そのような理由なら観念して頑張ってください! よろしくお願いしますね! では!」

 デザイン案を出すのに大層苦労しているとかって理由でしたら、なにかお手伝いを申し出たりもしていたかもしれませんが。

 巳継さんの怠け癖がゆえの事情ということなら、おそらく大丈夫そうですね!

 ちょうど先輩が手招きしておりましたし、そんな激励のお言葉だけ残して巳継さんにペコリとお辞儀したあと。

 背中に投げつけられる呪詛のような泣き言に耳を傾けることなく、予定通りに目的を果たしてわたしたちは美術室を後にしたのでした。

 

◇◇◇

 

 このあとの作業場所となる教室に戻る道すがら、さきほど美術部の方から先輩が受け取られていた壁宣伝のデザインをわたしも見せてもらったのですが。

 デザインもさることながら彩りも豊かで、とても可愛らしく素晴らしいイラストに感動してしまいました。

「とても良いデザインですね!」

「ね? 私もめっちゃ好きー。すごい良いよね」

 あまりにも簡単な感想にはなってしまいましたが、それでもわたしの感動もちゃんと伝わったのか。

 先輩もテンション高めにそうおっしゃられていたので、やはり誰がみても素晴らしいデザインを仕上げてくれたのでしょう。巳継さんたちご担当いただいた方にとても感謝です!

「まぁデザインが良いぶん、私たちがクオリティを落とさないように頑張らないとなんだけどね……」

「た、たしかに。内装班の壁宣伝担当として、ここからが正念場ってことですね!」

「そうそう。みんなでがんばろうね!」

「はい! たくさん頑張ります!」

 通り過ぎる教室の中では、それぞれのクラスの方々が賑やかに準備を進めておりまして。

 廊下を行き交いしている子たちにもその賑やかさや、あるいは慌ただしさみたいな余波がもれ出ているように感じられました。

 だけど廊下を作業場所としている子たちは見受けられず、その壁も普段の学園生活どおりに真っさらで綺麗なままです。

「わたしたちもこれから壁宣伝制作が始まるわけですが、ほかのクラスのみなさんもまだ取り掛かられてはいないようですね?」

「そだね。まぁ、ほかのクラスは場所取りの抽選が明日みたいだから、早くても明日以降から開始になるんじゃないかな」

「えっ!? そうなんですか!?」

 先輩の教えてくれた事実は存じ得ないものだったので、思わず驚いて声が大きくなってしまいました。

 というのも、廊下の壁を区切って、それぞれ割り当てられたスペースで出し物の宣伝を行っても良いと言うのが『壁宣伝』であると、先日に説明を受けたのですが。

 わたしたちが担当する休憩所用の壁スペースはすでに決まっていたため、ほかの出し物用の割り当てもすでに済んでいるものと勘違いしてました。

 なのでここ数日、どこかのクラスが1番槍として壁宣伝の制作に取り掛かっていないか、その様子を参考にするためにずっと気にしていたのですが……。

 まだ使用していいスペース自体が決まっていなかったのですから、わたしの調査が空振り続けていたのも納得です。

「休憩所は毎年おなじ場所を割り当てられてるみたいだよ。だから今年も、昇降口から入って正面にある掲示板横のスペースだね。去年もたしかソコだったはずだし」

「なるほど!」

「来てくれたお客さんのほとんどが目にするような場所だから、スゴイ良い宣伝にはなるんじゃないかな」

 たしかに先輩の言われているとおり、学園祭に来てくださった方はみなさん昇降口から校舎に入ってこられますし。

 下駄箱を抜けた先にある掲示板の真横というのは、数あるスペースのなかでも最も見てもらえる機会が多いということですもんね!

「それなら、なおさら気合いを入れないといけませんね!」

「そだねー。さて、問題はこのデザインをどう作っていくかなんだけど……」

 あと少しで目的地の教室にたどり着くところでしたが、あらためてデザイン案に目を落とした先輩の足が、思案に集中し始めたためかストンと止まりまして。

 合わせて足を止めて、わたしもプリント上に描かれたイラストに目を向けましたが、うん……なるほどって感じですね。なるほどなるほど。

 正直いって、わたし一人で作れと言われたらすごく困ってしまうくらい、まず何から取り掛かればよいか全然わかりません。先輩が呟かれた『どう作っていくか』は大層な大問題です。ううむ……。

「えっと、壁宣伝って去年はどのように作られていたんですかね?」

「うーん。私も去年は壁宣伝の担当じゃなかったからなぁ。たしかねぇ……」

 わたしからの質問を受けて、そんな言葉をこぼしながらもしばし目を瞑って難しい表情をされてましたが。

 腕を組みながら、おそらく去年の記憶を掘り起こしてくださったあと。

「私たちのクラスはイラストとか文字とか、あと薄紙で作ったお花とか折り紙で作ったものとか。そういうの、養生テープを丸めて貼り付けてた気がする」

「なるほど。養生テープで」

「うん。普通の両面テープなら使っても大丈夫かもだけど……片付けのときに壁に張り付いちゃったテープを剥がすのが大変だったって、ほかのクラスの友だちが去年にそんなことも言ってたような?」

「ふんふん」

 壁を直接テープとかをつかって装飾する感じですかね。あとは貼り付けるテープにも注意が必要と……。

 たしか生徒会の方が、学園祭準備に際したルールや注意書きをまとめてくださっていたはずですし、それらの資料をちゃんと確認しておいた方が良さそうですね。

「ほかだとねぇ……あっ! 模造紙にいろいろ書き込んだり飾りつけたりして、その模造紙ごと壁に貼り付けてたクラスもあったと思う!」

「壁宣伝の作り方もいくつかあるんですね。その方法なら教室でずっと作業を進めて、最後に壁に貼るだけで済みそうですし」

「そだね。まだまだ考えないといけないこと山積みって感じだよー」

「はい! いっぱいがんばりましょう!」

 先輩のおっしゃるとおりで、いま話をお聞きした限りでも、これから検討しなければいけないことが沢山あることがわかりました。

 そんな課題の数々をあらためて確認して、先輩とふたりで意欲を高めたりできたうえで。

 これから取り掛からなければいけない課題に向かって、わたしたちは再び足を進めることにしたのでした。

 

◆◆◆

 

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