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神はケモノに×される  作者: あおうま
第三章 ゆれるココロ
259/303

第二五九話 神とマルメロ

 

◆◆◆

 

 得点ボードに張り出された各組の点数を見て、私の頬に冷や汗が流れた。

 い、いや、まだ最初の百メートル走の分だけだもんね! 体育祭は始まったばっかなんだし、ぜんぜんこれからでしょ!

 むしろこの結果のおかげで、これからもっと頑張らんとアカンって気合いをいれることができたと考えればね。

 あの、うん……いいキッカケというか、カンフル剤にはなったんじゃないかな……えへへ。

 それにほら、ほかの組では百メートル走にエースを全投入する作戦だったのかもしれないしさ?

 それならこれからは私たちの組の独壇場みたいなね?

 『まだへいき、まだだいじょうぶ……』と念じながら、急に冷え込んだ心をサスサスと擦るように励ましていると。

 まえの競技で使ってたハードルが片付けられて、行事委員の子たちがいくつもの封筒をグラウンドに並べはじめていた。

 お、おぉっ!

 つぎは私が参加するか迷っていた借り人競争じゃんか!

 これまで読んだり見たりしたマンガやアニメでは、わりとドラマが生まれがちな気がする競技だったりするし。

 何かしらのドラマティックなイベントをワンチャン狙って、密かにあこがれてはいたんだけども、結局は二人三脚を選ぶために泣く泣くあきらめたんだよね……くそぅ。

 さっきまでの百メートル走やハードル走みたいな純粋なかけっこと違って、どっちかっていうとエンタメ寄りなプログラムだもんで。

 小学生のときの運動会には借り物競争も借り人競争もなかったし、中学の体育祭には一回も参加してないから、あったかどうかすらも知らんけど。

 人生初で目にする競技なわけだから、そりゃテンションも上がるってなもんだよ!

 それに参加してる子たちだけじゃなく、クラス席で応援してる人も舞台に引っ張り出されて参加することになるかもしれないじゃん?

 よそのクラスにいたせいで今まで話したことなくて気付かなかった、私の運命の子に出会うチャンスでもあるし。

 そっから恋とか愛とか生まれちゃうかもしれないよね!

 ……ま、まぁ、そもそも私が借り人に選ばれるとは限らないんだけども。どんなお題が書かれているかもしらないし。

 ほかのみんなが全員えらばれたのに、無駄に期待してた私だけが選ばれないなんてことが起こったらどうしよ……。

 いや、そんなことはね。うん。普通はないはずだもんね。うん……。

 でも私、ひとり部屋じゃん。しかも入学してからずっとボッチだったし……。

 もしクラスで一人だけ余りもんを決めるなら、ルームメイトがいない私が選ばれる気するんだけど。

 そんで一年生の中でも余りもんは、とどのつまりはどうせ私がポッコリ突き出ることになるわけじゃん?

 ってことは、生徒全員のなかでも余りもんの候補者なわけで、唯一借り人にならない可能性があるわけじゃんか!

 いやだぁ! やだやだ、そんなのヤダよぉ!

 やっぱ借り人競争に参加しておけばよかった。借りる側なら余りもんにならないもん!

 あっ、いやでも、よくよく考えてみたらさ……。

 お題に沿った子を誘ったとしても、『お前には借りられたくない!』って断られちゃったりとか……そんなの絶対に泣くよぅ!

 そんな感じでひとり勝手にワクワクしたり、一転してハラハラしたりと忙しなく、目の前ではじまった借り人競争を眺めていると。

 参加者も応援してるクラス席の子たちも、みんなでワーワー楽しそうな雰囲気ではありつつも、私が借り人に選ばれることなく競技は進んでいった。

 なんかときどき、参加してる子とチラチラ目が合った気がするんだけども。

 『まさか私!?』と期待だけさせられて、『けっきょく選ばれんのかい!』みたいなことが何度かあったせいで、イタズラに気持ちを上げ下げさせられて見てるだけでヘロヘロだよ……。

 あぁもぅいいよ。どうせ私なんか選ばれないんだよ。

 だれが私みたいな貧乳チビ女を選ぶんだってのね?

 っていうか、もし選ばれたとしても『ボッチなやつ』とか『貧乳な子』とかってお題だったらどうすんのさ!

 それはそれでヘコむでしょうが!

 アホみたいにヤサぐれながら、もう期待すんのはやめて純粋に観客として楽しもうと、そう思った矢先……。

「神さん! 一緒にきて!」

「えぅっ!?」

 地面から拾い上げたお題の紙を確認して、一目散に駆けつけてくれた梅ちゃん先輩が。

 私と愛の逃避行をするために、手を伸ばしながら声をかけてくれたのだった。

 さすがは私のことが好き過ぎる梅ちゃん先輩だよね。絶対に選んでくれると思った。私もしゅき!

 どこまででもついていきやす! ゴーゴー!

 

◇◇◇

 

 どひゃぁ、ふひぃ……つ、つかれた。

 でも最近ずっと馬澄(うまずみ)さんと朝練してて良かった。そのおかげもあってか何とか三位だったみたいだし、銅メダルだよ。ふぅ……。

「神さん、ありがとね」

 ゴールラインを超えたあと、しばらくのあいだ梅ちゃん先輩とふたりで息を整えてたんだけど。

 これからゴールする人の邪魔になっちゃうかもだし、少し場所を移すためにも歩き始めると、梅ちゃん先輩がそうお礼しながら笑いかけてくれた。

「いえ……はぁ、はぁ……すいません。梅ちゃん先輩が他の組だからって手を抜いたわけでなく……はひぃ、全力で走ったつもりなんですが……げひぃ」

「う、うん、大丈夫。全力で走ってくれたのは今の神さん見てればわかるから……」

 せっかく私を選んでくれた梅ちゃん先輩に、一等賞という素晴らしい賞をプレゼントしたかったのに。

 こっちの力不足で足を引っ張ってしまったことをお詫びすると、なぜか苦笑いしながらもなんとかお許しをいただくことができた。うぅ、優しい……好き。

 ちなみにさっきクラス席に来て私のことを呼んでくれてから、今もずっと梅ちゃん先輩と手を繋いでいるわけである。

 ゴールしたあと何度か梅ちゃん先輩が手を離そうとする予兆を感じたけれど、知らんぷりしてむしろ握る力を強めていた努力の成果である。柔らかくてあったかい……ふへへ。

 そんなキモい試行錯誤をしつつ、ようやく息遣いも落ち着いてきた頃になって。

 今回の走者が全員ゴールしたようで、行事委員の人が一位のペアからお題の紙を確認しはじめた。

 あっ、そういえば梅ちゃん先輩の引いたお題にはなんて書いてあったんだろう?

 いや〜、どうしようかなぁ……もし『好きな人』とか書いてあっちゃったらどうしようかなぁ!

 マンガとかでよく見るもんなぁ、そういうお題。んじゃ現実でもきっとあるはずだもんね。

 たくさん生徒がいる中から『好きな人』として私のことを選ぶなんて、そんなのもう告白みたいなもんじゃん!

 てへへ……恥ずかし。でも嬉しいから大丈夫だよ!

 そんな風にドキドキしながら、記念すべき仲人さんとなる行事委員の人が私たちの元に来るのを待って。

 梅ちゃんが差し出したお題の紙を確認した行事委員さんは……。

「『交流会でペアだった人』ですね。はい、大丈夫です」

 そう言い残して私の前から去って行ったのだった。

 

◇◇◇

 

 意気消沈しながらトボトボと歩いていたら、いつの間にかクラス席にたどり着いていた。

 うぅ……ちくしょう。なんだってんだよぅ! あのお題はよぅ!

 あれだけ期待させてきたくせに拍子抜けも良いとこだよ!

 梅ちゃん先輩の好きとか嫌いとか、そういう気持ちなんかぜんぜん関係ないやつだし。

 なんか事務的というか義務というか、そんなつまんない理由で選ばれたのにアホみたいに浮かれてバカみたいじゃんか!

 いやいや、たしかに私が期待したようなお題ではなかったのだとしても、梅ちゃん先輩と手を繋いでイチャイチャできるキッカケにはなったわけだし……。

 考えようによっては嬉しい時間であったことは間違いないもんね。

 自分に都合の良いそういう部分だけをありがたく頂いて、もうアホみたいに浮かれておこう。そのほうが幸せでしょ。うん。

 まったく……梅ちゃん先輩も罪な女だよ。まったくね。

 結婚詐欺でお小遣いがすっからかんになりつつも、そのお金であの子が幸せならそれでいいかと無理くり納得するがごとく。

 自分の中で折り合いつけて溜飲を下げながら、それでも私は心の中でホッとひと息つくことができていた。

 良かったよかった。

 とりあえず借り人競争で選ばれることができたし、これでノルマ達成ってな具合に一安心でござる。

 あとはもうノンビリと、まだまだ続く借り人競争をアホ面さらしながら眺めていても問題ないわけだし!

 梅ちゃん先輩に選ばれるまでは、戦々恐々としながらどえりゃぁビビり爆散していたのが嘘のように、穏やかな気持ちで脳みそをトロかしながら。

 サバンナだったら二秒で狩られてるほどに完全に気を抜いて、空いてる椅子にポスンと腰を落ち着けたのだけど……。

「神さん! 一緒にきてくれ!」

 ひぃっ! また私!?

 も、もう私じゅうぶん満足してますけども!

 今回の走者だったらしい竹雀(たけすずめ)先輩が、世界新記録を叩き出しそうなほどの爆速で私の元まですっ飛んできて。

 クラス席の片隅でお地蔵さんになっていようとした私の腕をむんずっと掴み、数分ぶりのグラウンドにまたぞろ引きずりだしたのだった。

 

◆◆◆

 

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