第二十四話 神は余裕を失う
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「それでは、どうぞおかけください」
寮母室に招き入れられて、2つと1つの椅子が机を挟んで向かい合って置かれてる場所に、座るよう促された。
これ、これ……どっちに座るのが正解?
ママん助けてとお母さんに視線を向けるも、我が母は一瞬も迷うことなく、2つ並んだ椅子の片方に座りよった。
流石お母さん! 世界でいちばん頼りになる!
私も見本に習ってお母さんの膝の上に座ろうとしたけれど、横の空いてる椅子にグイグイ押し込まれた。
そりゃないよお母っちゃん。不安だから後ろでギュッと抱きしめててよぅ……。
「それでは改めて、この女子寮の寮母をしてる東狐といいます。本日はよろしくお願いします」
寮母さんがペコリと頭を下げて、それを見たお母さんも合わせて頭を下げたもんだから、私も慌てて膝に引っ付くくらいまで深々と頭を下げた。
今のはギリギリ減点は免れただろう。あっぶねぇ。
「みんなからは寮母さんとか、あとトッコちゃんとか呼ばれてるから、神さんも好きに呼んでいいからね」
ちゃん付けとか、あだ名で呼ばれていることからも、寮生の子たちからとても親しまれている寮母さんなんだろう。
だけど今の私には、そんな親しみやすさも関係ない。
だってこの面談で寮母さんに嫌われようものなら、そもそも入寮できないかもしれんくて、ガクガクなんじゃもん。
「は、はい。トウボさん、リョッコちゃん……トウボさん、リョッコちゃん……」
「いや、混ざってる混ざってる。まぁホント呼びやすい呼び方でいいんだけど……」
ひぃっ! なんか間違えたっぽいぃ!
な、何が足りなかったの!? あ、挨拶! お母さんもやってたやつ!
ペコリされたらペコリする。ヨロシクされたらヨロシクし返す。おげ! わたし把握した!
「よ、よろしくお願いします。ちゃんボさん」
できた! できたよお母さん!
私ちゃんと上手に挨拶できたよ!
『ちゃんと私の頑張り見てた!?』とばかりにお母さんに視線を向けると、マミーは私のあまりの立派さに感動したのか、片手で顔を隠して俯いていた。
「いや誰? もうソレ原形ないけど……あはは。面白い子ですね」
「すいません……この子ちょっとアレなんで」
なんか私は母いわくアレらしかった。アレってなんだろう。良い子の隠語かな?
ぜってぇ違う。お母さん過去最高に顔真っ赤にして恥ずかしそうだもん。失敗だぁ。アワワワワワワ。
「では、次は神さん、自己紹介お願いして良いかな?名前と好きなものとか、軽くでいいからね」
だわぉう。来た、私のターン。
入試時の面接のために、自己紹介は頭ん中で百万回は練習したけど、入試は私ひとりでの戦いだったからひたすら頑張れて何とかなった。
いや面接の時の記憶ないし、何とかなってたかは定かではないけど、今ここにいれてるんだから何とかなったんだろう。
だがしかし……今は隣に愛しのママンがいる。さらにはついさっき、そのママンを辱めてしまったような、そんな失態を犯してしまったという現実が、私を過去一番にバグらせた。
「あ、あい。あば、あの……か、神です。神、あばば……神あばばです。好きなものはオッパぁ痛っ! 女体……あ、あばば……好きなものもあばばです……」
ちなみにオッパイと口走りそうになったところで、オカンに頭を叩かれました。
家でもよくおっぱいおっぱい言ってると怒られるんだけど、多分お母さんたら、あんまり胸が大きくないから怒っちゃうんだろう。もうどうあっても育ちようがないんだから、そんな気にしなくていいのに。
「……えっと、ごめんなさい。えっと……神、あばばさん、であってるかな? でも書類には……」
「すいません、違います。私そんな名前をつけた覚えありませんので……この子ちょっと緊張しているみたいで、すいません……」
……うん。私もう黙ってよ。口を開くごとにお母さんに恥かかせる気しかせんし。
面接のはじめもはじめ。挨拶と自己紹介からすでにこのザマだなんて、もう入寮無理かも……。
そのあとお母さんが私に代わって親子二人分の紹介をしてくれてるのを見ながら、私は心の中でこっそりと涙を流したのだった。
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