第二十三話 神は思い返す
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なんか、とんでもねぇ夢を見てしまった。
朝にメッチャ弱く、目覚めの悪さを唯一の短所として履歴書に書けるような私には珍しいことに。その朝はバッチリ目覚めて、一番にそんなことを思った。
野生の卯月さんをモンスターボールで捕まえて、テントの中でひたすらに卯月さんの匂いを嗅ぐ、なんつー夢だった。あまりにもエッチが過ぎる。
多分、いや多分もなにも確っ実に、昨夜の卯月さんとの添い寝プレイのせいである。
あちゃちゃ。添い寝プレイってのはさすがに卑猥か。んじゃバブバブ体験にしとこう。それならあまりえっちじゃないか。
どう考えてもあの添い寝プレイのせいだった。バブゥ。
夢診断とか夢占いしたらどんな結果が出るんだろう。今日のラッキーアイテムとかクラスメイトの好感度上げやすいアイテムとか、そういうのわかったりしないだろうか。
ほいならためしに、ちょっと調べてみようと思うて。
スマホのブラウザソフトから夢占いのサイトを見つけて、キーワード入力欄に『モンスターボール』『テント』『体臭』と入力したら、テントだけが該当した。
なになに、『何かをはじめるならいい時期。順調に物事が進みそう』だって。やったぁ!
夢の内容でエヘエヘしつつ、洗顔と歯磨きのために洗面台の前に立つと。
鏡には到底人様にお見せできないような、この世で最も醜悪な生き物みたいなニヤケ顔の私が写っていた。
いやキモッ! 誰だこのバケモノ!
驚きすぎて冷静になったおかげで、いつも通りの私の顔に戻ったわ。
でも今だけはひとり部屋で助かった。さっきまでの顔を見られていたら、ルームメイトの子もゲポ吐きながら寮母さんに部屋替えの希望を出していただろうし。
ひとり部屋で助かったーなんて思ってはみたものの、それでもやっぱりルームメイトは心の底から欲しいと思う。
子日ちゃんと今丑さんとか、虎前さんと卯月さんとか。同じ部屋の子がいるのって、やっぱり羨ましいもん。
これもきっと、あの入寮前の三者面談のせいなんだろうなーなんて。
私はひと月くらい前の、とある一日を思い返したのだった。
◇◇◇
努力に努力を重ねた末に百合花女学園への受験に合格し、とんでもねぇ幸福感と達成感を抱えながら過ごしていた3月のとある日。
私とお母さんは百合花女学園女子寮の、寮母室前にいた。
「質問に正解出来なかったら、入寮できないとか……」
「正解とかないから。一旦落ち着きなさいよ」
「上手く受け答えできなかったら失格とか……」
「だからそんなのないから。面接じゃなくて面談だから。いいから落ち着け」
受験日を含めて、正味二回目ともなる久々の下界である。
外出するだけでもビビり散らかすってのに、加えて今から面談なんてイベントが控えていることもあり。
私はお母さんに抱きつきながら、ひたすらにガタガタと震えていた。
「おうちに帰りたいよぅ……」
「来たばっかだっての。このあと制服の採寸だってあんだからね」
「ピェェ……」
あまりの緊張から、胃の腑が口から脱出しようとするのを押さえつけながら待っていると。
寮母室のドアが開いて、私たちの前に面談を行なっていた親子が出てきた。
あわわわわ。とうとう来ちゃう。私の番が来ちゃう。
「ありがとうございましたー。んじゃ、また入寮のときにね」
面談の終わった親子のお見送りのためか、ドア前に出てきて挨拶しているのがおそらく寮母さんだろう。
怖々とそのお姿を観察してみると、なんか想像していたよりも全然若くて、二十代くらいのしっかりしてそうな美人なお姉さんだった。
だけども極度の緊張からか、『おほっ! 生の綺麗なおねーちゃんじゃぁねぇか!』などと喜ぶこともできず。
ただただ『優しい人であれ!』『優しい人であれ!』と祈ることしかできなかった。
「さてと、申し訳ありません。お待たせしました。えっと……神さんですよね。スゴイお名前ですね」
「あはは、よく言われます。本日はよろしくお願いします」
寮母さんとお母さんは、緊張なんか微塵も感じさせない様子で、余裕綽々で会話しておる。大人ってしゅごい……。
「こちらこそよろしくお願いしますね。それでは早速始めましょうか。中にどうぞ」
寮母さんに招かれ入った寮母室にて。
入寮後にひとり部屋でボッチ生活を送るハメになった、その原因となる面談が幕を開けたのだった。
◇◇◇




