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神はケモノに×される  作者: あおうま
第三章 ゆれるココロ
229/300

第二二九話 神とフジ

 

◆◆◆

 

 廊下の角からコソッと顔を出して目当てのドアを見つめながら、私はほんのちょっとだけビビっていた。本当にちょびっとだけなんだけどね?

 クラス教室や部活の活動場所からは離れているためか、周りに他の生徒の姿はなくて。

 とっても静かな校舎の端っこで、ひとりポツンと立ち尽くしながら私はなんど固唾を飲んだことか……ゴクリ。

 昨日の晩御飯の時間になんか色々あって、美味しくからあげを食べるという楽しみは犠牲にしつつも。

 海鹿(あしか)先輩と入鹿(いるか)先輩と仲良くなれるという、からあげなんかじゃお釣りが出るくらいのでっかい収穫はあった訳ですが……。

 仲良し度を深めていたそんな時間の中で、海鹿先輩に『生徒会室に遊びにおいでよ』なんてお誘いを頂いちゃったもんだから。

 『ちょっくらお邪魔してみっか!』とか思って、物見遊山でここまで来てみたんだけども。

 ……や、やっぱり遠慮しとこうかな。

 お仕事の邪魔になっちゃうかもしれないし。うん。

 職員室と同じくらいには敷居の高いイメージのある生徒会室に、別にビビってるとかでは全然ないんだけどね。

 お母さんが家でカタカタとお仕事してたとき、構ってほしくてイタズラしてもガン無視されて悲しかったじゃん?

 それで学んだもん。誰かのお仕事の邪魔はしちゃダメだって。

 私って、ほら、良い子だから……。

 もう何ヶ月か経ったらクリスマスだし、良い子でいなくちゃダメだしさ?

 それに海鹿先輩も、もしかしたら社交辞令で言ってくれただけかもしれないし。

 これで調子乗っていざお邪魔してみて、『うわっ、来た……』みたいな目で見られたら、居た堪れないにも程があるでしょうが。

 うん、うん……今日はいったんね。いったん退散しとこうかね。うん。

 そう決めたら心が少し軽くなって、足音を立てずネズミのようにチュウチュウ鳴きながら踵を返したのだけども。

 ……いやでも、もし本気で私のことを誘ってくれてたとして。

 私が来るまで待ちつづけた結果、明日の朝日を生徒会室で拝むことになっちゃっとしたら……。

 そんな可能性が頭をよぎっちゃったもんだから、私の足は床に張り付いてしまった。

 もしそんな事態になったとしたら、海鹿先輩は今日の晩御飯を食べれないかもしれない。

 今日の夜ご飯では豚しゃぶを選べるらしいけど、海鹿先輩は豚しゃぶが好きな可能性が高いから、それは可哀想じゃん。

 とんでもなく信じられないことに、海鹿先輩はからあげが好きじゃないって言ってたでしょ?

 鳥さんが好きじゃないってことは、もう……豚さんってことじゃん。豚さんが好きってことじゃん。もしくは牛さん。

 乗り込むか、はたまた撤退するかという決心を、悩みに悩んで頭から煙を出しながら。

 アタフタアタフタ、ウロチョロウロチョロと廊下を行ったり来たりしつづけていた、そんなとき……。

「あれ、神さんじゃん。どうしたの?」

 このお姉たまも生徒会役員なんだから、生徒会室ちかくの廊下でこんな風にモゾモゾしてたら、そりゃ見つかっちゃうやろってな感じではございますが。

 私からの矢印としてはラブ度が大きめの、可愛いカワイイ梅ちゃん先輩に見つかって声をかけられたのだった。


◇◇◇


 まだまだ優柔不断に二の足を踏んでいた私の手を引きながら。

 『まぁまぁ、いいからいらっしゃいな』と、梅ちゃん先輩に招き入れていただいた生徒会室にて。

「神さん! 来たか!」

「いらっしゃい。来てくれてありがとねー」

 元気ハツラツ海鹿(あしか)先輩とニコニコ優しい入鹿(いるか)先輩が歓迎してくれたので、ちょっぴり私も安心しました。

 正直なところ、ほんの少しだけビビってましたけどもね?

 でも、いざ入ってみればこんなモンのドンとこいだよ!

 そりゃそうだよ、何を怖がる必要があったんや。お説教部屋に招かれたわけじゃないんだから。楽勝らくしょー!

「こ、こんにちわ……てへへ」

 私みたいなおチビでも歓迎してもらえたもんで、テンションがピョンピョン跳ね上がっちゃって気持ちの悪いニヤケ声をまろび出しつつ。

 私は人生初となる生徒会室へのご訪問を果たしたのだった。

 廊下から確認した限りでは、目測で普通の教室と変わらないくらいの大きさであるように見えていたけれど。

 入ってみたら、あらビックリ。さすがは生徒会室ですわってな感じで、タワマン最上階のリビングくらいだだっ広い空間が広がっている……なんてこともなく、普通に予想通りのお部屋の広さでしたわ。

 バーカウンターもなければビリヤード台もないし、バニー姿のお姉さんがウェルカムシャンパンを配っていることもなかった。そりゃそうじゃろ。

「お〜? 神さんじゃん〜」

 生徒会室の中には松鵜(まつう)部長もいらっしゃって、いつも通りのノンビリ優しいお声をかけてくれたから。

 見慣れた部長様のお顔を見れて私もちょっと安心しながら、ペコペコと頭を下げて挨拶したりして。

 手招きされるがままに、入鹿先輩と海鹿先輩の間の椅子に座らせてもらった。

「神さん、ほら! お菓子あげる!」

「あっ、ありがとうございます……」

 右からは海鹿先輩が、『いっぱいお食べよ!』とお菓子の山を目の前に築いてくれるし。

「のど渇いてない? ジュースとかあるけど飲む?」

「あっ、おかまいなく……」

 左からは入鹿先輩が、良い匂いを嗅ぐわせながらたくさんおもてなしをしてくれるしで。

 なんかさっきまでは謎の恐れを抱いて、廊下で浮遊霊みたいになっていたけれども。

 そんな私に『とっとと入ったほうがいいよ!』と教えてあげたいくらいには、なんも怖いことなんかない素敵な場所でした。

 生徒会室メッチャ良きとこじゃん! 最高!

 美人なお姉さん方も制服姿でチヤホヤしてくれるしさ。

 今日は制服デーなのかな? 明日はバニーガールだったりする? 確認しに明日も来ようか?

 学校なんだからそりゃ制服に決まっとるやろと、頭の中でそんなツッコミをいれてくれる私が不在なほどには浮かれちまっておりましたわ。うぇいうぇい!

「入鹿先輩たちが神さんのこと呼んだんだ?」

「そうみたいだね〜。いつの間に仲良くなったんだろ」

 そんな浮かれフルーツポンチな私と、飼い始めたペットを可愛がるかのように私を甘やかしてくれる入鹿先輩たちを見つめながら。

 少し離れた場所で、松鵜部長と梅ちゃん先輩が話している声が私の耳にも聞こえてきて。

「ってかさ、竹雀(たけすずめ)って今日来ないんだっけ?」

「うん。文化祭のこと決めるために演劇部に出るって言ってたから来ないよ〜。神さんナイスタイミングだよ」

「そっか。それなら良かった」

 松鵜部長たちの会話の中で出てきた『竹雀さん』って、たしか天文部の合宿の時にお手伝いに来てくれてた、カレーが大好きな先輩だったっけと。

 海鹿先輩と入鹿先輩に撫でられながら、蕩けた頭でその姿を思い出そうとしたその瞬間。

 生徒会室のドアがパタリと開き、今ちょうど思い出そうとしていた竹雀先輩その人が、私たちの目の前にご登場なされたのだった。

 

◇◇◇

 

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