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神はケモノに×される  作者: あおうま
第三章 ゆれるココロ
222/304

第二二二話 虎とハギ

 

◇◇◇

 

 普段利用するときには、食事をする生徒や調理してくれてるお姉さんたちがいるから、ある程度の喧騒があったり賑やかだったりする食堂だけど。

 今はあたしたち四人しかいないためか、夜って時間もあってか、ガランとしていて物寂しい雰囲気が漂っていた。

「それじゃあ、ふたりはあっちの端のテーブルから拭いていってもらってもいいかな」

「了解っす」

「わかりました」

 食堂での掃除の進めかたを教えてくれてた先輩の指示に従って。

 テーブルを水拭きしていくために、あたしと酉本は並んで食堂の奥に歩いていった。

 さっき先輩が『これが最後の作業だから、あと少しがんばろう!』って言ってたし、とっとと終わらせるためにも効率良くテーブルを拭いていきながら……。

「そいえばさぁ、気になってたことがあんだけど」

 そばで真面目にテーブルをゴシゴシしていた酉本に向かって、あたしは声をかけた。

 遠くで先輩たちも楽しそうにしゃべりながらテーブル拭いてるし、そもそもこれまでの掃除の途中でもみんなでダベりながら掃除してたし、あたしらも雑談するくらいは問題ないだろう。

「気になってたこと、ですか?」

「うん。前に神さんに取材してたじゃん? なんか小説書くためとかで」

「あっ、えー……はい。その節は、あの……」

「いや、神さんにいかがわしい取材をしようとしてたんは……まぁ良くはないけど、今はいったん置いとくとしてさ」

 たしか一学期の……いつ頃だったっけな。

 六月だか七月に酉本にお願いされて、神さんにインタビューしたことがあった。

 そのとき、あたしはこのスケベ女に利用されて、神さんにエロビデオのインタビューごっこみたいなマネをさせられたわけだが……。

 でもまぁ結局その取材はお流れになったし、酉本も反省していたようだし、いまさら掘り起こして責めるつもりは別になくて。

「その小説は順調に書けてんの?」

 ただ掃除中の雑談として話題にして、なんとなく聞いてみたかっただけだ。

 隣のテーブルに移動してから水拭きを再開しつつ、そんな進捗確認の言葉とともに酉本に目を向けると。

「そうですね。まだ書き終えることはできていないのですが、おおむね順調ではあると思います」

 そんな回答が聞こえて来たから、あたしも「そりゃよかった」と言葉を返した。

 そのあとも続いた世間話の中で、酉本が頑張って書き進めているって小説のことを、いろいろ教えてもらったところによると。

 あの不埒な取材が取りやめになったあと、別の日に時間をとって、個人的に神さんにいろいろ質問できたらしく。

 夏休みにはあまり書き進めることができずに困っていたけれど、最近はわりと順調に筆を走らせることができているとのことで。

 文化祭で出すための小説らしいんだが、締切までには間に合いそうな目処も一応は立っているとのことだった。

「なんとかなりそうで、最近は少し安心できるようになってきました」

「そっかそっか」

 そのあとも食堂のテーブルを拭いてったり、合間に雑巾を洗い直したりといった作業を挟みつつ。

 酉本とダベリながら、食堂の掃除を進めて行ったのだった。


◇◇◇


 掃除の仕方を教えてくれてる先輩たちと、それぞれ端の方から挟み撃ちするようにテーブルを拭いていき。

 ドンドンと食堂の真ん中に近づいているわけだから、もうそろテーブル拭きも終わりに近づいているなかで。

「家庭科部では文化祭で何をするとか、もう決まってるんですか?」

 酉本の小説の話がキッカケとなり、あたしたちの話題は数ヶ月先に控えている文化祭の話に移っていた。

「あぁ、決まってるっぽい。ってか家庭科部ではさ、文化祭恒例で毎年やること決まってるらしいんだよな」

「へぇー。どんなことをするんですか?」

 酉本の質問に答えるため。

 二学期になったばかりのころ、最初の部活の活動日に先輩たちから教えてもらった記憶を思い出しながら、あたしは口を開いた。

「なんか一年から三年までの縦割りで、担当になったクラスが休憩所の担当になるらしいんだけど」

「ふんふん」

「その休憩所ではお茶とかお菓子とか出すらしいから、家庭科部も担当クラスと一緒に準備したり、当日に協力したりするらしいんだよ」

 当日は家庭科室で作ったお菓子をそのまま提供したり、前日までにも給仕役のエプロンを作ってあげたりと、なにかとやることが多いらしく。

 日々やノンビリと活動している家庭科部にとっては、一年の中で一番大きなイベントであるとのことだった。

「あっ、たしかに去年の文化祭のとき、喫茶室があった気が……」

「そうそう。てか酉本は去年の文化祭、来てるんだ?」

「はい。学校見学も兼ねて、入場の申し込みを母がしてくれたので」

 あぁそういえば、うちは私立の女子校ってこともあって、文化祭はたしか入場チケットみたいなのが必要なんだったっけ。

 公立の学校とかでは地域の人との交流も兼ねてたりで、誰でも入場できるとこばっかだろうし。

 別にこの百合花も格式高いお嬢様学校ってこともないんだけど、よその学校の文化祭とはそういうとこがちょっと違ってたりするっぽいんだよな。

 まぁあたしは去年の文化祭には来てないから、入場の方法はおろか、文化祭中の学校の雰囲気とかも知らんワケだが。

「私もその喫茶室で休憩させていただきましたが、たしか結構多くの人が利用されていたようでしたけど……」

「そうらしいんだよ。だから準備も当日もけっこう忙しいって先輩が脅してきてさぁ」

 先輩から聞いた話では、休憩所の担当になったクラスの子たちだけでなく、他のクラスからも有志の協力者を募ってるとのことで。

 『どうせなら参加しよう』って感じで、そこそこたくさんの生徒が関わったりするらしい。

 あと、文化祭に親とかを招待して、自分で給仕して家族をもてなしたい子とかも参加するって話だったんだけど……。

 そんな話を聞いた後に先輩から頼まれたことを思い出しちゃって、あたしは少し気が重くなった。

「そんで、まぁなんだ……実はあたしも、そこそこには忙しくなるかもしれなくてさ……」

「浮かない顔をしてますね?」

「うん。なんか先輩から言われて、衣装作りを担当するグループのリーダーを任されそうになっててなぁ……」

 当日に給仕役の子たちが着るエプロンのデザイン自体は、家庭科部みんなで考えて決めるらしいんだけど。

 いざデザインが決まりましたってなったあと。

 たくさんのエプロンの制作をする必要があるだけじゃなく、うちの部員以外で協力してくれるって子たちに縫い方を教えたりと。

 衣装班は衣装班で、なにやらいろいろとやることが多いらしいんだよな。

 その上でリーダーってなったら、より一層に頑張らないといけないわけだろ?

「うちの家庭科部って、今いる人は大抵『お菓子作りしたいから入部した』って子ばっかだからさ」

 たぶん先輩が衣装班のリーダーを頼んできたのも。

 あたしみたいに、服飾だとか裁縫を目当てに入部した子がほとんどいないからってのもあるんだろうけども。

「なるほど、リーダーですか……それはたしかにプレッシャーを感じちゃいそうですね」

「そうなんだよなぁ。期待してくれてんのはありがたいけど、あたしにはちょっと荷が重いってかさ……」

 そもそもあたし、別に人付き合いが達者なわけでも、コミュ力が高いわけでもないし。

 むしろ見た目や言動の粗暴さも相まって、とっつきにくそうなヤツだと思われても仕方ないって、そんな自覚すらあるくらいだし……。

 いざリーダーをやるってなった場合を想像して、思わず口からため息をこぼしてしまいながら。

 ちょうど最後のテーブルの拭き掃除も終わったから、ひと足先に布巾を洗いに行った先輩たちの後を追うように、水場に足を向けつつ。

「文化祭に向けて、いろいろと大変そうですね」

「そうだな。酉本も小説のこともあるだろうし、お互い頑張ろうぜ……」

「はい。頑張りましょう」

 文化祭の準備でまだまだ苦労しそうな者同士で、大変さを分かち合うような言葉を交わしつつ。

 あたしたちは初めての掃除当番を、つつがなく終えることができたのだった。

 

◆◆◆

 

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