第二十話 卯は面食らう
◇◇◇
何が起こってるんだろう。
いや、さっき化粧水と乳液もらった時もアホほど混乱してたんだけど。
ちょっと今はそんときの比じゃないくらいに、状況に対する理解が及んでなかった。
いまウチは、神さんのいつも使っているベットで横になっている。
そんで、ベットの主の神さんはといえば……一緒のベットに横になり、ウチの胸に顔を埋めていた。
……どうしてこんな状況になったの?
神さんと約束した十分という時間が訪れるのはまだまだ先っぽいから。
ウチはこんなことになった経緯をもう一度、思い返してみようと試みたのだった。
少しでも、このドクドク鳴ってる鼓動を落ち着けるために。
◇◇◇
「……ぽぇ?」
いや、ぽえじゃなくて。
え、いやなんて? 神さんなんて言った?
ちょっと理解が追いつかない。コレを、ウチに?
「……っいやいやいや! 無理、無理! 貰えないから、こんな高価なモノ!」
「でも、卯月さんも欲しいって……」
あちゃーそれでかぁ。メッチャ気を使わせてしまったのか。
だとしてもこんな高価なモノを貰えるはずがない。この子、金銭感覚とか危機感、大丈夫だろうか?
流石に心配になるって。
「ごめん! 欲しいとは言ったけど、マジでウチも軽く言っただけだから! てか流石にクラスメイトに貢がせるわけにいかないし、高いんでしょコレ! 神さんにお金ださせてラッキーとは思えないって!」
「欲しいなら本当にもらっちゃって大丈夫なんですが……私がお金を払って買ったわけじゃないですし……」
「えっ、あ、そうなんだ……いや、だとしても流石にっ!」
「タダでもらったモノなので。それにまだ何個かありますし」
「……えっ?」
正直、正確な値段なんてわかんない。だとしても、ブランド名だけでも結構な値段するってのは確実でしょ?
それなのに『タダ』って……てか親が買ってくれたものだとしても、当然貰えないんだけど。
それよりも、神さんの言い方が気になった。
親から買ってもらったものを、『タダでもらった』なんて言うのはなんか変くない?
「それは……どういう?」
正直ちょっと聞くのは怖いとも思ったけど、恐怖より好奇心が勝ったせいで、自然とその先を促す言葉を口にしていた。
「そういうの、よく貰うんです。だから少し余っているんで、気にしないでください」
余ってる? こういうのよく貰う?
……誰に?
それって、ま、ま、ま、まさかとは思うけどさ!
パ、パパ活とかしてる、おじさんとかにってことっ!? なんかそういう話聞いたことあるし!
だってなんか高級なコスメとか、ブランドバックとか貰ったりすんでしょ!?
神さんまさかパパ活してんの?
いや、流石にそんな、マジで!?
そりゃこの顔なんだから引くて数多どころじゃなく、入れ食い大漁なんだろうけどさ!
でもぜんぜん容認できないし! そんなんしなくても全然いいじゃん!
てか普通にメッチャ嫌なんだけど! こんな可愛いんだから、自分を安売りすんのマジでやめようよ!
同年代の子たちがしてんのなんかは、『したいなら勝手にすれば?』とか、『バカだなー』とか思ってたけど!
神さんがしてんのはなんか嫌だ!
「……あっ、あ、あのさ」
考えたこと、言いたいことが無限に湧き過ぎて。
それ故に、ウチは餌を待つ金魚のように開いた口が塞がらない状態になってしまっていたわけですが。
「お母さんがそこのブランドで働いてて、家に商品とかサンプルとか、たくさんあるんです」
「ア……ソナンダ。スゴイネー、アハハ……」
はい勘違い! いやマジでよかったー! とんでもねぇ勘違いして神さんマジでゴメンなさい! いやでもホントよかったー!
ていうか、あらぬ想像でアタフタしてスゲェ疲れた……でもほんとによかった。疲労感すごいけど安心した。
マジで余計な疲労感で項垂れた視線の先で、神さんから受け取った化粧水と乳液がキラキラと輝いていた。
……神さんのお母さん、ココに勤めてんのか。すごいなー。
まぁ、それなら貰っちゃってもいっかー……って、いやいやいや! 高価なものには変わらないから!
「あの、あのね神さん。だとしてもー……ほら、気持ちはすんごい嬉しいんだけどね? ちょっと流石に、タダでは貰えないっていうかー」
でもこの美容液自体はいいものだし、以前からハイブランドの化粧品に興味があったのは事実なわけで。 さらには神さんのせっかくのご厚意に水を差すのもなーという、そんな申し訳なさも感じていたため。
ウチは提案とばかりに、ひとまずの折衷案を出すことにした。
「だからさ? 今すぐに全部……ってのは無理なんだけど。ちょっとずつお金を払ってくから売ってもらうってことにしない? それならウチも全然オッケーだからさ?」
まぁ予想外の出費はかなーり痛いってのはあるけれど、何事も経験だしね。
いい機会だったと思えば、まぁ全然いっかなぁとは思える買い物かな。
だけどもしかし、ある程度納得して絞り出した折衷案も、神さん的にはナシ寄りのナシだったらしく……。
「いえ。私もお金払ってないものなので、卯月さんからお金貰うことは出来ません」
とのことで、断固として断られてしまった。
「あー、そっかぁ……んじゃ、やっぱコレは返すよー」
「いえ、本当に気にしないで受け取ってください。私が卯月さんにプレゼントしたいんです。その……と、友、ともだ……クラスメイトとして、仲良くして頂くお礼として……はい……」
これでもある程度はモラルある方だと自覚してるし、貰えませんがなと何度も断り続けたものの。
神さんだって一歩も譲らず、持ってけ持ってけと、ウチからボトルを受け取ろうとはしなかった。
うーん……そこまで言ってもらえるなら、全然もらうけどさー? そりゃ実際メチャクチャ嬉しいからね?
でも流石にタダはなー……あっ、そだ。
「んじゃありがたく貰うけどさ、せめてウチになんか出来ることとかない?」
「……出来ること?」
お金を受け取ってもらえないなら身体で返すって言い方だと、ちょっとエッチな感じになっちゃうけど。
もちろんエッチな意味ではなくて。
せめて労働力でお返し出来んならーくらいにしか、そん時は考えてなかったんだけど。
「うん、そうそう。ウチに出来ることなら何でもするよー」
マジで軽い感じで、どんなことでも気楽に言ってよと笑いながら言ったそん時のウチは。
マジで神さんのことを、この子の人となりとやらを、ぜんぜん理解できてなかったらしい。
「何でも!?」
「うわぉっ! ビビったー。てか神さんの大声初めて聞いた。ウケる」
そん時の自分は、その後どうなるかなんてロクに予想できてなくて。
むしろ神さんがウチにお願いとかウケるんですけどー、とかチャランポランなことしか考えてなくて。
「あぅ、すいません……でも、本当に何でも良いんですか?」
「うん! ギャルに二言はないよー」
むしろどんなお願いが来るのか、なんて能天気に期待していたくらいで……。
「ごくり……じゃあ、あの! 私と、と、ともだちにっ……!」
そこまで聞いた時点では。
さっきの電話の件もあり、ウチに『友だちになってください』なんて、そんな可愛いお願いをしてくるんだと思ってニコニコしていたのだけど。
まさか、顔面がメッチャ強強で。
あのヤンキー含むたくさんの子たちが、ドップリとお熱になっている『あの神さん』が……。
「……いえ、やっぱり……わ、私と一緒に寝てください!」
「オッケー! 全然いいよー……んん? えっ、なんて?」
まさかウチにこんなお願いをするなんて、予想だにしていなかったのだった
◇◇◇
あぁたしかに、あの時ウチは言ってたわ。
軽いテンションでオッケーって、たしかに口にしてました。
それが講じて、こんな状況になってたんでしたね……なんじゃそれ!
冷静さを取り戻せればと思い返してみても、神さんと同衾しているなんつー非現実な状況を飲み込むことはできず。
高鳴る鼓動は今もなお、ドクドクと強く脈打ち続けているのだった。
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