第十九話 卯は踏み入る
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神さんの部屋の中を初めて見た感想としては、マジで特に何もなかった。
間取りはウチの部屋と変わんないし、目を引くようなポスターを貼ってるとか、変なフィギュア飾ってるなんて趣味が垣間見えるインテリアもなくて。
むしろ置いてるもの少ないね、ってくらいに大変シンプルなお部屋だった。
あえて言うなら、気になるのは机の上のノーパソくらいだけど。今日日パソコン持ち込んでる子なんてたくさんいるだろうし、ホントそんくらいしか目につくようなものはなかった。
とりまどうしようか……。
軽くダベるとして、まぁ立ったまんまでもいっか、なんて考えていたんだけど……。
「あの……ここ、どうぞ。座ってください」
神さんは、ベットへの着席を促してきた。
「いや、でも……」
指差して誘ってくれた方、毛布乱れてるし神さんが普段使ってるベットじゃないの?
どうせなら、もう一個の誰も使ってない方のベットに座るけど……とは思ったものの。
「大丈夫なので。気にしないで座ってください」
「あ、うん。ありがと……」
などとちょい強めの圧があったから、思わず神さんに言われたままに、ベットの端にちょこんと座ることになった。
「あは。なんかごめんね、こんな急に来……て」
とりまって感じでウチがはなし始めてる時に神さんも座ったんだけど、なんかメッチャウチのそばに座ってきた。
いや、近くね? 距離感バグってない?
「特になにかしてたわけでもないですし、暇だったので大丈夫です」
「あ……そなんだー。ならよかったぁ……」
『いや直前まで普通に重めの電話してたくない?』とか、『それより、この距離いきなりはヤバくない?』とか思いはしたけど。
ツンと澄ましてる神さんの感情が読めなさすぎて、ウチはちょっとなにも言えなかった。
てか、ただダベリに来ただけなんだよなー。
なにか話題をって思っても、神さんの興味ありそうなことも全然知らんし、部屋にもヒント全然ないし……。
アナタいったい何が好きなん、とか考えながら初めて神さんの顔をこんな間近に見たけど……。
いや顔ちっちゃ! 目ぇデカ! 肌もトゥルントゥルンやん! 羨ましすぎるんだけどマジで!
そんな感想を抱いたからか、自然と口は開いた。
「神さんって肌メッチャ綺麗だけど、なんか化粧品とか使ってる? 化粧水とか乳液とか」
自分がけっこうコスメとか好きだから、つい聞いちゃった。
てかウチだってチラチラ目を向けてたけど、神さんめっちゃウチのこと見てくるし!
この至近距離でガン見やん! 普通に恥っず!
ウチの質問を聞いて、神さんはちょっと何考えてんのかわかんない顔したあと。
急に立ち上がって、廊下の先にある洗面所の方に消えていった。
えっ、いきなりどした? と疑問に思ってたところで、戻って来た神さんが持って来たソレを見て、神さんの急な行動の理由はわかった。
てかソレって!?
「いつも使ってるのはコレです」
そう言って手渡された化粧水と乳液のビンを見て、流石に目を疑ってしまった。だって書かれているロゴは、メッチャ有名なハイブランドの名前だったんだもん。
それにそのブランドの美容品の値段を一度売り場で見て、『流石に手ぇ届かねー。大人羨ましいー!』と思ったくらいには、敷居が高すぎる値段帯だった覚えもある。
「こ、これ、これ使ってんの!? いつも!?」
「えっ? あ、はい……」
「ウッソ! ヤッバ!」
ウチのテンションが急に爆上がったせいで神さんが戸惑っていたけれど、そんなん気にしてらんないくらいにはウチも興奮している。
手に持ってるのが実際いくらくらいすんのかわかんないけど、物によってはウン千円とか、万いくやつも取り扱ってるブランドである。
そんなものが目の前にあって、しかもソレをいつも使ってる人が目の前にいんだから、興奮すんなってのが無理な話だった。
ウチはようやく渡されたソレから目を離し、羨望やら恐怖やら興奮やらが篭った目で神さんを見つめた。
いやマジでこの人、何者なん? マジのガチでお嬢様なの?
たしかにそうでしたって言われても納得できるような人ではあんだけどさ!
しばらく目の前に立っている神さんをキラキラした目で見つめてたせいか、神さんは照れてんのか、ウチの前でなんか可愛らしくモジモジしてるし。
「あっ! てかゴメン、これ返すね。教えてくれてありがとー」
流石に総額いくらになるかわからんモノを持ち続けている度胸はなく、見せてもらった化粧水と乳液を神さんに手渡した。
「いえ……あの、卯月さんは……こういうの好きなんですか?」
「美容品とかコスメとか? けっこう好きで、いろいろ使ったり調べたりしてるよー」
「そ、そうなんですね。すごい……」
もしかしたら神さんもコスメとか美容グッズとか、好きだったり興味あったりするんかな?
だとしたら、メッチャ嬉しい共通の話題みっけたーなどと、この時のウチはのんきに喜んでいた。
「神さんも実は詳しかったりする? おススメとかあったら教えて欲しいなー……って流石にウチがいつも使ってるものとはレベチ過ぎるし、話あわないかもだけど!」
「い、いえ。ごめんなさい。あんまり詳しくはないんですけど……コレ、そんなにいいやつなんですか?」
「メッチャいいヤツだよー。マジ羨ましいもん。ウチも大人になったら自分で稼いで買いたいよー」
この時だって、本当にただの世間話のつもりで、羨ましいとか軽く言ったはずだったんだけど。
そのあと、なにやら話はウチの予想しない方向に進展していった。
「なるほど……」
そう呟くと、神さんは手に持った瓶を置きに洗面所に歩いていった。
まぁ流石にね。ずっと持ってるもんでもないし。
てか他にもなに使ってるかとか、メッチャ興味あるなー。見せて欲しー。
戻ってきた神さんがまた手に何か持ってのを見て、ウチはまたテンション上がってワクワクしてたんだけど。
よく見てみると、さっき見せてくれた化粧品と乳液と同じヤツだった。
あれ、置きに戻ったんじゃないの?
そんなハテナマーク浮かべてるウチの前に立った神さんが、もう一回ソレを差し出したから。
ウチもとくに何も考えず、差し出されたボトルを受け取ってしまったんだけど。
あ、いや。さっきのとは違うな。これは未使用のやつだ。
なんでと疑問を抱いたまま、見上げて目があった神さんは……。
「それ、どうぞ。まだ未使用のやつなので……もらってください」
「……ぽぇ?」
あいも変わらず、どんな感情が秘められているかわからない表情を浮かべながら。
ウチに向かって、そう言ったのだった。
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