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神はケモノに×される  作者: あおうま
第二章 ようやくはじまったナニカ
182/302

第一八二話 神と踏込

 

◇◇◇

 

 他のお客さんも後ろから歩いてきたので、ホテルの映えスポットを満喫するのは一旦おわりにして。

 私たちはエレベーターに乗りこんで、あてがわれた部屋に向かうことにした。

「ホテルだし寝る時ベットなのかな?」

「んー? どうだろねぇ。まぁ部屋についてからのお楽しみってことで」

 この建物がホテルと名のついた場所だったので、特に深く考えもせずに、テレビの特集とかでよく見るようなホテルの洋室を想像していたのだけど。

 私たち親子が泊まってイイよと許可された部屋の前までたどり着いて。

 鍵を開けてくれたお母さんのあとに続いて入室するや、目の前にあらわれたのは風情を感じる和室のお部屋だった。

「おぉ……た、畳やん」

 心の底に眠っていた私の日本人としての感性が刺激されたのか、その光景を目にしてなんだか感動してしまったよ。

 これがワビサビってやつか……なんて、そんな大袈裟なもんでもなく。

 たぶん普通にウチはフローリングだし、畳に馴染みがなかったから珍しくて興奮しただけですね。

 私ってちょっとだけミーハーなところがあるから、目新しいものを見るとわりと簡単にテンション上がっちゃうんだけど。

 ただそんなミーハーなとこも、遺伝だから仕方ないいじゃんね?

 私がこんな風に新しいものに目移りしちゃうような子になっちゃったのも、お母さんの背中を見て育ったせいだから。うん。

 けど今は私たち似たもの親子のチャームポイントよりも、目の前の和室の方が大切である。

「和室すごいね! 私ひと目で気に入っちゃったよ! ねっ? お母さん!」

 持ってきた荷物をよっこらせと部屋の隅に下ろしながら。

 あらためて部屋の感想をわかち合おうと、お母さんにキャッキャと話しかけたのだけど……。

「和室とかいいから、ちょっと一緒に冷蔵庫探しなさい。持ってきたお酒を冷やしたいんだから」

「……」

 うちの酒婆様は日本人としての感動よりも酒が大事らしく、キョロキョロとあたりを見回してみっともなく冷蔵庫を探していやがった。

 ……私は絶対にこんな大人にならないように気をつけよ。

 ワビサビとか旅情よりアルコールを優先している呑兵衛なとこは、ホントに遺伝してないで欲しい。

 ミーハーな性格なんて、このアルコール依存チックな欠点に比べたら全然マシだよ。マジで私の感動が台無しなんだけど……。

 娘から失望の眼差しを向けられていることもお構いなしで、冷蔵庫を見つけてガコガコと缶ビールを詰め込んでるお母さんの背中を見つめながら。

 私は自分の未来の姿を憂いて、さっきまでの興奮していた気持ちが少し冷めていくのを感じたのだった。

 

◇◇◇


 部屋の内装などにはぜんぜん興味なさそうに、さっそく缶ビールを開けながら、タブレットでお仕事の用事を済ませはじめたお母さんのことはもう放っておくことにして。

 私はお部屋探索したり、高層階から見える窓の外の景色に感動したりと、ひとりで客室を存分に満喫することにした。

 あのオバサンに旅行の雰囲気に浸るためのロマンチックさを求めるのなんて無駄だったんだ……非日常感を楽しむのが旅行の醍醐味だと思ってたのに。

 ふたりで使うにはちょっと贅沢過ぎるようなお部屋の広さだったもんで、しばし時間をかけながら。

 目についた押入れには何が入っているのでしょと、ワクワクしながら開けた扉のさき。

 そこには、私の期待にそぐわぬような、旅行ならではのソレが鎮座していた。

「お、お母さん! これ、これ!」

「ん〜? なによさっきからウロチョロして、ほんとお子ちゃまねぇ。今度はなに見つけたのよ」

「浴衣! 浴衣ある!」

 お仕事の途中であっても、お母さんは私の言葉に反応してこっちに目を向けてくれたから。

 そんなお母さんにも見てもらえるように、押入れに入っていたワクワク旅行アイテムの浴衣を広げてみせた。

「あぁ、まぁそりゃ浴衣ぐらいあんでしょ。ホテルだし」

「浴衣きる!」

 少し冷め気味のイケズなお母さんのリアクションも、気にならないほどには私は興奮してしまって。

 より一層このバカンスを満喫するために、着ている服を脱ぎ捨てて浴衣に着替えようとしたのだけれども……。

「あっ、ちょい待て待て。このあと出かけるから」

 そんなお母さんの静止の声が、私の手をピタリと止めた。

「お、おでかけ……?」

「そうそう。またバス乗って温泉入りに行くから」

「えっ? お風呂に入るためにバス乗るの? このホテルにも温泉あるのに?」

「そういうわけ。だから浴衣はあとで、ここの温泉に入るときに着なさい」

 言われた言葉の意味するところが飲み込めず、私が頭にクエスチョンマークを何個も浮かべていると。

 やってたお仕事もひと段落ついたのか、お母さんが仕事道具を片付けたあとで。

「んじゃ行くわよ」

 そう言うや、温泉に行く準備を整えろとかって急かしてきたもんだから。

 私は戸惑うままに着替えやらなんやらを抱えさせられて。

 せっかく辿り着くことのできたお宿から、一時お(いとま)することとなったのだった。

 

◇◇◇

 

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