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神はケモノに×される  作者: あおうま
第二章 ようやくはじまったナニカ
181/303

第一八一話 神とかき捨て

 

◇◇◇

 

 駅前のロータリーから出発したホテルへ向かうバスが、ガコガコと音を立てて山を登っていくなか。

 私は窓の外に広がる景色を眺めながら、プンスカとむくれていた。

「せっかくの旅行なのに……ブツブツ」

「いつまでプリプリ怒ってんのよ。もう……」

 ついさっきまでは海のおかげでテンションが上がっていたにも関わらず。

 今の私がこんなふうに拗ねてんのも、もちろん全部お母さんのせいである。

 だってお母さんたらさ!

 『海とお母さん』なんてめちゃ映えシチュエーションの写真を、私がどうしても撮りたいって駄々をこねたのにさ!

 恥ずかしいとか、大人は海でハシャがないとか言い訳して、ぜんぜん撮らせてくれなかったんだもん! ひどいよ!

「せっかくのレアショットだったのに……ぶぅぶぅ」

 ひととおり海でハシャいで満足したあと、お母さんに『あそこの波打ち際でイイ感じに水と戯れてよ』って私が可愛らしくお願いしても、惨めったらしく懇願したりしても。

 お母さんはそんな私のお願いも適当にいなして、ぜんぜん首を縦に振ってくんなかったしさ。

「まったく……母親の写真なんかでそんなムキになる娘なんて、滅多にいないわよ」

「写真『なんか』じゃないよ! 大切な思い出だもん!」

「はいはい。ごめんごめん」

 それまではそっぽをむいてた顔をお母さんに向けて抗議の声を上げると、そんな私を呆れたように見ながら。

 あろうことかこのオバさんたら、私の怒り顔をツマミにして楽しむつもりか、さっきコンビニで調達してた缶ビールをカシュっと開けはじめやがった。

「ちょっと! なんでお酒! 私いま怒ってんだけど!」

「せっかくの休日なんだから、そりゃ飲むわよ。いまはアンタのわがままよりビールのが大切なの」

「む〜! んもう!」

 大切な愛娘のはずの私よりも数百円のアルコールが大切なんて、そんなひどいことを言われちゃったもんだから。

 私はまたぞろ機嫌を損ねてしまい、『もう知らない!』と再びそっぽを向いた。

 そもそも『せっかくの休日』を理由にして、お酒飲みすぎなんだよ!

 新幹線の中でだってビールをニコニコしながら飲んでたのに!

 隣に座ってる呑兵衛への不満を心の中でお手玉していると……。

「アンタさ、しきりに私のこと撮りたがるわよね?」

 ヘソを曲げてる私の気持ちもお構いなしで。

 大人の休日を満喫しているお母さんが、プリプリ怒っている私をからかうようにツンツンと私の後頭部を突っつきながら、そんなことを聞いてきた。

「普通はそこまで母親の写真なんか欲しくないでしょ。私の写真なんか撮って楽しいの?」

「……べつに楽しいとかはないけど」

 さすがに質問を無視するほどは怒り心頭でもなかったし。

 チラとお母さんに目を向けながら、さっきひどい対応をされたことは一旦許してあげることにして、寛容な私はその質問に答えてあげることにした。

「でも寮にいる時は毎日見返してるし。だからさっきだって、お母さんの新しい写真ほしかったのに」

「毎日って……いや、重いわよ。急に親離れされても寂しいけど、引く気持ちが勝つわよ流石に……」

「なんでそんなひどいこと言うの!」

 愛のこもった私の尊い気持ちを、『重い』やら『引く』なんて心外なことを言われてしまったもんだからさ。

 私の怒りはさらに増して、楽しそうに笑っているお母さんをポコポコ叩いてるうちに、バスはホテルに到着したのだった。


◇◇◇

 

 荷物を抱えながらえっちらおっちらとバスから降りて、大きな自動ドアを通ってホテルの中に入ると。

 赤い絨毯が敷かれてて、豪華なシャンデリアがいくつもぶら下がってるすごい広いロビーが、非日常感のある光景として私たち親子を出迎えてくれた。

 目に映る全てがキラキラしていたもんだから、私がその内装にひたすらに夢中になっていると。

 お母さんがフロントに向かってスタスタと歩いていったので、私もキョロキョロとあたりを見回しながらも、その背中についていった。

 いやはや……これはスゴいですな。

 豪華絢爛とはまさにこのことかと、私がため息つきながら感心している合間に。

 お母さんはいつのまにかフロントにいるお姉さんと話し始めていたので、私もお母さんのそばに寄っていって、スンと澄ましながら話が終わるのをお行儀よく待つことにした。

 あんまキョロキョロしながらハシャいでると、『おのぼりさんかよ』って呆れられちゃうかもしれないからね!

 私もう高校生だし。

 ちゃんと大人しく、ホテルのよくわからないお手続きとかが終わるのを待ってることくらい、もちろん造作もないのだよ!

 フンスと鼻息こぼして胸を張りながら、私にゃ到底できそうもないチェックインのアレコレが終わるのをお利口に待っていると。

 フロントのお姉さんが、ホテルの館内説明を始めてくれたのだけど……。

「当館の大浴場では天然の温泉をお楽しみいただけます。あちらのエレベーターを……」

「温泉!」

 温泉たのしみだなぁ!

 天然ってどういうことだろ! 養殖の温泉もあるのかな!

「館内施設としてプールやゲームコーナーもございますが、こちらはご利用いただける時間が……」

「ゲームコーナー!」

 ホテルの中にゲームセンターまであんの!?

 そんなん絶対に行かなきゃじゃん!

「あ、あちらの売店ではお土産をご購入いただけますが、営業時間が……」

「お土産屋さん!」

 うわぁ! どんなお土産が売ってるんだろ!

 温泉まんじゅうとか、私いままで食べたことないよ!

 チェックインが済んだらちょっと見に行っちゃダメかな!? 人気のお土産が売り切れちゃうかもしれないし!

「ふふっ……お、お食事は新館のほうでご用意させていただきます。明日の朝はモーニングビュッフェをお楽しみいただけますよ」

「ビュッフェ!」

「……あんた、マジでちょっと黙ってて。ひたすら恥ずかしいわ……」

 いやね、そりゃお利口にしているつもりだったんだけどさ。

 耳に入ってくる言葉が、どれも興奮するようなもんだったからね?

 ついついハシャいでしまい、お姉さんには笑われるし、お母さんは顔真っ赤で恥ずかしそうにしてるしで。

 なんか、スイマセンって感じでした……お母ちゃんマジごめん。

 でも仕方ないじゃん。

 私まだ子どもだし、ワクワクするものばっかだったんだもん……。

 

◇◇◇

 

 なにはともあれ、つつがなくホテルへのチェックインは済んだわけである。

 あとはもう泣こうが(わめ)こうが、何してもご自由にってことなわけでしょ?

 いやまぁ、そんなご迷惑かかることをなさるおつもりは毛頭ございませんけどね?

「んじゃとりあえず、ゲーセン行く?」

「言うと思った……まず向かうのは部屋に決まってんでしょ」

「ぶぅ……」

 ウカウカしてたらゲームセンターが売り切れちゃうかもしんないのに……いや、流石にゲーセンは売り切れんか。意味わからんしな。

 とりあえず今のところはお母さまに従っておきましょと、先をゆくママンについてホテルの中を歩いていった。

 私たちのお部屋は別の建物にあるらしくて、チェックインをした本館とは、渡り廊下で繋がっているらしいのだけど……。

「うわぁ」

「おぉ」

 その渡り廊下がなかなかに凝ったつくりになっていて、一目見て度肝を抜かれてしまったよ。

 円筒に伸びる廊下に並んだたくさんの丸い窓や、そこから差し込む太陽の光。

 その光景は、私が生まれてすらいないにも関わらず、少し前の時代の雰囲気を想起させるような。

 そんな謎のレトロ感を抱かせるほどの光景だった。

「やっぱスゴいわね。前にテレビで見てから一度は来てみたかったんだけど、実際に目にするとけっこう感動するもんだわ」

「しゃ、写真! 写真撮らないと!」

 そんなレトロ空間に感動している隣のお母さんに負けず劣らず、私もだいぶ興奮しながら。

 こんな映えスポットを絶対に逃してなるもんかと、写真を撮ろうとお母さんの背中をグイグイ押して窓のそばに立たせると。

「まぁ……周りに人いないしいいか」

 満更でもないくせにそんな天邪鬼な言葉をこぼしながら、お母さんが今度こそ私のスマホに記録されることを許してくれたので。

 私はスマホのシャッターをパシャパシャパシャパシャ、パシャパシャパシャパシャと……。

「いや、撮りすぎだろ」

 そんなお母さんのツッコミが入るまで、ひたすらに押し続けたのだった。

 やった! お母さんの新しい写真ゲット!

 これはイイよ! 非日常な場所で撮るお母さんはめっちゃ貴重だよ!

 限定レアだよこれは! よっしゃー!

 お母さんにホテル代を課金してもらって良かったー!

「すごい良く撮れてるよー! めっちゃイイ感じ!」

「そう? まぁほら、被写体が私だからね。そりゃ綺麗に写ることでしょうよ」

「うんうん! そだ、クラスのラインのグループにアップして自慢しよう」

「絶対やめろ」

 なんてやり取りをしながらも、写真撮る役を交換して私の写真も撮ってもらったりしつつ。

 私とお母さんはふたりで仲良く、ホテルでの時間も思いっきり満喫するため、楽しい時間をゴーゴーエンジョイしはじめたのだった。

 

◇◇◇

 

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