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神はケモノに×される  作者: あおうま
第二章 ようやくはじまったナニカ
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第一七八話 母と気苦労

 

◇◇◇

 

 愛娘とその友達が一緒に帰省してきて、わずかながらも一緒の時間を過ごすことで。

 ふたりの関係性なんぞを少なからず正確に察することが、私にもようやく出来てきたわけなんだけど……。

「私、神さんと結婚することになったわ!」

 名前がこの子の性格を表しすぎているような亥埜(いの)ちゃんの口から、あまりにも向こう見ずな勘違い発言が飛び出した。

 それにしても、とんでもねぇこと言い出しやがるわね。この娘っ子……。

 いくらなんでも先走りすぎだし……。

 いや先走るっていうか、猪突猛進に突っ走ってる感が過ぎるなんてもんじゃないっての。

 さっきのプロポーズみたいな言葉といい、とんでもない思い違いをした上での今の発言といい。

 危険を感じるようなヤバい発言が、間を置かず連発したもんだからさ。

 耳に入った言葉の意味を理解するためにしばらくの時間が必要で、否定するどころか二の句をつぐこともできずに私はポカンと呆けてしまった。

 亥埜ちゃんはズルいことに綺麗な女の子だから、まだ唖然とするくらいで済んだのかもしれないけれど。

 これが今まで迷惑を被ってきたストーカー男たちの発言だったら、すぐさま娘の手を取って逃げ出していたかもしれない。

 いや、年齢も性別も関係なく、危機感を抱いた時にはどんな相手にでも警戒すべきなのかもしれないけれど。

 生憎この少女は娘の大切な友達だというのだから、そんなファクターのせいで私の判断力は乱れに乱れてしまい。

 呆然としながら結論を先延ばしにするという妥協案を、最適解と判断するほかなかった。

「えっ……神さんって、私?」

 亥埜ちゃんの突然の重大発表を受けて、ウチの娘も時が止まったかのように身体も表情も硬直していた。

 そして発言主の亥埜ちゃんは亥埜ちゃんで、自分の発言に後から照れたように顔を赤くしてモジモジとしているし。

 亥埜ちゃんの恥じらいは知らんし勝手に照れてて欲しいけど、ウチの娘の困惑はそりゃ当然の反応だろう。

 だっていきなり『結婚』って……。

 そりゃ母親としては、娘が本当に好きな人と付き合ったり結婚したいって思ってて。

 相手の人もこの子を本気で想って、なによりも大切にしてくれるような人ならば。

 結婚を頭っから否定することも多分ないだろうし、とりあえず話を聞くのもやぶさかではないわけだけど。

 そもそもまだ、そんなこと認める云々以前にガキンチョなわけだし。

 それに……。

「いやでも、私まだ亥埜さんと付き合ったりしてるわけじゃないし……」

 混乱しながらもそんな呟きをこぼしている我が子の様子を見るに。

 このふたりは恋愛感情を向け合っていて、いま現在付き合っているわけでもないのだろう。

 だとしたら今はまだ、依然として照れ照れとハニかんでいる亥埜ちゃんの一方通行なのだろうけれど。

 そんな現状に私はひとまず胸を撫で下ろして。

 先ほどの声大きめな亥埜ちゃんの発言のせいで、周囲の注目を集めてしまっているようだし。

 ひとまず、この場にいる唯一の大人として場の鎮静をはかろうと、私が声を発する前に……。

「ってことは『神さん』ってお母さんのこと!? お母さん再婚すんの!?」

 ウチのバカ娘が勘違い発言をかまして、場の混沌をさらに深めてしまったのだった。


◇◇◇

 

 うん。ウチの娘もちょっとおかしいか。

 いや、変な子だってのはすでに十分理解しているつもりだったけれどさ。

 思い込みとか勘違いが激しいかもしれない性格だとしても。

 今日はじめて顔を合わせた自分の母親と友人が、一時間も経たずにスピード結婚する可能性がわずかでもあると思ってんのか……。

 あと、女子高生はテンパると声のボリュームがバグっちゃうのは仕方ないことなの?

 驚いたことによるものか、結構な大きさで勘違い発言をカフェに響かせおってからに。

「ち、ちがうの! ごめんね、私の言い方が悪かったのかな!」

 いや、別に(かば)いたいわけでもないんだけど、亥埜ちゃんのさっきの発言は言い方が悪いなんてこともなくド直球だったからね。

 それに関しては、ウチの娘のトンチンカンな勘違いが悪いから。ごめんね。

「私がお母さまの奥さんになるんじゃなくて……えっと、そう! 義理の娘になるの!」

 おい、亥埜ちゃん。なんでわざわざ遠回しに言い直しちゃうのよ。

 良かれと思って変化球つかったのかもしれないけどさ、そんな言い方したらどうせウチのおバカは……。

「えっ……亥埜さんを娘に……? んじゃ私は? お母さん私のこと捨てるの!?」

 あ、やばい。また頭痛くなってきた。

 決して二人のやり取りを静観しようとか思ってたわけではなく。

 収集をつける術が思いつかなかったからしばらく黙っているうちに、なにやらよりいっそう話がこじれてきやがった。

 ……もういいや。

 ひとまず、このこじれた会話がどこまで転がっていくか見守っとこう……。

「なんで!? 亥埜さんの方が良い子で無駄遣いもしないから!? うわーん! 捨てないでぇ!」

 そんなんで捨てると思ってんのか。どんだけひどい母親なんだ私はよ。

 あと大事な友達の前なんだから、母親の腰に泣きつくな。私が恥ずかしいわ。

「あっ! そんな! 神さん泣かないで!」

「うわーん! お母さんが亥埜さんに寝取られたぁ!」

「ちがうわ神さん! 私が寝取りたいのはお母さまじゃなくて神さんだもん!」

「……母親がいる前で、よくもまぁんなこと堂々と言えたわね……」

 てかウチのアホ娘はアホ娘で、どこで『寝取る』なんて言葉覚えたのよ。

 インターネットでなの? ネット禁止にすんぞ。

「あっ! 違うんですお母さま! 私お母さまのことも寝取りたいって思ってますよ!?」

「別に気に(さわ)ったりしないから、変なフォローしなくていいわよ……」

「うわ〜ん! やっぱお母さんのこと寝取りたいんだぁ!」

 近頃の女子高生がふたり揃うと、こんなうるさくなんのか……勘弁してよマジで。

 大声で人聞きの悪いことを喚きまくってるおバカふたりは気づいていないかもしれないけれど、今いる場所は、お客さんがそこそこいるカフェの中なわけで。

 いつまでも傍観しているわけにもいかんくらいには、周囲の視線を集めまくっていたから……。

「わかったから、ふたりとも口を閉じて荷物まとめなさい……恥ずかしくてたまらんから店出るわよ」

 私は荷物とおバカ娘たちの首根っこを掴んで引き摺りながら。

 周りの人たちに百万回くらいすいませんと謝罪しつつ、カフェから退散したのだった。

 

◆◆◆

 

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