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神はケモノに×される  作者: あおうま
第二章 ようやくはじまったナニカ
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第一六二話 神と夏色

 

◇◇◇


 久々に部員全員が揃った天文部の部室にて。

「ということで〜……天文部は夏休みに合宿しま〜す」

 唯一の先輩である松鵜(まつう)先輩より、私が入部してから初となるイベントの予定が発表されたのだった。

「合宿?」

「天文部で、ですか?」

 大事な話と前置きされた上で行われた発表はネガティブな内容ではなかったものの。

 まさかまさかの内容ではあったので、私も羊ちゃんもすぐには受け止めきれず、先輩の言葉を疑うような反応しか返すことができなかったのだけど。

「そうそう〜、私たち三人で合宿〜」

 そう言いながらウンウンと頷いている松鵜先輩の様子から、ウソとか冗談を口にしたわけではないようだった。

 でもさ、私のイメージではね?

 部活の合宿って運動部がたくさん練習するための修行みたいなもんだと思ってたんだけども。

 だから天文部で合宿するってなってもさ、ハテナマークだけが頭に浮かんでしまうのよ。

「二人は夏休み帰省するよね〜? いつから帰るつもり〜?」

 合宿の予定とやらをまだ飲み込められていない私たちをそのままに。

 期末テスト後すぐに始まる夏休みのスケジュールについて、唐突に松鵜先輩から質問されたもんだからさ。

 置いてけぼりの私と羊ちゃんは、少しばかり顔を見合わせたあとで。

「あたしは終業式の二日後の予定ですけど」

「私は終業式の次の日、です……」

 ひとまずおのおの予定を伝えるなんて素直な反応しかすることができなかった。

 私たちの答えを聞いた松鵜先輩はフンフンと頷いたりしながら。

 頭の中でどんな思考を組み立てているのか、眉をひそめて少しばかり難しそうな表情を浮かばせつつ。

「ん〜……神さんさ、一日だけ帰省するの遅らせたりできる〜? もう帰りの電車とか飛行機予約しちゃった?」

 私にだけ追加の質問を投げかけてきた。

 つまりは私の帰省する日程が合宿と被っちゃってたんだろう。

 ジワジワと理解が及んできたおかげか、そんくらいのことは察することができた。

 夏休みに入ってから帰省するって話は、まだ具体的なことまではお母さんと話したりしていないし……。

「え、えっと、お母さんに相談すればたぶん大丈夫だと思いますけど……」

 おそらく一日や二日くらい予定を先延ばしにすることくらいはできると思う。

 その分、お母さんが寂しがって泣いちゃうかもだけど……。

「そんなら良かったよ〜。あぁそれ以前にさ〜、神さん的には合宿ってどう? やってみたい〜?」

「あ、はい……」

 コクコクと首を縦に振ってみたけど、もちろん先輩に気を遣ってとかでなくて本音として頷いたわけで。

 だって部活の合宿とか、すごい青春イベントっぽくて面白そうだしね?

 ていうかさっきから質問されたことにただ反射的に答えを返すことしかできない今の私は、たぶん何を聞かれても正直に答えちゃうだろうな。

 まぁべつに急にスリーサイズとか聞かれても、何も面白くない似たような数字の羅列しか答えられないけどもさ。

「んで羊ちゃんは〜……まぁ聞くまでもなく参加してくれるだろうから〜」

「なっ! 神さんにはいろいろ聞いてたのに、あたしだけ雑じゃないですか!?」

 私へのアポ取りが完了して、続いての標的は羊ちゃんに移ったのだけど。

 たしかにいくつか質問された私と比べたら雑な扱いをされてて、羊ちゃんがプンスカしていた。

 羊ちゃんは愛されキャラだから、こういう風にからかわれているところをよく見るだけど。

 プンプンしてる羊ちゃん可愛いから仕方ないね。うんうん。

「え〜羊ちゃんなら参加してくれるって信じてたんだけど、もしかして都合わるい〜? んじゃ私と神さんだけか〜」

「ちょっ、そうも言ってないでしょ! 参加するし!」

「だよね〜? よかったよかった〜」

 羊ちゃんがヘソを曲げている様子を眺めて癒されているうちに、二人の間でも話はまとまったようで。

 天文部の夏合宿に、部員全員が参加することが無事決まったみたいだった。

 そのあとは終業式の日に学校が終わってから合宿を行うことや、合宿では何をするかって説明を松鵜先輩が話してくれて。

「んじゃ、けって〜い。合宿のためにもテスト勉強がんばんだよ、ふたりとも〜?」

 夏休み前の最後の部活は、そんな松鵜先輩の言葉で締めくくられることとなったのだった。

 

◇◇◇

 

 そんな出来事が夕方にあって、帰省の日を一日ズラせないかって相談を行う必要が生まれたので。

 その夜に私はお母さんに電話をかけた。

「……ってことなんだけど、ダメかな?」

「いや、まだ新幹線の予約もしてないし大丈夫よ。いいじゃない合宿」

 予想はしていたけれどアッサリとお母さんからの了承も取れたので、私にとって人生初となる合宿への参加が本格的に決まったわけである。

「んで合宿って何するか聞いたの? 天文部だし星とか見る感じ?」

「うん、校庭の隅にテント張ってキャンプみたいなことするんだって。それで夜は天体観測するって言ってた」

「へー、楽しそうね」

「うん!」

 今までロクに友だちもおらず、中学生の時にはずっとおウチに引きこもってたくらいの私である。

 泊まり込みのイベントもキャンプや天体観測の経験だって皆無なわけで。

 だからお母さんが言う通り、今からすでにもう合宿に対する期待が膨らんでワクワクしちゃっているのもしょうがないでしょ。

 そんな気持ちが返事にも漏れ出ていたのか、お母さんも私の気持ちを察したようで。

「帰省の方はいくらでも調整するから、たくさん楽しんでから帰ってきな」

 優しい笑い声を含ませながらもそう言ってくれたのだった。

「うん。でもお母さんに会えるのも楽しみだし、合宿終わったらすぐ帰りたいな」

「まぁ、そっちはおいおい決めようか。日付さえ決まったら、またこっちで新幹線予約しとくから」

「わかった。ありがとね」

 無事にお母さんからもお許しをいただけて。

 期末テストさえ終われば楽しみな夏休みが待っていると、テンション上がりながら夏のイベントに思いを馳せていると。

「あぁそれと、今年は旅行いくから」

 今日のママンとの電話はそれだけでは終わらず。

 お母さんは私がぜんぜん予想もしていなかったようなことを言い始めた。

「えっ……わ、私のことほっぽって旅行いくの?」

 ゴールデンウィーク以来で久しぶりに実家に帰って、夏休みの間は毎日お母さんと一緒にいれると思っていたのに。

 お母さんはそのつもりはなかったようで、私の飼育をほっぽって楽しいバカンスに出かけようとしてんだろうか……。

 ガンガン期待が高まっていた夏休みに冷水を浴びせるような。

 そんな育児放棄まがいの扱いをまさか受けることになるなんてと、私がショックで愕然としていると。

「なんでそうなんのよ……二人でだっての」

「え、わ、私も?」

「もちろん。アンタも少しは外出れるようになってきたでしょ? そっちも楽しみにしときなさいよ」

「へ、へい……」

 天文部の合宿や帰省だけでなく、お母さんとの旅行なんていうビッグイベントがあることを知って。

 今年の夏はこれまでの人生で一番、たくさん思い出をつくれそうな賑やかな夏になるかもと。

 そんな予感を感じさせるような夜となったのだった。

 

◆◆◆

 

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