第一四五話 卯と占め子
◇◇◇
触れ合ってる肌が少し汗ばんでいる。
神さんは不快じゃないかなって心配しながら、神さんのサラサラの髪の毛に指を通した。
見つめたその顔の可憐さは何度繰り返しても見飽きることはなくて。
本当に同じ性別で、いやそれ以前に同じ生き物なのかすらも疑ってしまうほどに可愛すぎた。
長いまつ毛の目立つ瞳は静かに閉じられていて。
綺麗な肌のほっぺたを見つめながら、ウチはそっと口をひらいた。
「……きもちよかった?」
「はい。すごいよかったです」
ウチの太ももの上に乗ってる頭をナデナデしながら、その答えにホッと胸を撫で下ろした。
今日してあげたこと、誰かにするのなんて慣れていなかったから不安だったんだけど。
痛くなかったんなら、気持ちよかったって思ってくれたのならよかった。
「でも、ちょっと恥ずかしかったです……」
チラッと瞼を開けてウチと視線を合わせた神さんは、すぐに恥ずかしそうに目を逸らして、そう小さく声をこぼした。
神さんの頬はずっと赤く染まっていたけれど。
さらにそんな可愛らしい反応をみせるものだから、なんか心の中で変な気持ちが催しはじめてしまった。
「えっ? そ、そう?」
「はい。誰かに見せたこと、あまりないですし……」
「なるほど。それもそっか〜」
言われてみればたしかに、誰かにホイホイ見せれるようなトコじゃない部分をジロジロ見ちゃったんだよね。
逆にウチだって神さんにジッと見られたら、恥ずかしくなっちゃうかもだし。
「でも全然キレイだったよ?」
「ほ、ほんとうですか……?」
「うん。マジマジ」
ウチの言葉にホッと安心したような表情を浮かべながら。
意図してのことではないだろうけれど、神さんはウチの太ももにスリスリと頬を擦り合わせていて。
揺れた神さんの髪の毛が撫でた太ももが、少しこそばゆかった。
撫で続けていた頭がスイっと上がって、名残惜しいけれどウチも神さんの頭から手をはなすと。
今日も満足してくれたのか、ベッドでウチの隣に座り直した神さんが。
「本当にありがとうございました。卯月さんが上手だったので、とても気持ちよかったです」
そう言って笑ってくれるだけで、ウチもこんなに嬉しい気持ちになってしまうのは。
『同じ女子として非常にズルいな〜』なんて思いつつ。
「ならよかった〜。してほしくなったらまたウチに言ってね? いつでもしてあげるから」
「本当ですか! 嬉しいです」
他の子が神さんにしてるところを想像したらモヤっとしたので、匂わす程度に釘をさしながらもそう言ってあげると。
神さんは本心から溢れ出たように見える笑顔で、たぶん喜んでくれたようだった。
「あと、あの……やっぱ私もお返しに……」
「い、いやホント! ウチは大丈夫だから!」
してあげるのはイイんだけど、自分がされるのはやっぱ恥ずかしかったし。
神さんの伸ばした手がウチの指に触れる前に、ウチは逃げるようにベッドから立ち上がって。
握っていた耳かきを、神さんの手が届かないように机の上に避難させた。
神さんが寂しそうにお母さんに電話してるのをたまたま盗み聞いてしまったあの日。
ホームシックの寂しさが少しでも紛れるように添い寝をしてあげて。
それから時々ではあるけれど、こうして甘えさせてあげている。
そんで今日は神さんのリクエストで、耳かきをしてあげたのだった。
◇◇◇
今日神さんの部屋を訪れた用事も終わってしまったんだけど。
すぐに立ち去るのも名残惜しくて、ウチたちはちょっとだけ、そのまま二人きりで話を続けた。
「神さんは週末、予定あるの?」
「あ、そうですね。土曜も日曜も出かける予定です」
「ふ〜ん。そうなんだ〜……」
ウチはあいにく大した予定もなかったし、あわよくばと思って聞いてみたんだけど。
流石はみんなの人気者の神さんは、週末も予定が詰まっているようだった。残念。
「誰かとお出かけとか?」
「日曜日はそうですね。明日はひとりで、ちょっと買い物に行こうかと」
てっきり土日のどっちも、誰か先約がいるものだと思っていたんだけど、別にそういうわけではなかったみたい。
日曜日に誰と出かけるのか、そりゃ気にはなるけれどさ。
そっちはご一緒するのも相手の子に悪いと思ったし、具体的に名前を聞いちゃうと羨ましい気持ちも増しそうなので置いておくとして。
「明日は買い物か〜。何か欲しいものとかあるんだ?」
「はい。日曜日にデ……お出かけしようって誘っていただいた人に、誘ってもらえて嬉しかったので何かお礼したいなって思いまして……」
なんじゃそりゃ。
誘っただけでそんなに喜んでくれて、しかも神さんからプレゼントまで貰えるなんて、その子どんだけ幸せ者なんだっての。
普通にメッチャ羨ましいじゃん。
「へ、へ〜……神さん優しいね。相手の子も喜ぶんじゃない?」
そこまで想われている相手の子に嫉妬して、いろんな『まさか』って可能性に顔が引き攣りつつも。
口先だけではなんとか平静を装いながら会話を続けた。
いつも通りのウチらしく振る舞えたかは自信がないけどさ。
「喜んで……くれますかね? そうだといいんですが……」
きっとプレゼントを贈るその子のことを考えながら、えへへと笑った神さんを見つめながら。
まるで恋する少女の相談を受けているようで、微妙な胸のザワメキに意図せず拳に力が入った。
神さんが自分のために悩んで、なにかを贈ろうとしてくれてるなんて……そんなの絶対に喜ぶに決まってんじゃん!
そう励ましてあげたい気持ちは、ついぞ口から出すことはできなくて。
「たぶんねー」
なんて意地の悪そうな言葉しか選べなかったウチは、きっとまだまだ子どもだし、かなり心が狭いんだろう。
そんな自分の小ささがちょっと情けないよマジで……。
「普段つかって貰えたら嬉しいので、文房具とかにしようかなって思うんですが」
ウチの心の中でモヤってる葛藤を知る由もない神さんは、相談のつもりなのか、少し残酷にもまだプレゼントの話を続けていて。
『そんな相談にはあんまり乗りたくないなぁ』なんて少し拗ねながら。
せっかく一緒にいるのに、神さんの頭には別の子が思い浮かんでるのがなんかイヤだったし。
少しでもウチのことだって考えて欲しかったからさ?
「それ……ウチも選ぶの手伝っていい?」
できるだけ自然な感じを取り繕いながら。
ちょっと勇気を出してそう言うことができたウチのことを、次の日のウチは何度も褒め称えることになるのだった。
◇◇◇




