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神はケモノに×される  作者: あおうま
第二章 ようやくはじまったナニカ
133/304

第一三三話 亥と時化空

 

◇◇◇

 

 なんでこんなに上手くいかないんだろう……。

 今日という日を私がどれほど待ちわびて、どれほど楽しみにしていたか。

 それを知りながら神様は、私と神さんの初デートを祝福していないかのように、最悪な現実を突きつけてきた。

 最初に向かったごはん屋さんはメチャクチャ混んでいて、今すぐ並んでも一時間以上は待つとのことだったし、次に向かったお店もそれ以上に混んでいた。

 どちらかの店には入れるだろうと油断して予定を立てていたから、そのあと向かったお店はろくすっぽルートを調べてなかったせいで迷っちゃったし。

 ようやくお店に辿り着くも、休業日と書かれたプレートに出迎えられてしまう始末。

 そもそも私たちが降り立った駅周辺は大きな繁華街でもないはずなのに、なんで今日に限ってこんなにも若い女の子が多いのよ。

 その理由もちょっと調べればすぐに判明して。

 なにやら近くのイベントホールやデパートで、それぞれアイドルのイベントとかミニコンサートとかが重なって開催されているせいっぽかった。

 そんなの興味ないし、プラネタリウムに行くっていうデートの目的が早々に決まったのもあって。

 ろくに他のイベントのことなんて調べていなかったのが、ここにきてアダになってしまったわけである。

「ごめん。ホントごめんね……」

「い、いえいえ! 本当に気にしないでください!」

 オシャレなランチを満喫できなかったばかりか、無駄に神さんを歩かせまくってしまった。

 神さんもぜったいに歩き疲れているはずなのに、ちっとも怒ったり不機嫌な様子もなさそうなのは、きっとすごい気を遣わせてしまっているんだろう……。

 最後に向かった休業日のお店は駅からだいぶ離れていて、ひとまず駅前まで戻ろうということになったので。

 肩を落として落ち込んでいる私をチラチラと心配そうに見てくる神さんの視線に罪悪感を感じながら、私たちは曇天の薄暗い街中をトボトボと歩き出した。

「えっと、どうしましょうか? 駅前のミスドとか、あとは……カ、カラオケとか……」

「いや、やっぱ最初のお店にしよ! もしかしたら、もう空いてるかもしれないし!」

「あ、はい……わかりました」

 踏切を超えて駅前まで戻ってくると、さっき電車から降りたときよりは人の波も落ち着いているようだった。

 あっちに行ったりこっちに行ったりと移動を重ねるうちに、いつのまにか時刻は二時を過ぎているし。

 別に望んでそうなったわけではないけれど。

 ランチのピークタイムは終わっているような時間なので、今度こそお店に入れば早めに席に通してもらえる気がする。

 疲れとか気まずさのせいか、もう何分も私と神さんの間に会話はなくて、黙々と歩き続けてここまでやって来たけれど。

 ようやく神さんにお昼ごはんを食べさせてあげられそうって。

 そんな前向きな気持ちが浮かんできたおかげか、私は久しぶりに重い口を開くことができた。

「んじゃ、ここからまた二十分くらい歩くけど」

「はい……あれ?」

 何かに気を取られたような神さんの声が、いったい何に向けられたものか。

 わざわざ聞かなくても私も同じタイミングで気づいたんだけど、ポツポツと頭に雫があたりはじめて。

 それはつまるところ頭の上の厚い雲から、とうとう雨が降り出しだしたことを意味していた。

「やば……ちょっと急ごう!」

「は、はい……!」

 やることなすこと上手くいかない日なのだから、雨くらい降ってきてももう驚きはしないけれど。

 それでも濡れるのは勘弁願いたいから。

 少しずつ小さなシミを増やしていく道の上を、私たちは急いで歩き出したのだった。

 

◇◇◇

 

 だけども結果として、私たちはいまだランチを食べることは出来ていない。

 雨は降り始めるやその勢いを急激に増し始めて、一気に土砂降りになってしまった。

 神さんも私も傘を持ってきていなかったから、そんな豪雨の中をかまわず歩き続けることも当然できなくて。

 今は小さな古物屋さんの前で、ヒサシを傘がわりに雨宿りするしか選択肢がなかった。

「やっぱ私コンビニで傘買ってくる! ちょっとだけ待ってて!」

「ダメですよ! さっき通ったときもこの近くにコンビニなかったですし! 亥埜さんがびしょ濡れになっちゃいます!」

 さっきから何度もこの問答を繰り返していて。

 無理やり雨の中に飛び出して行こうとしても、神さんは私の腕にしがみついて絶対に離してくれなかった。

 なんとか腕を離してもらわないと、神さんをこの大雨の中に引きずり出すことになっちゃうから。

 私も自分の案を強行することもできずに、ただ雨宿りをしながら押し問答をし続けることしかできない。

 デートが始まってから、もう数時間。

 悲しいほどに一切デートらしいことができていないし、こんな散々な時間をデートと呼ぶことすらイヤになってくる。

 もっと二人で楽しい時間を過ごして、最高の初デートだったと神さんに思って欲しかったのに……。

 現実として、こんな狭い場所で足元やら服の裾を濡らして、言い争いをしながら限られた時間を無為に過ごすことしかできていないんだもの。

「はぁ……」

 神さんはどうあっても私が傘を調達してくるという案を認めてくれなそうだし。

 私は諦めるように身体から力を抜いた。

「しょうがないけど……雨が止むまで待ってるしかないか」

「そうですね……」

 視線の先で落ちていく雨は、いっときよりはその激しさを緩めているけれど。

 それでもまだ大雨と表現しても間違っていないくらいの勢いで降り続いている。

 時計を確認するとすでに二時を超えていて、予定しているプラネタリウムの上映時間まではあと二時間を切っている。

 予定ではもうすでにランチも終えていて、買い物をしたり可愛い感じのカフェに入って休憩したりと、ノンビリしながら上映時間まで過ごすつもりだったのにな……。

 なんて理想を夢見ていても過去に戻ってやり直せるわけではないんだし、ひとまずこれからのことを考え直さなきゃ。

 雨がどれくらい降り続くかはわからないけれど、もっと雨足が弱くなったら急いでどこかに入ろう。

 もうオシャレなランチは諦めて、さっき神さんが言っていたみたいにミスドとか駅前のお店で済ませるべきかもしれない。

 行こうとしていた目的のお店よりは、そっちの方がまだ近いだろうし。

 そのあとはなんとか傘を買ってから、いろいろなお店を回って買い物する感じかな……。

 今日の目的はプラネタリウムだけど、その前に神さんと買い物するための時間だけは絶対に確保したかった。

 だって、これは私のワガママではあるけれど……。

「あ、あの! 亥埜さん!」

「わっ! う、うん。なに?」

 ボーッと降り続く雨を眺めながら物思いに耽っていたところで。

 神さんがかけてきた声によって、私の思考は中断された。

「えと、いつまで降ってるかわかりませんし、ずっとお店の前に立っているのも迷惑かもですし……あそこで雨宿り、しませんか?」

 そう言いながら神さんが指をさしている方向に目を向けると。

 そこにはカラオケ店の看板が、薄暗い街中を照らすように輝いていたのだった。

 

◇◇◇

 

 カウンターの奥で説明してくれるお姉さんの案内に従って、私たちは受付を済ませた。

 目的は雨宿りなんだし、私は三十分か一時間ほどで退店するつもりだったけれど。

 フリータイムだったらドリンクバーもつくし、夕方の六時までは何時間利用しても同じ料金で、そのうえ好きな時間に退店できるし。

 学割もきいて利用料金もたいして変わらないと勧められたから、最終的に私たちはフリータイムで利用することになった。

 まぁでもたしかに、神さんの提案に従ってカラオケに入ったのは良かったかもしれない。

 結局ミスドとかのチェーン店でお昼ごはんを済ませるくらいなら、カラオケの中でフードを頼むのでも別に変わらないし。

 涼しい個室で時間を気にせずに、散々歩いた疲れも少しは癒すことができるだろう。

 汗とか雨で濡れてしまった身体も、拭いたり乾かしたりできるものね。

 それに……。

 さっきまで雨宿りしていた場所から雨の中を小走りで通って、カラオケ店に飛び込んでからというもの。

 隣にいる神さんも目を輝かせながら店内を見回しているし、喜んでいるようだったから。

 もしかしたら神さんは、本当はカラオケに来てみたかったのかもしれない。

 いま思い返すと、今日した少ない会話の節々で、そんなヒントも垣間見えていたような気もする。

 部屋に向かう前にドリンクバーに寄って行くと、またもや神さんは興奮してテンション高めな様子であちこち見ているし。

「神さん。私、先に部屋に行ってるね。部屋番号おぼえてる?」

「はい! 大丈夫です!」

 フローズンドリンクをつくる機械とか、ソフトクリームを作る機械とかを興味津々といった感じで眺めている神さんの返事を聞いてから。

 受付で案内された部屋に、私はひと足先に向かうことにした。

 先に行ってクーラーとか付けておいてあげた方がいいだろうし。

 部屋にたどり着いて電気とクーラーをつけると、暗かった部屋にボンヤリと灯りがともったけれど、部屋の中はまだ少し薄暗い。

 カラオケだしそういうものかと納得して、持ってきた飲み物をテーブルに置いてソファに腰をおろした。

「ふぅ……」

 ようやく一息つくことができた。

 いろんなことを心配してあれこれと考え続けたし、なによりここ数日の睡眠不足もたたってか、ひどく頭の中が重い。

 それにずっと歩き続けた肉体的な疲れもあって、座った瞬間にドッと疲労感に襲われてしまった。

 天井のクーラーからは涼しい風が流れ始めて、湿気や雨に塗れて不快だった身体がほどよく冷えて気持ちいい。

 薄暗い部屋と快適な温度に包まれたせいか。

 私のまぶたは抗えないほどに一気に重くなって、頭の中もボンヤリとしてきた。

 イケない……寝ちゃいそう。

 雨が止んだらすぐにカラオケを出るんだから、寝ないようにしないと……。

 今日は神さんに喜んでもらうためのデートだけど……私にも一つだけ、ワガママを許して欲しくて。

 神さんと、お揃いの……。

 大きな睡魔に襲われて、うつらうつらとそんなことを考えながら。

 あっという間に眠りに落ちていき、私の意識は暗い闇の底に沈んでいったのだった。

 

◇◇◇

 

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