第十三話 虎は歩み寄る
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自分のものではない財布を片手に、神さんの背中を追いかける。
てか神さんめっちゃ走るの遅ぇな。ペンギンと徒競走して負けるレベルだろ……まぁそんなところも可愛いわけだが。
普通に歩いて追いかけても見失うことはなさそうだから、またぞろ逃げられない様にコソコソと隠れながら追いかけていると。
50メートルも経たないうちに神さんは立ち止まり、遠目からでもわかるほどにゼーハーと肩で息をしていた。
あたしが追ってきてるか確認するために振り返った神さんに見つからないよう、建物の影に身を隠した。そんとき見えた神さんの顔は、メチャクチャ疲れてそうに見えた。
足おっそいだけじゃなくて、体力も壊滅的にないのか……。
あたしを見つけられなかったために逃げ切れたと判断したんだろうか。大きな深呼吸をした後で、神さんはちょっとフラフラしながらも、のんびりと歩いてあたしが隠れている場所とは反対方向に進んでいって。
そのまま引き続きコソコソと追いかけると、神さんは昨日今丑と一緒に座っていたベンチに腰掛けていた。
てか昨日のアレの一部始終を見ていたんだけど、何がどうしてあんな羨ましいことが起きてやがったんだ?
神さんからアーンしてもらえるとか。さらには膝枕まで……!
いくらなんでもイチャイチャしすぎだろうが! 学校の中庭で! いやらしい!
あの二人がまさか……つ、付き合っているなんつーことは考えたくはなかったが。
でも、もしかして……そのまさかだったりすんのか?
確かめようにも、今丑に昨日問いただそうとした時は無視されちまったし。今日は今日で、休み時間のたびにずっと寝てやがったから聞けなかったし。
やっぱりコレは神さん本人に聞いてみるしかねぇのか!
もしホントに付き合ってるとかって言われたら……いや、考えるのはやめよ。頭おかしくなっちゃうから。
だけどもし付き合ってないんだったら、何で恋人でもないのにあんなことをしていたのかって話になってくる。
誰にでもあんなサービスしてくれんのか? メイド喫茶みたいにオプションサービスとかあんの? ならあたしにだってワンチャンあんのか?
アーンとか、膝枕とか!
それにスマホの待ち受けにしたいから、叶うなら写真も撮らせて欲しいし。あと誕生日と血液型は相性占いに必要だから絶対に聞き出さないと……って、いや待て待て待て。妄想を膨らましてる場合じゃねぇっての。
てか財布。誤解を解いてコレ返してあげないと。
怖がらせちゃって申し訳ないから、五百円玉を財布の中に入れといた。推しへのお布施ってやつである。コレで少しでも美味しいもんでも食ってくれ。
いよし! さっきも話しかけられたんだし今度こそと、そう決意をかためて。
ベンチに座って弁当を食べ始めている神さんに向かって、あたしは歩み寄ったのだった。
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