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神はケモノに×される  作者: あおうま
第二章 ようやくはじまったナニカ
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第一一四話 鶯と用心には網を張れ

 

◆◆◆

 

 アホの変態が性懲りもなく、私のペアの子に背後から近づいていくのを目にしたもんだから。

 変な危害が及ぶ前に、私もその場に足早に近寄った。

「はじめまして神さん。二年の竹雀です。よろしくね」

 おいおい待て待て。

 いい加減に諦めろってのに……。

「ふぁ、あ、はい! よ、よろしくお願いします……」

 そら見ろ可哀想に。

 その子もアンタがペアだと勘違いして、挨拶なんかしちゃってるしさ。

 そうは問屋が卸すかっての。

 これ以上の往生際の悪い暴走を防ぐため、私は生徒会副会長であり、一応は友だちでもある竹雀の肩を狙って。

 ドスッと一発、気持ち強めに押し退けてやった。

「うわっ! なにする……げっ! う、梅ちゃん」

 突然の横槍にムッとした表情を向けてくるも。

 その相手が私だとわかるや否や、竹雀は気まずそうに顔を引き攣らせた。

「ごめん神さん。ちょっとだけ待ってて……アンタはこっち」

 私の当然の登場にビックリして、目を白黒させている神さんには一言ことわってから。

 竹雀を引っ張って、その場から一度離れた。

「……どういうつもり?」

「はは、梅ちゃん顔が怖いよ?」

 流石は竹雀というべきか。

 さきほど一瞬だけ垣間見せた動揺もすでに引っ込んでおり、もうすでに余裕のあるいつもの物腰で私の前に立っていやがる。

「竹雀は一年生の子とペア組まず、何か問題が起きたときに動けるよう行事委員長として待機って。そう決まってたじゃん」

「うん。たしかにみんなが勝手にそう決めたけどね」

 今年は入学前に欠員が出てしまったから、一年生の人数が二年生よりもひとり少ない。

 そのため、二年生側ではひとり分の手が余るわけだけど。

 それを誰にするかは、昨日までの行事準備にて発生したイロイロなことのせいで、竹雀に決まったはずである。

 この竹雀が人知れず、生徒会役員の立場を利用して、コッソリと勝手に神さんとペアを組もうとしていたり。

 それが発覚してからも、頑なとしてワガママを押し通そうとしたり。

 コイツは裏の手回しが発覚してもまったく悪びれることもなく、むしろその頭の良さや人望なんぞも利用して、謎に説得力のありそうな御託を並べるものだから。

 行事委員として手伝ってくれている子たちは、騙されて納得しそうになっていたのだけども。

 私と松鵜は普段の竹雀の異常性を知っていたし、確実に私欲でズルしようとしていたのがわかったから、必死になって食い止めて。

 こじれにこじれながらも紆余曲折を経た上で。

 他の全組も含めた今のペア組が、ようやく前日である昨日にギリギリ収まりが付いたわけである。

 だというのにこの女、諦め悪くいけしゃあしゃあと神さんの前に現れおってからに……。

「それならとっとと元いた場所に戻って、ズッシリ構えてなよ」

「いや、やっぱり待機は梅ちゃんか松鵜がするべきだと思うんだ」

 呆れてモノも言えんとはこのことか。

 何回この問答を繰り返すつもりだコイツ……。

「二人とも、昨日までずっと遅くまで残って頑張ってくれてたじゃないか。待機なんて大してやることないんだし、梅ちゃんこそ座ってゆっくりしていてはどうだい?」

 そう言い残し、笑いながら私の横をすり抜けて、神さんににじり寄ろうとするストーカー女の首根っこをグワシと掴んで。

 そのまま竹雀を引きずって、講堂の片隅に用意した行事委員用のスペースに捨てに行こうと足を向けた。

 こうしている間にも、イベントの主役である一年生たる神さんのために使ってあげられる時間が減っているのだ。

「う、梅ちゃん……後生、後生だから。お願いだ……変わってくれぇ」

「うっさい。いや」

 悔し泣きしている竹雀をなんとかかんとか椅子に縛り付けた上で。

 私はようやく、一年生のお世話役としての役目を果たすため。

 遠くでひとりポツンと残されている神さんに向かって、あらためて近寄って行ったのだった。

 

◇◇◇

 

 私は生徒会役員という立場上、このイベントを学年交流会とか、ちょっと縮めて交流会と呼ぶことが多いのだけれど。

 他の子たちの間では、『ゆりとも会』なんて愛称がついているのも知っている。

 百合花女学園で学年関係なく友だちをつくる会、ってのが元になっているらしくて。

 さらには若い女の子なんて、いろんなことに何かにつけて愛称を付けたがるから、そっちの名前で親しまれているっぽい。

 でも確かにそんな可愛らしい名前もピッタリなイベントではあるとは思う。

 この機会をキッカケにして、先輩と仲良くなれた子たちも多いことだろうし。

 かくいう私も、去年ペアを組んだ先輩とは同じ部活だったこともあり。

 その後もいろいろお世話になったりで、今でも普通に仲良いと思うし。

 二年生のみんなも自分が優しくされた経験があるから、その恩返しじゃないけれど、前向きにイベントに取り組んでくれているように見える。

 まぁ……優しさ半分、あとは寮生活なんて変わった環境での生活の中で、後輩のお世話を焼くなんてイベントをさ。

 せっかくだからと楽しんでいる気持ちも、けっこうあるんだろうけど。

 理由はどうあれ、参加するみんなにとっての貴重な行事なのだから。

 私たち生徒会役員も、手伝ってくれている行事委員会の子たちも、今日まで真剣に準備を進めてきた。

 集まった一年生のプロフィールを整理したり。

 各部の二年生や三年生に協力してもらって、相性のいいようなペアを決めてもらったり。

 それで決まらなかった子たちは、みんなで悩みながらも頑張って楽しめるようにマッチングさせたりと。

 何よりも大事なペア決めのところには惜しむことなく労力と時間を注いだものである。

 このイベントでは一年生のみんなが楽しめたり、日頃溜まったストレスを吐き出したり。

 なにより、学校や寮での生活で、ずっと悩んでいることの解決の助けになったり。

 そんな機会を思う存分に満喫してほしいから。

 だから、楽しんでもらうような準備はたくさんしたつもりだ。

 ペアとなる二人で今日一日中、一緒に過ごしてもらうことになるわけなので。

 学校の空いている教室や教科室とかで、のんびりお話ししてもいいし。

 部活の先輩後輩だったら、道具も練習場所も自由に使って一緒に活動してもいいし。

 今日は三年生は部屋での自主学習ということになっているので、学校中のどこでも使い放題なわけである。

 さらには寮に戻ることも許可されているので、部屋や食堂、さらには大浴場とかでゆっくり過ごしてもいいことになっている。

 二人で一緒に何をするか、どう時間を過ごすのかは、ペアの子同士で話し合って決めてもらってから。

 もし質問があっても、私たち生徒会を含む行事委員や先生たちに聞いてもらって。

 なるべくリラックスして、なにより充実した時間を過ごせるように、それをサポートする体制も整えたつもりだ。

 だからこそ私も生徒会役員として。それ以前に、ひとりの二年生として。

 ペアとなる一年生の子を楽しませてあげるために、頑張らなくちゃいけないわけだ。

 そう。

 何かと有名でよくその名を聞く、いま目の前にいる……神さんという一人の女の子を。

 

◇◇◇

 

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