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神はケモノに×される  作者: あおうま
第二章 ようやくはじまったナニカ
110/301

第一一〇話 巳とドングリの背くらべ

 

◆◆◆

 

 あぁーミスった。

 数学のプリント、教室の机の中に忘れたっぽいわ……。

 放課後の部活動で、美術室で黙々と絵を描いとったんやけど。

 ちょっと行き詰まってもうたし、気分転換に宿題でもやるかと学生鞄を漁るも、そこにお目当てのもんは見あたらんくて。

 他の部員に一声かけてから美術室を出て、橙色に染まった廊下を進んで、面倒くささを感じながらも教室に向かった。

 なんやこういうメンドイの挟むと、一気に宿題やる気失うなぁ。

 それでもちゃんと済ませんと、ルームメイトのたつみーもうっさそうやし……。

 廊下の窓の外から聞こえる、部活に励む子たちのさまざまな青春の響きが、ノスタルジックな雰囲気にムリクリ浸らせてきおったおかげか。

 『今度はああいう絵ぇでも描こうかなぁ』なんて、新しく生まれたアイデアを頭ん中でこねくり回しながら、うちはようやく自分の教室までたどり着いた。

 もうみんな部活行くか帰るかしとるやろうし、教室ん中も誰もおらんやろなーと。

 そんな軽ーい考えを持ったうちの予想は、どうやら外れとったらしく。

 教室ん中には机を囲んで羊ちゃんと子日ちゃん、そして神さんがまだ残って顔を付き合わせとった。

 うわぁなんやこれ! たんぽぽ組かいな!

 うちのクラスでもトップクラスにちっこくて可愛い三人が、何やらお揃いのようで。

 趣味が悪いなんつぅのはモチロン自覚はあるんやけれど。

 あの三人が顔をつき合わせて、一体どない可愛らしい会話をしとんのやろと気になってしもたから。

 勉強とか部活で疲れた心を癒すためにも。

 音を立てずにソッとドアの影に身を潜めて、耳をダンボにして中の様子を伺った。

「……」

 しかし待てども誰かが声を出すこともなく、教室の中は沈黙が流れ続けとった。

 辛抱できんくてソッと教室の中を覗き込むと、三人とも何やら険しい顔をしとるし。

 なんや険悪そうな雰囲気が醸し出されとらん?

 えっ、ケンカ? まさかケンカしよんの?

 あの三人で? ウソん?

 流石に意外が過ぎるというか、ちょっと信じがたいような想像が頭をよぎった。

 でもどう見ても和気あいあいとした雰囲気には見えんしなぁ。

 うちのクラスはみんな仲良い方やと思っとったけど。

 よりにもよってあの三人が仲悪ぅしてるんなんて、うち以外の誰だってそんなん知らなかったやろ。

 これは……しゃあない。

 お姉さんのうちが仲裁して、あのおチビちゃんズの仲を取り持ってやるか。

 そんな殊勝な心がけも、正直言って本音の半分程度しか占めておらず。

 本気であの子たちが仲悪いなんつぅはずないのもわかっていたので。

 新しいオモチャをみっけたとばかりに面白半分、愉快なことに首を突っ込むために、うちは教室に飛び込んだのやった。

 

◇◇◇

 

 西陽が差し込み、青春の風情を醸し出す放課後の教室にて。

 うちは三人から、なんでみんなしてそないプンスカしてんのかて話を聞いていた。

「だって……羊ちゃんがさいしょに嘘ついたんだもん」

「だからなんで嘘だって決めつけてんのよ!」

 ついさっきまでは冷戦状態やったのに。

 神さんが発言し出した途端に羊ちゃんが噛みつき出して、一気に争いの熱が燃え始めよった。

「見ればわかるんだから嘘に決まってんじゃん! しかも嘘ついただけじゃなくて私たちのこと煽ってもいたよね!」

「煽ってないですしー! 事実を言っただけじゃないのよ!」

 おぉすごい。

 こんなバチバチにやり合っとる二人の姿なんか、普段教室におるときには全然想像できんわ。

 一方でお地蔵さんのように沈黙を貫いている子日ちゃんも、なんやいつもの穏やかでホンワカしている様子とは違って見えるし。

「なぁなぁ、なんでこんなことになっとるん?」

 キーキーといがみ合っとる二人よりは、まだマトモに話できそうやと。

 口げんかしとる二人をじっと見つめてる子日ちゃんに、事情を教えてもらうべく、そう聞いてみたんやけど。

「……みんな今日は部活もなかったので、最初は三人で仲良く話してたんです。でも羊ちゃんが『そういえばあたし、身長伸びたんだよね』と、急に何の前触れもなく嘘をつき始めました」

「だから嘘じゃないし!」

「お、おぅ……なるほど?」

 とつとつと静かに、これまでのいきさつを話し始めた子日ちゃんの言葉にも、羊ちゃんは過剰な反応を示しとった。

 いやでも……別に身長ぐらい普通に伸びるやろ。

 一応うちら育ち盛りの女子高生やで?

 まぁこんだけではまだ何も判断できんな。

 『ひとまず続きを』と目線で促すと、噛み付いてきた羊ちゃんを冷ややかな目で見つめとった子日ちゃんが、あらためて口を開いた。

「その時点ではまだ、羊ちゃんが大嘘つきなだけでしたけど……」

「誰が大嘘つきよ!?」

「羊ちゃんだよ!」

「ど、どうどう……落ち着きなはれや」

 そのあと子日ちゃんの語ってくれた談によれば。

 途中からうちは一体なに聞かされてるんやと頭が痛なってきたけど、なんやこういうやりとりがあったらしいで……。

 

◇◇◇


 直接見たわけやないけど、話を聞いてる限りではちょっと小バカにしたような表情をした羊ちゃんが。

「二人は……伸びてるわけないか」

 なんちゅうて、自慢に加えて煽りを入れはじめよったらしく。

「は、はぁ!? 子日ちゃんならともかく私は大きくなってるし! そもそも羊ちゃんもサイズ変わってないじゃん! 嘘つきじゃん!」

 ちなみにこの神さんの発言で、子日ちゃんと神さんの仲にも亀裂が生まれはじめたらしく。

「わ、私ならともかくってなんですか! 神さんなんて入学してから一ミリだって伸びてなさそうですけど!」

「そうよね!? 神さんこそクロスワードであたしのこと騙したクセに! どっちが嘘つきよ!」

 クロスワードで騙すって何やねん……。

 人のこと騙くらかせるような道具とちゃうやろ。

「あー! そうやって二人で私のこと敵にするんだ! 数の暴力とかひきょうだよ! 二人とも私のこと嫌いなんだ!」

 保育園児みたいな反論やめぇや。

 急に被害者ムーブかましとるのも草やし。

「嫌いじゃないですけど!」

「そうよ! 別に嫌いだなんて言ってないじゃない!」

 急にイチャイチャしだすのやめや。

 脳がバグるやろ。

「んじゃなんでそんなひどいこと言うの!?」

「神さんだってあたしのこと嘘つき呼ばわりしたじゃん!」

 せやね。

 被害者面しよるけど、最初にひどいこと言うたん神さんやもんね。

「んじゃ何ミリ伸びたんですか!?」

 おぉ、子日ちゃんよぉ聞いた!

 ようやくまともに話が進みそうやな!

「じゅ……十センチくらい」

 すまん神さん。

 羊ちゃん大嘘つきで間違いなかったわ……。

 そっから先もあーだこーだと、チビちゃんたちの口ゲンカは加熱してったらしいけど。

 うちは机から引っ張り出した数学のプリントを眺めてたから、もうよぉけ頭に入ってこんかった。

 

◇◇◇

 

 せやんな。

 なんやいろいろあって、んで結局ワイワイガヤガヤしてからに、さっきみたいな三すくみの状況になったんやな。

 はなし聞いてる限りでは、この三人は三人ともに『自分がこの中では一番大きい!』って思とるっぽくて。

 だから日々や些細なところでマウント取り合ったり、蹴落としあったりしとるらしいな。

 あぁ……首なんかツッこまんかったらよかった。

 可愛らしいとすら途中から思わんくなるほどに、不毛な争い過ぎるやろ……。

 いやまぁ、だとして。不毛な争いやて安心して呆れてられるんも。

 この子ら基本的に良い子ちゃんズやから、本気で誰かが傷つきそうなこと言ったりはしてないみたいやねんな。

 仲良くケンカしてるんやったらもうそれでええわ。いくらでも好きにやっとって……。

 その後もワーワーキャーキャーと、ママのお迎えが来るまで言い争ってる園児ちゃん、もとい可愛いクラスメイトをその場にほかしたままで。

 間の抜けた疲労感をお土産にしながら、うちはとっとと教室を後にしたのやった。

 

◇◇◇

 

 ちなみに美術室に戻ってちょっと絵の続きなんか描いたあと。

 部活終わりのチャイムを合図に、他の部員の子とおしゃべりしながら店じまいして、ダラダラと寮に戻る途中の学校の下駄箱で。

 三人して可愛い笑顔を浮かべて、仲良く楽しそうに話しながら、みんなして帰宅しよる神さんたちを見かけた。

 ……うん。仲良さそうで何よりや。

 ちなみに三人とも、うちからみたら同じサイズやからな。

 はやく大きくなれるとええね……。

 保育士さんは大変やなぁ、とか。

 さっきプレゼントされた疲労感がなければ、ただただ微笑ましかったんにな、とか。

 そんな感慨を抱きながら、なんだかんだ仲良し三人組の背中を、うちは空笑いしながら見送ったのやった。 

 

◆◆◆

 

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