ユニコーン1
フォルティス国には、世界で唯一、ユニコーンが住んでいる。
首都デフェンドには大きな王立動物園があり、そこで、ユニコーンも見ることができた。
「わあ。意外と、ユニコーンって大きいのね?ペガサスより大きいとは思わなかった!」
真っ白い身体、すべすべの白い角を持つユニコーンを初めて見て、子供のように、はしゃぐ。
『うるさい。このガキ。耳障りだ。』
「え?フィロス?私、うるさかった?」
「いや、私は、何も言ってないが?」
『馬鹿め。どこから声がしているかも、気付かないのか。間抜けだな、お前は。』
私は声の主を探して、まわりをきょろきょろ見てしまう。
『こっちだ。お前の金の目は、節穴か。』
「うそー!!!ユニコーンって、しゃべれるの!?」
『うるさい。と、さっきから言ってるだろう。もう少し、小さい声でしゃべれぬのか。』
私の目をじっと黒い目で睨みつけている1匹のユニコーン。他のユニコーンより、一回り大きく、堂々としている。真っ白いたてがみは長く、風にたなびくたび、日の光の加減なのか、白銀にきらきらと輝く。そのユニコーンのいるところだけ、絵のような美しさだ。
「ごめんなさい。あの、このくらいの声なら、大丈夫?」
声のトーンを少し、落とす。
『ああ、それで十分だ。そして、話ができるユニコーンは、ほとんどいない。ここにいるユニコーンの中では私だけだ。そして、私の声が聞こえる者も一握り。お前、なぜ、私の声が聞こえる?フォルティス人ではないようだが?』
「わたくしの父がフォルティス人なの。それで、あなたの声が聞こえるのかしら?」
『お前、名前をなんという?』
「ソフィア。ソフィア・ダングレー、じゃなかった、ソフィア・スナイドレー。」
『ランドールの貴族だな。…父親の名前は?』
「アクシアス・プラエフクトウスだけれど…。」
『アクシアス?アクシアスだと?おまえは、アクシアスの娘か?アクシアスは、どうした?どこにいる?なぜ、私に会いにこない?』
「え?ユニコーンさん、お父様を知っているの?」
『カイザーだ。私の名前は。で、アクシアスは、今、どこにいる?』
「カイザーさん。…お父様は16年前に亡くなったわ…。」
『死んだ?アクシアスが?…そうか。』
ユニコーンがくるりと後ろを向き、いきなり、奥に向かって走って行ってしまった。
「ソフィア?いったい誰と話をしている?」
フィロスが、いぶかしげに私の肩をたたく。
「あ、フィロス。あの、今、走っていった、ユニコーン。カイザーさんって言って、お父様のこと、知ってるみたい。」
「…ソフィア、疲れがたまっているようだね。宿に戻ろうか?」
「疲れてないってば。確かに、カイザーさんはしゃべったわ!ユニコーンで話ができるのは少なくって、ここにいるユニコーンの中では、カイザーさん以外は、しゃべれないって。信じて?」
「ソフィアが言うなら、信じよう。…しかし、ユニコーンがしゃべるという話は、聞いたことが無い。なぜ、あのユニコーンはしゃべれるのだ?そして、なぜ、しゃべれるような高い知能を持つ者が動物園にいる?」
その時、ユニコーンのカイザーがまた、こちらに戻ってきた。
『ソフィアと言ったな、檻の中に、手を入れろ。』
「こう?」
檻の中に、手をさしのべる。
と、カイザーが、口の中にくわえていた何かを、ぽとりと私の手のひらに、落とした。
落とされたものをみると、ブローチのようだ。
「ブローチ?」
けげんそうな私を見て、フィロスが、ブローチを覗き込む。
「このブローチの紋章は、プラエフクトウス教皇の紋章だな。」
「お父様の、ブローチ?」
『アクシアスの落とし物だ。アクシアスは、時々、私に会いに来て話し相手になってくれた。ある日、ランドールに留学するから、当分来れないと挨拶に来てくれた時、落としたものだ。檻の外に落ちていたが、園内のカラスに頼んで、私に持ってきてもらった。アクシアスがまた来たら返そうと思って、隠しておいたのだが。』
「そうだったの。ありがとう、カイザーさん。」
カイザーが、哀しそうな眼をする。
『ここに囚われて、30年経つか…。アクシアスが死んでも、おかしくない年月なのだなあ。』
「囚われて?」
『本来、私はユニコーンの王族に連なるものだ。人の手に捕らわれることはありえない。だが、私はランドールの魔術師に捕らわれ、ランドールにこっそり連れていかれるところを、フォルティス国の兵士が、密輸を摘発して、未遂に終わった。だが、兵士が密輸を摘発したとき、私は魔術師に眠らされていた。気付いた時は、すでに、ここに入れられていた。その後、アクシアスに会うまで、私の言葉がわかる者がおらず、アクシアスが、私がここに居る理由を知って、檻から出してくれるよう王宮にかけあってくれたそうだが、許可が下りなかったそうだ。力が及ばなくて、すまない、と謝っていた。』
私の顔色が青くなる。
「ランドールの魔術師が。なぜ、あなたを。」
『私の角が目的だろう。ユニコーンの角は、ランドールの魔術師にとって大事な素材なのだろう?ユニコーンの角は切っても3年経てば、また、元の大きさに成長する。私を捕らえた魔術師は、私を飼って、角を定期的に取りたかったんだろう。そもそも、角を使うのは魔術師だけ。フォルティス人にはアクセサリーにするくらいが、関の山。ただ、ランドールに売れば高く売れるので、フォルティスの主要な輸出品になっているはず。』
「フィロス。ねえ。このユニコーンのカイザーさんをここから出してあげることはできない?自由の身にしてあげてほしいの。」
フィロスに、カイザーから聞いた話をする。
眉間に皺を寄せてフィロスは話を聞いていたけれど、すぐに、うなずく。
「君が欲しいものは、なんでも手に入れると、約束した。君の望みの通りに、必ず。」
カイザーにまた来るので待っていてね、と挨拶をして、フィロスに連れられてホテルに戻った。
失敗に終わった時のことを考えて、自由の身にすることは話さずに。
私をホテルで留守番させて、フィロスはどこかに出かけていき、夜になってから戻ってきた。
「ソフィア。今夜、あのユニコーンを檻から出す。檻から出たら、ユニコーンは、そのまま、自分の住処に帰るだろう。だが、どのユニコーンか、私にはわからない。動物園に来てくれるか?」
「フィロス!!ありがとう!!!」
教皇の血筋である父でさえ、カイザーを自由にできなかったので、外国人であるフィロスにも難しいだろうと、少しだけ、心配していた。
それなのに。半日とたたず、フィロスはカイザーを自由にしてきたのだ。
あまりのうれしさに、フィロスに飛びつき、抱きつき、頬にキスしてしまう。
すぐに、お礼ならそこでは足りない。と唇を奪われたけれど。