フォルティスへ入国
3週間、ランドールの首都ランズで過ごした後、また、私達は国境を越え、フォルティス国に入国する。
暑くて大変だったサハラと違い、フォルティス国は涼しくて、むしろ肌寒いくらいだ。
ランドールの貴族が、夏の避暑地として旅行に来る理由がよくわかる。
フォルティス国の首都デフェンドに入れば、目の前にはどの建物よりも高くそびえる尖塔を持つ大聖堂。フォルティス国教の大本山が目に入る。
大聖堂は、そのはるかかなたにそびえる王宮ほどの大きさは無いけれど、高さだけだったら大教会の方が高いように見える。
ここの教皇がたぶん、私のお父様の親類だと思う。
街の中で「プラエフクトウス教皇猊下」と耳に入ってきたから。
フィロスから、会いたいなら面会申請を出すと言われたけれど、お父様は勘当された、と聞いている。
だから、私は会わないと、フィロスに伝えた。
フォルティス国には魔術師が居ない。でも、この首都デフェンドには、ランドールでは珍しくない魔力で光るランプが街灯に使われていた。驚く私に、フィロスが説明してくれる。
「我がランドールが、フォルティスに一番、輸出しているものは魔力を籠めた魔石だ。フォルティスには魔術師が居ないので、魔道具を動かすには魔石が必要だ。使われて魔力が無くなった魔石は、逆に、我がランドールに輸出される。ランドールから買い取った金額の1割程度の値段に下がるけれど。魔力が無くなった魔石は、この国では石ころ同然だから。そして、我が国に戻ってきた魔石はまた魔力を籠めて、フォルティスに輸出される。」
「魔力を籠めるって…・。」
「うん。君も知っている通り、罪を犯した魔術師がさせられている。それ以外にも、市井には魔力を籠める専門の魔術師の店がある。」
「フォルティス国には、魔石に魔力を籠める魔術師がいないの?」
「いない。そもそも、魔術師は他国へ旅行に行くことはできるが、住むことを許されていない。私達が旅行に行く時も、厳しい審査があっただろう?私は他国にしょっちゅう仕事で出ているから、許可がいらなかったけれど、君を連れ出すときは、提出する書類が多くて、うんざりしたのを覚えているだろう?魔術師が国境を越えるのは、魔力を持たない民よりも審査が厳しいんだ。帰国日も決まっていて、その日までに帰国しなければ、魔術師師団が、捜査に出るくらい。そして、帰国日を守らなかった魔術師は、次回、国外に出るのがもっと難しくなる。他国に住めるのは、外交官など特殊な立場の者だけだ。…公表はされていないけれど、ランドールから長く離れると、魔術師の魔力が弱くなる。だから、外交官なども1年交代で、決して長くは他国に滞在しない。」
「じゃ、わたくし達がサハラからランドールに戻った時、3週間、居たのも?」
「そう。魔力を弱らせないため。数か月程度では影響が無いと言いたいけれど、君がランドールを離れたのは今回が初めてだ。だから、リスクを減らすために、3週間取った。」
「そうなの…。そういえば、魔術学院の校歌にもあったわね。『ランドール、魔力の満ちる国』。魔術師は、ランドールの大地から魔力をもらっているのかしら?」
「ハッカレーに言わせると、循環しているらしい。魔術師が住んでいるから、ランドールに魔力が満ちている。魔術師は、その大地から魔力を補充している。ぐるぐる回っていると。」
「わたくし、知らないことばかりだわ。」
「私も何でも知っているわけではないから、心配しないことだ。…さ、ホテルに着いた。今日はこのまま休んで、観光は明日からにしよう。」