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魔術師ソフィアと魔術師の国  作者: 華月 理風
砂漠の国サハラ
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海岸沿いの街ラグーン3



 私達はその夜会の後2カ月ほど、ラグーンに滞在した。


 マドレーヌ夫人ともすっかり仲良くなり、マドレーヌ夫人と街で買い物をしたり、領主の館でお茶をいただいたりもした。

魔術師であることさえ、知られていなければ、サハラの民は良い人ばかりだった。


 もともと、サハラは観光立国だ。主な観光客はプケバロスとフォルティシアだけれども。だから、基本的には明るく開放的な雰囲気が漂っている国なのだ。


 また、領主夫人のマドレーヌと一緒に街を歩いていれば、笑顔で挨拶してくる人や話しかけてくる人も多かった。

マドレーヌ夫人は、今ではすっかり、領地の民に愛されているのがよくわかる。

そして、皆と話をすれば、言語が違うだけで、ランドール人と同じ人間なんだと、当たり前のことを思う。


 さて、サハラは砂漠の国というけれど、ラグーンは海沿いの街なので、サンゴや真珠が名産品だった。

フィロスが、私のためにたくさんのアクセサリーを買い込んだのは、言うまでもない。

要らないと言っても、お店の人から、「なんという美しい奥方様。その美しさをさらに引き立てるアクセサリーがございますよ?」とささやかれるたび、「見せてもらおう。」と、上客になっており、マドレーヌ夫人からも、甘やかされていますね。と、くすくす笑われる始末だ。


 ラグーンの街を出れば、サハラの首都トルクまで、レンガで舗装された街道が伸びているだけで、周囲荒涼とした砂漠が広がり、サボテンと岩石以外、何もない。

初めて見たときは、少し、怖かった。

サボテンが生えている地域はまだ砂漠がマシな方で、首都トルクの先には植物が何も生えていない、死の砂漠と言われる場所があると聞いてからは、なおさら。

フィロスに、砂漠でも育つ植物を魔術で作れないのか聞いてみたけれど、そのような研究をしている魔術師は聞いたことがないそうだ。

帰ったら、ジェニファーに研究できないのか、聞いてみようかな、と思う。


 ちなみに、砂漠に生えているサボテンには、薬効をもつ種類もあると、マドレーヌ夫人が教えてくれた。しかも、育つ場所を選ばないというので、鉢植えに植わっているサボテンを何種類か買ってもらい、輸送用の荷馬車で、すでに、スナイドレー公爵の領地に送られている。



*****



 明日はラグーンを出る、厳密には、サハラ国から出るという日に、マドレーヌ夫人がホテルに訪ねてきてくれた。


「明日でお別れ、って、とても、さびしいですわ。」

「わたくしも。ぜひ、いつか、ランドールに里帰りされてくださいませね?ご実家に泊まるのが難しかったら、スナイドレー公爵家に泊まってくださいません?」

「まあ、うれしいお誘いですこと。ぜひ、とお願いしたいところですけれど。」

マドレーヌ夫人が、それでも、ふっと悲し気な光を目に宿す。

「…おそらく、わたくし、里帰りしないと、思いますの。」

「ラグーン領主様が、反対されているのでしょうか。」

「違いますの。…わたくしの、問題ですの。」


マドレーヌ夫人が、ほうっと、ため息をつく。

言うか言わないか、悩んでいるようだったけれど、やがて、決心したように話し始める。


「先日、ランドール以外の国では、魔術師は恐怖の対象だと、申し上げましたわね。実は、もう一つの気持ちがございまして。お話したくなかったのですけれど。…ねたみ、なのですわ。」

「ねたみ、ですか。」

「ええ。…初めて、お会いした夜会で、わたくし、ソフィア様に、ランドールの貴族の方々の話をお聞きしましたわよね?」

「はい。」

「その時、ソフィア様の同級生エリザベス様のお母様について話されたことを覚えていらっしゃいますか?」

「アークレー侯爵夫人の話、ですか。…えっと、リズと並んでいると姉妹にしか見えない、と言ったことでしょうか。」

「そうですわ。」

「あの、それが、何か?」

「ふふ。やはり、お気づきではないのですね。…魔力を持つ者は、魔力を持たない者よりも、はるかに寿命が長い。ということに。…アークレー侯爵夫人は、わたくしのお母様のお友達でしたの。…わたくしをご覧になって?どこから見ても、もう、中年の女性ですわ?髪には白いものも混じって、もうすぐ、おばあちゃんと言われる年代になります。当然、わたくしのお母様はもう年を取りすぎて亡くなっています。でも、アークレー侯爵夫人は、まだ20歳くらいにしか見えないのでしょう?…わたくしが、里帰りできない、いいえ、したくない理由が、おわかりになりまして?」


 衝撃を受けて、黙り込む。


「どこの国の王も考えることは同じです。不老不死。あるいは、若返り。ランドールの魔術師達は、不老不死ではないけれど、100年経っても若々しい。100歳でも、20歳にしか見えない魔術師が多いはずです。自分が子供の時から知っている人が、自分は老人になっても若々しい容姿のまま変わらなかったら。それが、ねたましくない人間は、いないでしょう。」


 マドレーヌ夫人が、寂しそうに微笑む。


「もちろん、わたくしがランドールに里帰りしたら、魔力を持っていない友人たちとも、再会できるでしょう。魔力をもってない彼女たちなら、今のわたくしの姿と同じでしょうから、懐かしい、会いたい、と思います。…でも、魔力を持っている同年代の友達と会うのは…。わたくし、きっと、20年前と変わらない姿に嫉妬して、醜い姿を彼女たちに見せてしまいますわ。…だから、ランドールには、帰りません。」


 なんといえば良いのかわからなくて、唇をぎゅっと閉じたままだ。


「ごめんなさいね。最後に、嫌な話を聞かせてしまいました。…でも、ソフィア様、わたくしは、2か月で、あなたが大好きになりました。まるで、自分の娘のように思っていますの。だからこそ、あなたが心配です。あなたは、魔術師が魔力を持たない者からどのように見られているのか、もう少し、用心が必要だと思いますの。これから、あなたが自分の身を守るために。

先ほどは、ランドールに里帰りしないと申しましたけれど、あなたに会えて、ランドールの話も聞けて、わたくしはうれしかったことも本当ですのよ。どうか、ソフィア様、あなたの行く道が、栄光と、幸せに満ちたもので、ありますように。」


「マドレーヌ様。…わたくしこそ、マドレーヌ様に出会えて、良かったです。大切なお話をたくさん、聞かせていただきました。わたくしは何も考えて生きてこなかったことに、気付かされました。…わたくしは、魔術師です。でも、これからも、どうか、わたくしと、お友達でいていただけませんか。わたくしもマドレーヌ様が大好きです。」


 マドレーヌ夫人は涙ぐんで、うなずいてくれた。私のような小母さんでも良ければ、と。

私達は、しっかりと抱擁をかわし、文通を約束して、別れた。



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