魔術師の国4
魔術師の国の首都、ウトピア。
その一角の館の花々が咲き乱れる庭園で、子供のにぎやかな声がする。
「お母様ぁー、エルフィが、蝶々を、初めて、飛ばしたよ!」
「まあ、そうなの?エルフィ、見せてくれる?」
「うん!見て!お母ちゃま!」
藍色の長いさらさらの髪に、黒い瞳の小さな少女が、「パピリオ!」と、つたない発音で、叫ぶ。と、彼女の周りに、たくさんの白い蝶々が舞い、少女が天に手をさしのべれば、その手に導かれるように、天空に飛び立っていく。
「まあ、きれいね、エルフィ。素敵だわ。」
私は、私の可愛い子供の頭をやさしく、なでる。
「あ、ずるい。エルフィばっかり、お母様にかわいがってもらって。」
双子の男の子が、私の膝にとびついて、甘えてくる。
「あらあら、ルーク、ルーカス、もうすぐ、魔術学院へ入学なのに、まだまだ、甘えっこね。」
黒髪、金色の目をした瓜二つの2人の少年の頭も、ぐりぐり、なでてやる。
「ソフィア。」
呼ばれて、屋敷の方を見る。
「フィロス?」
「すまない、ちょっと、話がある。」
「わかったわ。さ、みんな、お庭で仲良く遊んでいてね?お母様は、お父様に呼ばれたから。」
「わかった。お母様。エルフィ、おいで、向こうで、シャボン玉を作ろう!」
子供たちが、駆けていく。
私がフィロスのそばに行けば、フィロスはいつも通り私の腰に手を回し、彼の書斎まで連れて行ってくれる。
「どうしたの?厳しい顔をなさっているけれど。」
「プケバロスが、火の薬を使って、サハラを攻め滅ぼした。」
「なんですって?」
「ランドールは、プケバロスを迎え撃つ。」
「戦争に、なるのですね?」
「プケバロスは、火の薬をそのまま使うのでなく、大砲という、金属の筒に入れて打ちだす兵器を作り出した。…ランドールの軍も火の薬は極秘で使い慣れているし、大砲は、ハッカレー学院長がすでに開発して、軍部に渡してある。王国騎士団がプケバロスと戦う。今回、魔術師師団は1人も出ない。」
「そう。では、あなたも今回は出ないのね?」
「ああ、ウトピアから出ない。私達は万一、ランドールが負けそうになったら、助ける約束は、国王としている。」
「負けそうなの?」
「いや。恐らく、大丈夫だろう。魔術師の戦いを見慣れているランドールの兵士達は、火の薬を怖れない。」




