火の薬5
クピドゥス・プラエフクトウスは、その後、ハッカレー学院長から聞かれたことに何もかもすべて、すらすらと答えた。
火の薬のことも、フォルティス国の軍の機密も、ランドールに対する考えも、備えも、知っていることを、全て。
ハッカレー学院長が不審に思うほど、たくさんの情報を。
「なぜ、そこまで、話してくれるのかね?」
クピドゥス・プラエフクトウスは、ふん、と、笑う。
「この世界が、もう、どうでもいいからだ。魔術師どもよ。さっさと、フォルティスを、そして、世界を、滅ぼせ。」
その夜。
クピドゥスは寝台に横になり、目をつぶったまま、昼間の光景を思い出していた。
紺色の髪をたなびかせ、金の瞳をきらめかせ、駆けてくる、光景を。
ふいによみがえるアクシアスとの最後の会話。
「おじい様。」
「おお、アクシアス。そうか、もう、ランドールへの出発時間だの。」
「どうしても、行かなければ、なりませんか?今までの魔力持ち同様、独学でも、私は構わないのですよ?むしろ、私はおじい様のそばで、おじい様を護りたい。」
「アクシアス。そなたに護ってもらわねばならぬほど、わしは弱くは無いぞ?…むしろ、そなたは、そなたの持つ類まれないその力を制御する術を存分に学んできなさい。4年後、今より強くなったそなたに会えるのを、わしは楽しみにしている。」
「おじい様…。わかりました。おじい様に誇りに思ってもらえるような、優れた魔術師として戻ってきます。…でも、お願いです。どうか、父ともう一度、話してみてくださいませんか?」
「…アクシアス、そのことは、そなたが気にすることではない。さあ、もう、行きなさい。」
金の瞳をほんの少し陰らせて、それでも、行ってまいります。と笑顔を見せて、手を振って出発していった、アクシアス。
あの時、アクシアスの願い通り、息子ともう一度、話し合っていたのなら、未来はまた、変わっていたのだろうか。
閉じた目尻から涙が伝い落ちる。
彼は静かに、奥歯を強く、強く、噛みしめた。
がりっと、何かが砕ける音。
*****
「教皇が、死んだ?」
「はあ、服毒自殺されてしもうた。」
「どうやって、毒を?警戒して、身につけていたものは全て外させ、衣服もこちらで用意したもの、だったはずだ。」
「奥歯に、毒を仕込んでおった。」
「…そこまでは、見なかったな…。今後は、注意することにしよう。」
「クピドゥス・プラエフクトウスは、実にたくさん話しをしてくれた。今後のランドールにとって有益な。そして、彼の国での魔術師に対する考えも。…だが。」
「だが?」
「いや、…やめておこう。…とりあえず、軍部への報告資料は今、作らせておる。火の薬についてもまだ、彼の手元で止まっていた。フォルティス国にその痕跡はもう無い。」
「それは良かった。」
「…もっとも、どこかで、いつかは、必ず、また火の薬は発明されるであろうが、の。」
「ああ、そうだな。とりあえず、この任務は完了、で、良いな?」
「うむ。ご苦労だった。」




