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フォルティスの混乱



「野生のユニコーンが隣国ランドールへ群れで逃げ出していると?」

フォルティス国の王宮で、怒りに声を震わせて、国王が問う。


「ど、どうやらそのようでございまして。」

汗をハンカチで拭きながら、ランドールから戻ってきた大使は奏上する。



「その映像が魔術師の捏造によるものでは、ないのですかな?」

険しい顔をした国務大臣が問う。


「私も、それを疑いましたが…。映像が映っていたあたりに見覚えがありましたので、帰国時、そのあたりを歩いてみましたら、ユニコーンの群れの足跡が、うっすらと残っておりました。また、映像の前後の流れからしても、ほぼ捏造とは考えられず…。」


「国務大臣。これ以上、我が国のユニコーンが他国に脱走しては困る。国境沿いの森の中に罠を増やすように。」

フォルティス国王が苦々し気に吐き捨てるように言う。


「承知しました。…それにしても、そもそもの問題。なぜ、我が国のユニコーンは繁殖しなくなったのでしょう?それさえ、解消すれば!!!」


「何年も国立動物研究所が研究しておるはずだ。まだ何もわかっておらぬのか。」

「はい。陛下。何もわかっておりません。」

「無能どもめ。何人か責任者に責任を取らせろ。」

「は…。」


国王は謁見の間を退室し、自室に戻るために、長い廊下を歩く。


「なぜだ。なぜ、突然、10年前からユニコーンが生まれなくなったのだ。10年前、何か、あったか?」


全く、記憶にない。

ユニコーンについては、関係がありそうにないことまで調査させている。

10年前にユニコーンがらみで、何か、変わったことと言ったら、王立動物園の園長が、突然、辞任したくらいだ。生まれ故郷の田舎で隠居したいという理由で。

園長が隠居したくらいで、ユニコーンに影響が出るわけは無い。園長はユニコーンの飼育係でもなかったし。


「念のため、その元園長に思い当たることが無いか聞きに行かせるか?」


そして、国王は、元園長が数年前に病気で亡くなったことを知る。


「数年前か。であれば、ユニコーンの繁殖には全く関係が無いな。…はあ、無能な研究者共め。なぜ、原因がつかめぬのだ…。」


そもそも50年以上前からユニコーンの繁殖数はゆっくりと落ちていっていた。

だから、50年前には、野生のユニコーンを捕らえたらなるべく殺さず、家畜にすることを推奨してきた。

また、密輸業者に捕まったユニコーンは今までは野生に逃がしていたけれど、王立動物園に移送するように命じたのも、この頃だ。


ランドールの魔術師がこっそり密輸を企てた事件もあったな。

あの時は、我がフォルティス国の国境警備隊が活躍してくれた。

何頭ものユニコーンが、眠らされておったのを、無事取り戻して王立動物園に保護したのだ。

あの時は、ランドールの魔術師相手に泡を吹かせられて、フォルティスの王宮は喝采を叫んだものよ。


それが、今回はランドールにやられそうになっている。


ユニコーンの繁殖がぴたっと止まってから、ユニコーンが絶滅するかもしれないという噂があっという間に世間に広まり、ユニコーンの角はいきなり高騰した。

1本10万ドールだった角が、100万ドールに跳ね上がった。


ところが、主要な輸出先であるランドール国が100万ドールで買うことを拒否した。我が国にはまだ十分在庫がある。だから、そのような法外な値上げは認めない、と。

おそらく、ユニコーンが絶滅すると言う噂も、ランドールは信じていなかった節がある。


ユニコーンが絶滅してからであれば、100万ドールどころか、1000万ドールだって出すしかないだろう。あの国は。

そう思って、国王はいったん、すべてのユニコーンの角を王宮に納めるよう命令した。言い値で買うから、と。

今は輸出できなくて外貨が得られず苦しいかもしれない。でも、何十年か経ったら、きっと、元を取り返せる。それまで、耐えるのだ。

…そう考えていたのに。


まさか、ランドールで、野生のユニコーンが増えているなんて!

ランドールに野生のユニコーンが居るのなら、フォルティス国からユニコーンの角を買う必要はない。


1本あたり100万ドール出して市場から集めたユニコーンの角は、大損になったということだ。国庫に穴を開けてしまった…。


フォルティス国王は、自室で1人、頭を抱えてうめく。

これから、フォルティス国の財政はどう建て直せばいいだろう?

血走った眼で、フォルティス国王は呪いの言葉を吐く。


「ランドールめ。ランドールの魔術師め。貴様らが我が国のユニコーンに何か魔術をかけたのだろう?きっと、そうだ。我が国からユニコーンを取り上げるために。己の欲望を満たすために!きっとそうだ!おのれ、いつか、絶対に、思い知らせてやる!!!」



…フォルティス国王は、読書が嫌いだ。

だから、自室の代々の王が読むべき本が収められている小さな書棚に、『金の角をもつユニコーン』の絵本が、ひっそりと眠っていることに、気付かない。

 …そして、アクシアス・プラエフクトウスが、動物園にユニコーンの王が居るから開放してほしいと、願い出たことも、すでに記憶に無い。




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