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魔獣の凶暴化1



新婚旅行から戻り、ユニコーンが領内に住んで3年目のある日。


「公爵、大変です!大型の魔獣が出没し、大勢の死傷者が出ています!」


突然、フィデリウスが慌ただしく調薬室に駆け込んできたため、私達の薬の研究をしていた手が止まる。


「街には魔獣が入らないよう、配置した傭兵団がいるはずだ。彼らは何をしている?」

「それが全員、一撃で倒されたようで。今、魔獣と戦える者がほとんどいないとのこと。」


フィロスが、舌打ちする。


「役立たずどもめ。仕方ない、私が出る。」

「わたくしも行くわ。治癒魔術、治療用の薬、すべて必要でしょう?」

「わかった。君は怪我人を見てくれ。戦うのは私だけで十分だ。」

「ええ。でも、くれぐれも、気を付けて。」


フィロスが屋敷から飛び出していく。急ぎ、引き出された馬に飛び乗って、街の入り口めざして。

私もマーシアとグレイスに指示して、調薬室から魔力を持たない普通の人用の薬をかき集め、馬車に運んでもらい、その馬車に同乗して、街の入り口に向かう。


現地に到着する前から血なまぐさい臭いが漂ってきて、魔獣が咆哮する声が響き渡る。

…大きい!

街にある建物は基本的に2階建て。その2階建ての建物の2倍くらいの高さの魔獣が街の入り口で、暴れまわっている。

フィロスが魔術剣で相手をしているけれど、街に入り込んでいるし、まわりに人が多いので、大きな魔力を放つことができず、苦戦しているようだ。

でも、彼なら大丈夫、絶対。


「怪我人はどこに?」

馬車から飛び降りて、近くにいた住民に声をかける。

「奥方様!こちらです!」


怪我人が集められていたのは、大きなお店の中。

店の入り口のそばには、2人の亡くなった傭兵が寝かされている。

…助けてあげられなかった。悔しい。

それでも、気持ちを切り替え、軽微な怪我人に薬を配るよう、マーシアに指示する。。

重傷者、意識が無い者は、私が片端から治癒魔術をかけていく。

魔術師であれば、体内の魔力が即時、肉体を修復するけれど、魔力を持たない民はそうはいかない。

魔力を持たない民であっても、治癒魔術は効力を発するけれど、傷を塞ぎ、出血をとめ、ほんの少し、損傷を治す程度だ。それでも、治癒魔術をかけなければ死んでしまうような重傷者を救える。

死んでおかしくない重傷者でも数週間後には障害を残さずに完治するから、私は魔力を持たない民にも惜しみなく治癒魔術を使う。


店の外からは相変わらず、魔獣の咆哮、そして、建物が壊れる音、悲鳴、怒号が響いている。

フィロスを手伝いたいけれど、怪我人の数が百を超えている。彼らのいのちを救う方が先だ!


全員の治療が終わる前に、ズドーン、と、何か大きな物が倒れる音がして、やった!倒した!という歓喜の声が聞こえてきて、ほっとする。


「ソフィア、どうだ?」

フィロスの声に顔を上げれば、彼は服が魔獣の血で青く染まっているけれど、怪我はしてないようだ。…良かった。

「もう少しで治療は終わるわ。幸い、生きていた人は全員助けられたと思う。重傷者が多いけれど、傷は治癒魔術で塞いだので、数週間、安静にしてもらえば、回復すると思うわ。」

「ありがとう、ソフィア。」

フィロスが町長に呼ばれて、また外に出ていく。


とりあえず、重傷者全員に治癒魔術をかけられたようだ。あとは、薬の配布が間に合っていなさそう。

馬車に戻って薬を取り出しているときに、近くで話をしている領民の声にその手が止まった。


「それにしても、こんな狂暴で、でかい魔獣がこの街に入ってきたのは、初めてじゃないか?」

「ああ、信じられない。街に入る前に傭兵団が必ずやっつけてくれたのに。一撃だぞ、吹っ飛ばされるまで。しかも、2人も死んだ。信じられん。」

「というかさ、最近、街に出てくる魔獣が増えてないか?」

「ああ、確かに。しかも、狂暴になってきてるよな。傭兵団が最近、手こずってるとこぼしていたぜ。」

「確か、3年前からか?」

「そうそう。それくらいか。」

「3年前って、何かあったっけか?」

「そういえば、公爵夫人がこの屋敷に住みだしてから、じゃないか?」

「え?夫人が原因?あの、優しい夫人が、今回の原因?」

「いや、そうは、言ってないけどよお…。」


私が近くにいることに、彼らは気づいていない。

当たり前だ。一報を受けたとき、私は薬の研究をしていたから、汚れても良いシンプルで動きやすい黒い服を着ていた。髪も黒い紐で後ろにひとつに束ねただけ、何も飾りがついていない。

しかも、怪我人を治療したから、顔も手も血や砂埃などで汚れているだろう。

彼らに気付かれないよう、そっと、薬の入った箱を持って、怪我人たちがいる店の中に戻る。

マーシアが気付いて、箱を受け取りに飛んできた。

「まあ、ソフィア様、わたくしにお申しつけくださればいいのに!…どうか、なさいましたか?お顔の色が悪いですけれど。」

「魔力を使いすぎたのか?」

いきなり、後ろからフィロスの声がし、さっと、横抱きにされる。

「フィロス!大丈夫!魔力は十分余裕だし、疲れてもいないから!おろして!」

「いや、ダメだ。もう十分だ。…マーシア、薬を配るのは頼んだぞ。私は屋敷に戻る。魔獣の処理は終わっているし、壊れた建物についても、町長に指示が終わった。私達が居る必要はもう無い。」

「承知しました。」



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