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ユニコーンの住まう地4



 その後、フィロスは屋敷の一部屋…、私とフィロスのどちらかが魔力を流さない限り、開かない扉の部屋の中に、ユニコーンの住む草原への転移陣を作ってくれた。

さらに、転移先の草原にも2部屋あるコテージを建ててくれた。

1部屋は転移陣のある部屋。もう1部屋は小さな台所がついて、テーブルとソファがある、お茶を飲める部屋。


「いくら速く駆けられるユニコーンだからといって、何度も往復されては人目につく。カイザーが屋敷に来るよりも、君が行った方が目立たないだろう。」

と言って。


カイザー達が引っ越ししてきて3か月後、カイザーとその妻のリリウムの間に子供が3頭、誕生した。

カイザーの一族に子供が生まれるのは実に70年ぶりとのことで、全員が大喜びしていた。

ちなみに、カイザーの一族ユニコーンの王の寿命は魔術師と大体同じで300歳くらい、だそうだ。

野生のユニコーンがだいたい30年くらい。


『やはり、我らは魔力が満ちる大地にいる方が調子が良い。』

カイザーが言っていた。

そして、その証拠に、カイザーの額にはすでに新しい角が10センチくらいの長さにまで成長している。

元の長さに戻るまで3年かかるはずだったけれど、この調子だと1年で元に戻りそうだ。しかも、白ではなく金色の角が生えている。

カイザーもそれは予想外だったようだ。


「ねえ、カイザー。あなた達、ユニコーンの王族はもともと金色の角だったのではなくて?」


『なぜだ?』


「わたくし、フォルティス国の絵本を手に入れたのだけれど、その絵本のタイトルが、『金の角をもつユニコーン』というのよ。そして、挿絵のユニコーンは角が金色に塗られていたわ。…作者は今から2000年前の人。だから、2000年前のあなた達は金色の角を持っていたのではないのかしら?」


『…私の父や祖父も、白い角だった。』


『カイザー。もしかしたら、魔力が角に影響しているのかもしれなくてよ?』


『母上。』


『ソフィア。両手をわたくしの前に出してくださいな。』


カイザーの母ガイアの前に両手を出せば、ガイアはぶんと頭を振る。

私の両手の中に、また、ずしっと落ちてくるガイアの角。


『ソフィア。わたくしの角もすぐ生えてくるでしょう。その角が金色だったら、あなたが言うとおり、わたくし達の一族は本来、金色の角だった、という証明になりますね?』


『母上、ずるいですわあ。私も試したいですわあ。金色の角がほしいですわあ。ソフィア、私の角も受け取って?』


カイザーの妻リリウムが生まれた仔たちをほおって私のところに駆けてきて、私に角をくれる。


「ちょ、ちょっと待って。こんなに一度に角を落とすことないんじゃないの?まして、リリウム、あなたは今、子育て中なのに。影響が出たらどうするの?」


『角のあるなしで我らの能力は変わらない。まあ、立派な角があった方がモテる、というくらいか?』


結局、ユニコーンの王族全員が金の角が生えてくるなら生やしたい、と一気に角を落としたため、その日、8本の角を持ち帰ることになってしまった。


3か月前にもらったカイザーの角の薬効はダントツに飛びぬけて高かった。

フィロスが最初に言ったとおり、普通のフォルティス国から輸入されているユニコーンの角とは全く別物。

輸入されているユニコーンの角を1つのポーションで50グラムくらい使うとしたら、カイザーの角は、粉にして1グラム以下で良い、それくらいの差があった。

フィロスも調薬時、一気に品質と効果が上がるので、驚いている。


輸入されているユニコーンは、1本300グラムとして約10万ドールだ。

400グラムの大きめのもので、約30万ドール。

でも、フィロス曰く、カイザーの角だったら、少量で高い効果があるため、売るとしたら粉末にして1グラム単位になる。1グラムでも100万ドールするだろう、と言っていた。カイザーの角は約700グラム。1本で70億ドール。天文学的数字で頭がくらくらする。

定期的に手に入るものとは言えないので、売りには出さないそうだけれど、魔法庁の研究者でどうしても必要な素材だとフィロスが判断したら、少し融通するそうだ。

そんなわけで、8本の角を抱えて帰宅した私に、フィロスはあきれ果てて、眉間をぐりぐりと揉んで、言う。


「君は、本当に、私には思いつかないことをやってくれる。」

と。


このユニコーンの王族の角が持つ可能性は非常に高い。

私は一度に9本手元にあっても使いきれないし、1本、国立魔術学院のハッカレー学院長に譲って、研究者に分けてもらったらどうかと相談する。


「このユニコーンの王族の角、ポーション以外にも多くの使い道がありそうでしょう?今、停滞している研究がこの素材で一気に進むかもしれないから、ハッカレー学院長にお譲りしない?」

「そうだな…。ユニコーンの王族の話はまだ当分、伏せておかなければならないが、さて、何と言って、ハッカレーに渡すか…。」

「ハッカレー学院長は秘密を守れる人なんでしょう?本当のことを伝えてしまっても良いのではありません?…わたくしの勘だけれど、カイザー達の一族は今年中にもっと増えると思うわ?出産ラッシュになると思うの。」

「絶滅する心配がない、ということか?」

「ええ。少なくとも、ランドールに居る限り。魔力が常に満ちている限り。」


その後、フィロスはハッカレー学院長に、ユニコーンの王族が自領に隠れ住まっていることと、彼らの角について打ち明け、1本、角を贈った。

驚いたことに、ハッカレー学院長はユニコーンの王族の話を知っていた。2000年前に突然姿を消したため、絶滅したと思っていたそうだ。王宮の禁書の中に記録があったらしい。


「まさか、フォルティス国に移住していたとは、のう!!!」


ぜひ会わせてくれ、と駄々をこねられ、フィロスはカイザーに許可を得たうえで、ハッカレー学院長を連れて行った。

ハッカレー学院長は、マッドサイエンスだったらしい。

初対面の挨拶もそこそこに、カイザーに解剖させてくれと頼んで、二度と来るな!と出禁を食らって、しょんぼりしていた。


ともあれ、ハッカレー学院長に贈った角は私の予想通り、停滞していた多くの研究を一気に前進させる。


そして、カイザー達ユニコーンの王族の角も予想したとおり金色の角が生え、しかも1年で元の大きさに戻った。


年に一度は角を贈るという約束を守って、彼らが来てから1年後、カイザーの母ガイアが金色の角も惜しげもなく譲ってくれたけれど、1年前にもらった白い角とは全くの別物で、使う量云々の問題ではなく、別の素材として新しい使い方の研究が必要だとフィロスが角の分析に情熱を燃やしだした。

魔力の影響だけでなく、薬草として薬効の高い白雪草を普段食べていることも影響しているのは間違いないだろう。


「今までのユニコーンの角、という概念を、粉々に打ち砕いてくれたな。さすがに金色の角のことはハッカレー学院長にも話さず、もう少し研究してからどう扱うか決めたい。」

とフィロスが言っていた。




 ユニコーンの王族は、ランドールに来てから一気にその数を増やした。


今、緑の平原では、27頭のユニコーンの群れが草を食んでいる。

ユニコーンが一度に産む子供は3頭から5頭。

そして、ランドールに来た年にカイザーの仔が3頭生まれたのを皮切りに、他の3頭のユニコーンがそれぞれ5頭の仔を生んだ。

70年も子供が生まれなかった彼らはその子たちをとても慈しんでいる。


後日の話になるけれど、フォルティス国では、ユニコーンの数が少しずつ減っていった。野生、家畜、どちらのユニコーンも子供を産まなくなったからだ。

輸出するための角は1つの個体で、3年に一度しか採れない。

そして、ユニコーンの寿命は30年。

30年後には、ユニコーンがフォルティス国から居なくなる。

フォルティス国の主要な輸出物が30年後には全く無くなってしまうことに気付いたフォルティス国は慌てふためき、子が生まれなくなった原因を調査していると聞いた。

けれども、誰もユニコーンの王族の話を思い出さないのが不思議だ。


そして、我がランドールには、カイザー達が引っ越ししてきてから数年もすると、各地でユニコーンの目撃情報が相次ぐようになる。

それが、フォルティス国との新たな火種になるとも、知らずに。



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