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ユニコーンの住まう地3



 ユニコーンのための草原を用意して、2日後。

庭園のガゼボで、フィロスとお茶をしていた私の前に突然、ユニコーンが現れた。

驚いて思わず、お茶を口から吹いてしまった。


「カイザー?」


『来たぞ。ソフィア。』


「はやっ…。」


フィロスがカイザーに尋ねる。


「誰にも見とがめられていないだろうな?」


『もちろんだ。我らは夜、闇に紛れて動いた。人の住む場所は通らず、森林や岩山を越えて。』


「では、問題ないな。住む場所に案内しよう。ペガサスを連れてくるから、待ってくれ。」


『ペガサス?不要だ。私の背中に乗れ。』


「鞍もなしに、裸馬に乗れ、と?」

フィロスが嫌そうに言う。


『鞍がなければ、乗れぬのか。軟弱だな。』

カイザーが、フン。と、挑むかのように、目を光らせる。


「私は問題ないが、ソフィアが疲れるから、ダメだ。」


『…鞍がなくとも、疲れないはずだ。一度、乗ってみよ。乗ってみてから、文句を言え。』


「手綱は?」


『たてがみをつかめ。たてがみは人間の力ではひっぱっても抜けぬ。』


フィロスは最後まで渋っていたけれど、ユニコーンに一度乗せてもらいたかったので、私からも頼めば、あっさりと陥落した。

帰りもカイザーが屋敷に連れ帰ってくれると言う。


フィロスがユニコーンの背中に私を乗せ、その後ろにひらりと飛び乗る。

長いたてがみを手綱のように握り、私には自分にしっかりつかまっているように、と注意をする。


『行くぞ』


どちらに行けばいいのか、とフィロスに聞き、彼が指示を出した途端、カイザーが走り出す。


 早い…!!

フォルティス国で、駆け去っていくのは見たけれど、本当に、早い。

景色が飛ぶように流れていくのだけれど、何の風景か、全然わからない。

けれど、カイザーが言ったとおり、乗り心地は悪くない。

背中がまっすぐではなく、少しくぼんでいるのだ。そこが鞍のようになっていて、意外と安定感がある。

それに、大地に触れるか触れないかのうちに脚を次々と繰り出しているようで、下からの衝撃が全く来ない。

少なくとも、普通の馬よりははるかにユニコーンの方が楽だ。

そして、早すぎる!


フィロスが人のいない方角をカイザーに次々と指示し、カイザーは指示されたとおりに、走り抜けていく。

そして、あっという間に、山々の森林地帯に到着する。

ペガサスで飛ぶよりも、はるかに、速く。


山を登らなければならないけれど、木々がうっそうと茂っている。道など、ない。

ペガサスの時は上空を飛んだから問題なかったけれど、どうするのだろう。

ところが密集した木々の間を迷うことなくカイザーは、難なく、すり抜けて駆けのぼっていく。

何度、私は目の前に突然現れる木にぶつかる!と、目をつぶっただろう。

けれど、カイザーは絶対にぶつからず、木々を障害物と思っても居ないようにすいすいと木々を避け、どんどん山を登っていく。

フィロスもそれには驚嘆の声を上げていた。


山頂まで登れば、眼下に広がる緑の平原と、ゆったり流れる清流。


「この下の平原を君たちに用意した。どうだろう?まだ狭いようなら広げるから、言ってくれ。」


『この草原をわれらの住処として良い、というのか…。今までの5倍か6倍はありそうだ…。』

カイザーが驚いたように言う。その声が、震えている。


「草原に下りて、見てみてくれ。必要なものが何かわからん。例えば、何を食べるのか、とか。すべて用意するから、言ってくれ。」


カイザーは急な山肌を滑らかに駆け下りて、草原に立つ。


草原で止まったカイザーの背中からフィロスがひらりと飛び降りて、私を抱き上げ降ろしてくれる。


「カイザー、ユニコーンは普通の馬と同じように牧草も食べるけれど、白雪草も食べると図鑑で読んだ記憶があるの。だから、牧草と白雪草を混ぜてこの草原を作ったけれど、どうかしら?好きなものがあったら、すぐ生やすから、遠慮しないで教えてくださいね?」


カイザーが突然、首をあげていなないた。

と、山の頂上から、ユニコーンの群れが駆けおりてくる。いつから、どこから、ついてきたんだろう?全く気付かなかった。

カイザーの周りに8頭のユニコーンが集まっている。


『ソフィア、フィロス。私の家族だ。』

1頭ずつ、名前と間柄を教えてくれる。

野生のユニコーンをよく知らない私でも、ここに居るユニコーンがとても立派で威厳があり、美しいことは、わかる。


『ソフィア、この草原を、ありがとう。…そなたの言うとおり、我々の好物は白雪草だ。白雪草は、薬草。しかも、人間どもには高価な薬草と聞く。我々はフォルティシアで野生の白雪草を求めてあちこちさまよったけれど、見つかることはほとんどなかった。…私にとっては、たぶん、40年ぶりだ。食べられるのは。』

『わたくしたちも似たようなものですよ。カイザー。』

カイザーの母と紹介されたユニコーンが横から口を出す。


ほっとする。

よかった。図鑑の情報が正しくて。

大地を癒した時に、この地に牧草と白雪草が生えるように、と祈った。

もともと願う種子がここに無ければ、祈っても生えてはこない。その場合は種子を用意する必要があった。

でも、祈ったら生えてきたので、この山々にはそれらが自生していたということだ。


「食べ物は問題なさそうだな。他に必要なものは?屋根がついた建物が必要であれば、建てるが?」

フィロスが、カイザーに声をかける。


「屋根?建物?我らには不要だ。我らは草原でそのまま休む。雨が降っても、気にならない。…ここは、我らの理想そのものだ。白雪草が生え、清流がある。森林に囲まれ、鳥や小動物とも語らえよう。…何より、ソフィア。そなたが近くにいる。…そして、ありがとう。フィロス。我らに安住の地を与えてくれたことに、感謝する。」


驚いたことに、カイザーが膝をついて頭を下げる。

他の8頭のユニコーンも一斉にそれに倣った。


フィロスも驚いただろうけれど、おくびにも出さず、カイザーに言う。

「礼は、不要だ。私はソフィアが望んだことを叶えただけだ。」


『おお、そうであった。…ソフィア。私のそばに来て、両手を出せ。』


「はい?こう?」

カイザーのそばに立ち、両手をそろえて出す。

と、カイザーが私の手に向けて頭を振った。

手の上に、ずっしり重いものが落ちてくる。思わず、取り落としそうになって握りしめれば、白く輝く角が手の中にあった。

びっくりして、カイザーの顔を見上げれば、額にあった角が無い。角があったあたりは、少しえぐれている。


『人の手で切るのではなく、我らが自ら落とした角は薬効が非常に高くなる。』

カイザーが誇らしそうに言う。

『受け取れ。ここに住まわせてもらう、礼だ。』


カイザーの角を見る。

ユニコーンの角を何本も使ってきた私だからわかる。この角は、今までの角とは全然違うものだと。


フィロスは、良かったなと声をかけ、すぐカイザーに案内が済んだのだから、屋敷へ送れ、誰にも何も言わず出てきたからなと言う。

カイザーの背中に乗る時、フィロスに角を預かってもらった。手に持ったままあの速度で走られたら、落としてしまう。


カイザーは、私達を屋敷の門まで送り届け、

『また、近いうちに会いに来るぞ!』

と宣言して、あっという間に姿を消した。

…本当に、速すぎる。


こん!と頭の上を何かでたたかれ、見上げれば、カイザーの角。

「良かったな。ソフィア。この角の薬効は尋常でなく高そうだ。今までのユニコーンの角の効果に捉われず、試しながら調合に使うのが良いだろう。」

「ええ、本当ね。フィロスの研究にも役立ちそうで、うれしいわ。」

角を受け取り、大事に胸に抱える。


「カイザーも、その家族も、あそこが気に入っってくれたのね。よかったわね、フィロス?」

「そうだな。」


「あー!!!フィロス様!ソフィア様!どちらにいらしていたんですかあ!!!ガゼボから急にいなくなったので、みんなでお探ししてましたあ!」


マーシアが門に向かって駆けてくる。

フィロスと顔を見合わせて、くすっと笑い、屋敷に向かってフィロスに肩を抱かれたまま、歩き出した。



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