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ユニコーンの住まう地1



フィロスがペガサスに乗って領地の空を駆ける。

私はフィロスの前に座って空から領土を見下ろしている。

青々とした森林、豊かに実っている小麦、のどかに草をはむ、牛や馬。

ありがたいことに、この領地は本当に豊かな大地のようだ。


領地の北の方に向かうと、うっそうと木々が繁っている山がいくつかそびえている。それほど高い山ではないけれど、濃い緑が人の入ることを拒絶するかのように見える。

事実、拒絶しているのだ。

この森林には魔獣が住む。

魔獣を退治し、魔石を取るハンター以外、この森林に足を踏み込む領民はいないと聞く。


 ペガサスの進路が、山々の中でも一番奥の方に向けられる。


「一番奥に、行くの?」

「そうだ。手前の方は魔獣ハンターの人間が出入りする。人間が出入りできない所をユニコーンのために用意する。」


ペガサスが奥の方の山のてっぺんへ。いくらか木々が途切れている隙間に降り立つ。


「少し森林を焼き払い、山を削り、平地を作らねばな。」


フィロスは、山々の間の谷の部分を広げて平地にするらしい。


業火にて焼き尽くせ(インフェルノ)。」


フィロスがあたり一帯を焼き払う。それは、すさまじい威力を持ち、見渡す限り、焼け野原だ。

魔獣の悲鳴が焼き払われたときに聞こえたけれど、焼け野原はもうもうと煙が立っているだけで、何も残っていない。

さすが、このランドールでもトップクラスの魔力と戦闘力を持つフィロスだ。


「大地を平らにならさねばならないな。…ソフィア、大地系の魔術が得意だったな?任せても?」

「もちろん。」


山壁よ削られよ(ラディア・マンス)。 なだらかな大地となれ(プラーニス・テラ)。」


山に囲まれた谷がかなり広大な平野となる。でも、焼け野原のままだから癒さなければ。


大地の癒しテラ・サーナーティウス!!」


ざあああっと、白い光の風が平野の向こうまで一気に吹き抜ける。

光の風が収まれば、焼け野原だった平野には草花が芽吹き、一気に緑色になっていた。


「…君の魔術は素晴らしいな。私は破壊しかできないが、君は癒し、創造する。」

「ありがとう、フィロス。でも、あなたにはまだまだ及ばないわ。…あとは最後に川をもう一回、つなげないと?」


フィロスが焼き払ったときに谷底を流れていた川が蒸発して無くなってしまっている。


「それは、私が、やろう。」


フィロスが、雷と水の魔術を使って途切れた水の流れをもともとつながっていた場所に再度、つなぎ直す。

この、新しく生まれた緑の草原は周囲を人が入れない山々に囲まれているので、気付かれることはないだろう。

しいていえば、ペガサスで空を飛べば見えるけれど、他領から来るペガサスの飛行する場所とは離れているから、見つかりづらいらしい。

それでも、念のため、認識阻害の結界を張る、という。


「魔石をこの平野の4隅に埋める。結界の魔術陣が刻まれているので、私か君が魔力を注げば、結界が完成する。…屋敷の結界と違って、それほど強度を必要としていないから、一度魔力を注げば、1年くらい、持つだろう。…どうせ、角をもらいに来るのだから、その時、魔力も追加で注いでいけばよい。」


魔石を埋めに行くため、またペガサスに乗って上空に上がった時、森の木々がざわざわと騒々しくなった。

はっとして見下ろせば、魔獣が出てくるところだった。

しかも、1頭ではなく何頭も。

1か所ではなく平野のぐるりから。


「ふむ。強大な魔力を私達2人で放ったからな。魔力に惹かれて、出てきてしまったか。…ソフィア、私は飛び降りて奴らを退治するから、上空で待機していてくれ?」


飛び降りようとするフィロスを、引き留める。


「だめよ。一人では行かさない。わたくしも、降りるわ?」

「ソフィア!だめだ。魔獣の数は多く、しかも、強い魔獣が来ている。君には危険だ。」

「それでも、だめ。四方から囲まれているし、これ以上、山を焼き払うわけにはいかないし。あなたの背中を護るわ。わたくしが。忘れた?リチャード・モントレーとわたくしは、2年間毎朝、特訓したのよ?護りに特化して。あなたを護るために。わたくしは攻撃は最低限。あなたの守りに徹する。だから、大丈夫。一緒に行きましょう?」

「全く、君は…。」

フィロスがすばやく額にキスする。

「わかった。背後は任せる。だが、くれぐれも無理するな。かすり傷でも一つついたら、即、君を離脱させるぞ。」

うなずく。


ペガサスが急降下し、フィロスと私は飛び降りる。

ペガサスは上空待機だ。私達を下ろした後、上空に駆けあがっていった。

「「グラディス!」」

2人で、長剣を出す。

「スクウトウム!!」

私は、盾も出した。


星々の斬撃(メテオノール)!!」 「雷撃(フルメンサイド)!!!」

フィロスが魔獣の弱点を突いて、次々、剣に魔力を籠めて、魔獣を切り捨てていく。


癒しを(キュア)!!」 「くっ!危ない。吹っ飛べ(マイトヴァランス)!!!!」

私はフィロスが怪我をするたびに癒しをかけ、迫って来る魔獣はとりあえず遠方に吹き飛ばす。

私はあくまでも補助だ。攻撃は必要な時だけしかしない。

リチャードやグレー教授との戦闘訓練で、私はそれを学んだ。

欲張って攻撃にまで手を出すと、絶対に防御に隙ができる。

防御に隙を見せたら護るべき対象を護れない。

だから、私は、欲張らない。


魔獣は10匹以上出てきたけれど、2人で力を合わせれば、それほど難しい戦いではなかった。

魔術師と違って出される攻撃は魔獣ごとにだいたいパターンが決まっている。

それさえ理解し、弱点の属性がわかっていれば、問題ない。

ただ、身体が頑丈で、体力はむちゃくちゃあるので、倒すまで時間がかかるだけだ。

あとは、魔力切れさえ注意すれば、なんとかなる。


魔獣の血は青い。

2人ともその返り血を浴びて、洋服が真っ青だ。臭いもかなりきついので、さすがの私も魔獣の討伐が終わったら、疲れ切って、少し気分が悪くなっていた。


「魔石を埋めてくるから、君は座って待っていなさい。」


フィロスには、私が疲れていることはすっかりお見通しだった。

ペガサスに乗って、魔石を埋めに行くフィロスを見送りながら、ため息をつく。

足手まといにならなかっただけ、マシか。

もう少し、体力つけないとだめかなあ。と。


魔石を埋め終わって結界を張ったあと、ペガサスに乗って屋敷に戻ってくれば、2人そろって魔獣の血だらけ、マーシアの悲鳴が屋敷中に響き渡ったことは言うまでもない。



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