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魔術師ソフィアと魔術師の国  作者: 華月 理風
フォルティス国
17/39

帰国と出国



 フォルティス国に滞在し、フォルティスの周辺の小国もぐるっと回っていたら、早くも3か月経ってしまった。

そして今日、その長い旅行に終止符を打ち、ランドールへ帰国するため国境付近の村に到着した。

すでに夕方になっていたので、ランドールに入るのは明日になる。


村に1軒だけある宿に泊まって窓際に座り、フォルティス国で手に入れた本を読んでいたら、名前を呼ばれたような気がして窓の外を見る。

宿からかなり離れたところに森がある。

その森の入り口にユニコーンが立っているのが、見えた。

遠くからでもよくわかる。

あれは、カイザーさんだ!


「フィロス?ちょっと外に出てもいい?」

「もう暗くなる。行きたいなら、私がついていこう。でも、急にどうした?」

「カイザーさんが森にいるの!」


森まで小走りで急ぐ。

後ろから、フィロスがついてきている。


「カイザーさん!」


森の入り口にユニコーンはいなかったけれど、森の中に少し足を踏み入れれば、そこに、カイザーが立っていた。

人に見られるのを嫌ったのだろう。


『ソフィア。ランドールへ帰国するのだな?』


「ええ。でも、どうして知っているの?カイザーさん?」


『カイザーと呼べ。さん付けはされたことがないから、気持ちが悪い。…鳥が教えてくれた。ここに君がいると。ここは国境沿いの村だ。しかも何もない村だ。そろそろ帰国だろうと誰でもわかる。』


「わかったわ、カイザー。それで、あなたは見送りにきてくださったの?」


『…違う。…ソフィア。私は一族を連れて、ランドールに移住したい。お前のそばに。』


「はい?」

意味がわからず、聞き返す。


『フォルティス国は、我らユニコーンの王族を忘れた。そして、我らはフォルティス国の限られた狭い場所で押し込められたように生きてきた。いつから、フォルティスの民と我らに溝ができたのか、我々にはわからない。だが、ひとつ、わかっているのは、フォルティスの民は我々を必要としていない。存在していることも知らない。であれば、我々がこの地に留まる理由はもはや無い。』


「でも、なぜ、ランドールに?あなたが30年も檻に閉じ込められる原因を作ったのは、ランドールの魔術師。ランドールを憎んではいないの?」


『私を捕らえた魔術師は憎いが、ランドールそのものを憎んでいるわけではない。むしろ、ソフィア、お前は私の恩人だ。そして、アクシアス以外に私と話ができた唯一の人間だ。私はそんなお前のそばで暮らしたい、と思った。』


「ランドールは魔術師の国だ。ユニコーンの角は魔術師にとって最高の材料。ランドールに来たら、角を求めて君らを捕らえようとする魔術師がいるだろう。自由はフォルティス国より無いかもしれぬぞ?」

「フィロス!あなた、カイザーの言葉が?」

「なぜかわからないが、カイザーを見ていたら、言葉が聞きとれるようになった。」


『ほお。それは、興味深い。…だが、それで、私の仮説に自信がついた。』

カイザーが考え込みながら、つぶやく。


『そもそも、我らユニコーンは、ランドールからフォルティスに移住したと、代々、伝わっている。』


「何?」

フィロスの声に驚きの色が混じる。私もびっくりだ。

ユニコーンは、フォルティスの国獣。

フォルティスだけにしか住んでいないと思っていたから。


『はるか昔、仲が良かった魔術師とともにランドールからフォルティスに移住したと我らには伝わっている。我らユニコーンはもともと、魔術師とともに生きてきた生き物なのだと。』


カイザーが、後ろの森を振り返る。

つられて見れば、何頭か、ユニコーンが集まっているのが見えた。


『ここに集まっているのが私の家族、ユニコーンの王族だ。今はわずかに私を入れて、9頭しかいない。昔はもっとたくさんいたのだが。』


「なぜ、それしか、いなくなってしまったの?」


『次代の子供がなぜか生まれないからだ。生まれる数がどんどん減ってきているからだ。…だが、ソフィア、お前に会ったとき、お前が私に触れたとき、私は自分の身体の中心に火がともったような気がした。私は自分の家族の所に帰った翌日、妻と交尾した。そして、今。妻の胎には子供がいる。』


「まあ、おめでとうございます。でも、それは私とは何も関係がないような、気が…。」


『関係はある。魔力だ。』


「はい?」


『我らユニコーンの王族は魔力が無ければ、力が弱るのかもしれない、と、私はお前と出会って仮説を立てた。お前にふれたとき、火がともったように感じたのは、魔力が私の中に入ったからだ。私のエネルギーになったのだ。そして、その魔力が子種を宿した。』


「はああ?」

大混乱だ。

単なる偶然だと、思いたい。

「それで、ランドールに帰ろうとしているのか。ランドールは魔力が満ちる国、だからな。ソフィアはそのダシに使われているわけだ?」

フィロスの冷ややかな声が響く。

「勝手に、ランドールに帰ればいいだろう。誰も止めはせぬ。」


『ソフィアをダシに使っているわけではない。だが、我らはソフィアのそばに住みたいのだ。』


「なぜだ?」


『ソフィアのそばは気持ちが良い。何と言えばいいのだろう。ソフィアの持つ魔力が我々の心に平穏を与えてくれる。

そして、もう一つ。私の恩人だからだ。恩返しがしたい。我々は毎年、ソフィアに角を1本か2本、贈ろう。王族の角は野生のユニコーンの角に比べて、はるかに薬効が高いと聞く。1度、角を切ると元の大きさまで伸びるのに3年かかる。だけれど、今、9頭いるから、毎年1本か2本、贈れる。子供が増えれば、その数を増やすこともやぶさかではない。』


フィロスはしばし沈黙したのち、角を少し切ってもいいか?と、カイザーに聞き、カイザーがうなずくと、カイザーの角の端を5ミリほど切り取った。

ていねいに魔力を流して検分している。


「ソフィア。」

「はい!」

「カイザーが言ったことは正しい。この数ミリのカイザーの角で、野生のユニコーンの角1本分の薬効が期待できる。君は学生時代、ポーションを作りまくっていたが、ユニコーンの角を1年間で何本くらい使った?」

「えっと、3本か4本、かな?高価なので、少しずつしか使えなかったけれど…。」

「だったら、カイザーの角は50センチくらいあるから1本もらえたら10年は持つくらいの代物、ということだな?それを毎年くれるなら、君のポーションの研究に惜しみなく使えるということになる。」


フィロスの判断基準はいつでも私だ。

私が幸せになることしか、考えていない。


「いいだろう、カイザー。私の領地に、君たちの一族が住むための場所を用意し、誰も人が近づけないよう結界を張ろう。その結界から君たちの出入りは自由。あくまでも、ユニコーン以外が近づけないようにするためだけの結界だ。広さも必要なだけ用意する。我が領土は広大だ。山の一つ二つ、君らの居場所に提供しても、なんら、困らん。

ただ、唯一、問題があるとしたら、魔獣がいることか?魔獣を根絶やしにしたいが、魔力がある限り、魔獣は生まれる。」


『魔獣の心配はいらない。我らユニコーンのいる場所に魔獣は近づかない。…そう伝え聞いている。』


「ふむ。それが本当かどうかは住んでみれば、わかるだろう。…よかろう。だが、どうやって、国境を越える?ユニコーンの国外持ち出しは、よほどのことが無い限り、許可されない。ユニコーンの角はフォルティス国の輸出品として最重要な品物だから、他国に持ち出し繁殖させないようにコントロールされている。」


『我らは国境の門など通らぬ。ぐるっと森林の中を人が通れぬ道を駆け抜けて行くまで。』


「なるほど。確かにそうだな。では、ランドールに入国したあと、どうやって、わが領地まで来る?」


『ソフィアのいるところが私にはわかる。ソフィアを目指して人に見られぬよう移動しよう。』


「わかった。ソフィアと私が領地に帰れるのは、おそらく3日後。それ以後に、この国を出ればよい。君たちが到着するまで、少なくとも、ソフィアは領地の館から動かないようにさせよう。ソフィア、構わないかな?」

「はい。」


気になることがあったので、カイザーに聞いてみる。


「カイザー。あなたが私の近所に住んでくれるのはとてもうれしいけれど、ユニコーンの王族であるあなた達がフォルティスからいなくなったら、野生のユニコーンはどうなるの?」


カイザーが驚いたように目をみはるが、やがて、フン。とそっぽを向く。


『フォルティスのユニコーンは、やがて絶滅するだろう。そして、ランドールに野生のユニコーンが生まれる。』



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