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星々のお茶会

作者: 赤亀たと

 赤い屋根の家。小さな女の子。母親が眠る時間だと告げます。けれど、女の子はまだ眠りたくありませんでした。だから一度、ベッドに入ったふりをしたのです。それからそっと抜け出して、月明かりの下でお人形遊びをこそこそはじめました。


 ヒソヒソ ヒソヒソ・・・

 おくさま、このおこうちゃ、とってもおいしいわ

 あらうれしい、こちらのくっきーもどうぞ

 ヒソヒソ ヒソヒソ・・・


 クマのぬいぐるみとウシのぬいぐるみとのお茶会に参加した女の子は、窓から見える星空を見上げて、さらに会話を続けます。


 おくさま、あまのがわのみるくをしょうしょうくださいな

 ええもちろん

 それと、おさとうもいただけるかしら

 どうぞ、このおさとうは、おほしさまのきらきらから、いただいたのよ


 まあまあこんな愛らしい様子はお空からも見えてしまうのです。白い星がきらきらしながら隣の青い星に話しかけます。

「ごらんなさい、あの赤い屋根の家の小さな女の子を。なんて可愛い遊びをしてるんでしょう」

 青い星も微笑んで答えます。

「本当です。でも、天の川のミルクだなんて、私達のお茶会を知っているのでしょうか」

 白い星がきらりと輝きました。

「どうでしょう。あの子を今度、私達のお茶会に招待するのは?きっと楽しくなるでしょう」


 こうしてお星さまたちは、女の子にお茶会の招待状を送ったのでした。


 次の日の夜、女の子がそろそろ寝ようかと自分の部屋に入ると、窓辺に何やら光るものがありました。それは、透き通る白銀の淡い光でできた紙でした。鮮やかな青い文字でこう書かれています。


 あかいおやねの かわいいおじょうさんへ

 こんや わたしたちの ほしのおちゃかいへ どうぞ いらしてくださいな

 おそらのほしより


 女の子は驚いて、ぷっくりした口をぱっくりと開けました。それから流れ星の子が地上へ降りてきて、こんこんと窓を叩きました。小さな小さな星の子たちが、窓の向こうで女の子に手を振ります。


「お迎えに上がりました。今夜の大事なお客様」


 星の子たちの声を聞いた途端、女の子は喜びで顔を輝かせて窓から身を乗り出しました。銀や金の光を振りまきながら、星の子たちは女の子を空へ空へと連れていきます。




 ようやく星空にたどり着いた女の子は、まず白いお星さまにおめかしをしてもらいました。金色の髪の毛をブラシでといてもらい、星の髪飾りもつけてもらいました。それから青い星が星空を切り取った美しいドレスを着させてくれました。このドレスは本当の星空のように輝き、とても柔らかく少しだけひんやりしていました。


「ようこそ、私達の小さなお客様」


 白い星が優しくそう言うと、女の子はいよいよ星々のお茶会の会場へと案内されました。


 月光のヴェールをくぐりぬけると、そこには様々な星座や星たちが集まり、あちこちでお茶やケーキ、クッキー、果物を飲んだり食べたりしながらおしゃべりをしていました。


 オリオン座が女の子を見つけて微笑みました。

「なんと可愛らしいお客様だ。どうぞ、アンドロメダの紅茶をどうぞ」

 女の子はお礼を言って紅茶を受け取りました。ダイヤモンドのカップに注がれたアンドロメダの紅茶は、いい香りがしましたが、女の子は少し苦いと思いました。


 それを見たかに座が、ヒスイの瓶を持ってやってきました。

「天の川のミルクだよ。これで少しは飲みやすくなるだろう」

 蟹はそう言いながらきらきら輝くミルクを注いでくれました。女の子は少し期待して、お星さまのきらきらからできた砂糖があるか聞きました。かに座は優しく答えます。

「もちろんあるとも」


 すると向こうからしし座がやって来ました。真っ赤なルビーの壺を持っています。その中には青や金や銀に輝くお砂糖が入っていました。

「さあ、好きなだけ入れるといい」

 しし座はそう言うと壺を女の子に渡しました。


 あまいあまい紅茶を完成させた女の子は、お星さまたちと一緒におしゃべりをしながらお茶会を楽しみました。星々は女の子が思っていたよりもずっとながく空にいて、女の子が知らないこともたくさん教えてくれました。


 途中、星々の音楽団が登場し、女の子が聞いたこともないような、いいえ、女の子のお父さんとお母さんですら聞いたことがないような、美しく優しい音色を奏でました。女の子は星空のドレスをひらめかせながら、お星さまたちとダンスをしました。


 たくさんおしゃべりをし、たくさん踊り、たくさん飲んで、食べました。本当は周りのお星さまたちのように上品に、少しずつ食べたり飲んだりしたかったのですが、おいしすぎて我慢できなかったのです。女の子はやがてお腹がいっぱいになり、眠くなってきました。


 すると白い星がやってきて、女の子にお別れを告げました。女の子は来た時と同じように、流れ星の子たちに連れられて家に帰ることになりました。


 最後にお星さまたちに別れを告げる時、青い星が女の子に一冊の日記を手渡しました。それはサファイアのように青く輝く表紙で、中の紙は一枚一枚透き通っていました。


 青い星が言います。

「それは交換日記だよ。毎日楽しかったと思ったことを書けばいい。悲しいことを書いてもいいんだよ。きっと私たちがお返事を書こう」


 女の子は日記を大事に胸に抱えると、お星さまたちにお礼を言って、星の子たちと一緒に帰りました。



 翌朝、女の子が目を覚ますと星の髪飾りも夜空のドレスもなくなっていましたが、日記帳はきらきら輝きながら枕元にありました。


 女の子はベッドから跳び起きると、日記を書き始めました。


 それからすぐに女の子のお母さんの声がします。

「起きなさーい!朝ご飯よ」

 女の子はまだお腹いっぱいだと思いましたが、トーストとベーコンの焼ける匂いを嗅いだ途端にお腹がペコペコになり、部屋から飛び出しました。


 その日の夜、女の子が日記を開くと、そこには確かにお星さまからのお返事がありました。


 またいつか、会える日を楽しみにしています、と。


 こんな風に、お星さまたちは気まぐれにこの星の子ども達を、お茶会に誘ってくれるのです。日記をくれるかはもっと気まぐれですが。


読んで下さりありがとうございました。

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