私のお世話係
飲み会でお酒に酔って眠り、目が覚めると魔王という肩書きのついた幼女になっていました。
たった今、私の身に起きた事を説明するならこの一言に尽きますね。
ここにさっきから私の事をずっと抱っこして頭を撫でまわしているユリウスさんの説明を加えると。
幼女なのに魔王と呼ばれている理由は先代の魔王が人間達の国であるリディア王国で勇者が召喚されたという情報を聞きつけ、レベルが1のうちに倒そうと目論んだ。
しかし、その勇者がレベル1でありながら、かなりのチート勇者で返り討ちに遭ってしまったのだ。
当代の魔王が亡くなった際には毎回新しい魔王を棺の中から召喚しているようで、今回、召喚されたのが私、エリカだったみたい。
どうして幼女で前世の記憶があるのかは全く謎だけど。
「魔王を生み出す棺さえあれば、魔界は安泰ですが、先代魔王を倒した勇者は脅威です」
確かに、レベル1の段階で襲いかかってきた魔王を返り討ちにするなんて異常すぎるね。
「でも、まおうを倒してレベルが上がってるだろうし、いまのわたしだと、かてにゃいんじゃ?」
噛んじゃった。
恥ずかしい……
「噛んだ……?」
「かわいい……」
他の魔族達からそのような呟きが聞こえてきて、私は恥ずかしさのあまり、隠れようとユリウスさんの胸に顔を押し付ける。
前世の年齢だと会ったばかりの男性に抱きつくなんてハードルが高いけど今の私は幼女だし許されるはず。
「もう我慢できないわ!!!」
突然大きな声をあげたのはさっき手鏡を渡してくれた六魔将序列二位らしいアラクネのドロシーさんだ。
やっぱりこんなちんちくりんが魔王だなんて認められないとか言われるのかな。
「ユリウス、私にもエリカ様を抱っこさせなさい!!!」
「そうだ、序列一位という立場を利用してエリカ様を抱っこするなど許されない暴挙だ!」
「俺も抱っこしたいです」
ドロシーさんを筆頭にみんながわいわい言いながらジリジリと近づいてきてあまりの剣幕に「ひぇっ」という情けない声が出てしまう。
角を生やした魔族達が変な笑顔を浮かべて手をワキワキさせながら迫ってくる様は夜に悪夢として出てきそうな感じです。
「エリカ様が怖がっておられるので自重して下さい」
ユリウスさんの制止にドロシーさん達は私の方を一度見た後、まるで石像のように固まっちゃった。
「ごめんなさい、怖がらせるつもりは無かったの」
抱っこしてくれているユリウスさんの胸元にしがみつきながらドロシーさんの方を恐る恐る伺う。
少し姿勢低くして私に目線を合わせるドロシーさんはさっきまでの肉食獣の様な目が嘘の様に不安そうな表情を滲ませている。
「ううん、だいじょうぶ、どろしーさんいい人」
「ぐはっ!!」
怖がらせた事をわざわざ謝ってくれたドロシーさんにその必要が無い事を伝えただけなのに急に胸元を押さえ始めた。
体調が悪いのかな?
「だいじょうぶ?」
「え、えぇ、問題ないわ」
本当に大丈夫なのかな……?
そう思いながら心配して見つめているとドロシーさんは勢いよく顔を上げ、とても真剣そうな表情をした。
「ねぇ、ユリウス、大事な話があるんだけど」
「何でしょうか?」
「新しい魔王のエリカ様はまだ小さいわ」
「そうですね」
「エリカ様の保護者役が必要だと思わない?」
私の保護者役……?
待って、エリカの中の恵梨香の精神年齢は24歳なんですけど!!
流石に元社会人として保護者がつくのは勘弁して欲しいよ!
「エリカ様の保護者は私がやるので問題はありません」
「いや、ここは同じ女性である私がやるべきだと思うわ」
「待ってくれ、それなら、子供の扱いに長ける俺が適任だろう」
「アンタは子供の殺し方が上手いだけでしょ、ウィルソン」
またさっきの様な言い争いが始まってしまった……
保護者役がつくのは百歩譲っていいとしても、今さらっと子供の殺し方が上手いとか言われてた六魔将序列四位のウィルソンさんだけは嫌だ!!
そう考えている間にも魔族達はまるでこれから人類を滅ぼそうとか言いかねない雰囲気で誰が私の保護者になるべきかを話し合っている。
「このままじゃ決まらないし、エリカ様に決めて貰いましょうよ」
「そうだな、エリカ様に決めてもらった方がいいな」
「お菓子とかいっぱいあるよ〜」
どうやら、誰が保護者になるかを私が選ぶ事になってしまったみたい。
今更、保護者は要らないよ、なんて言えるような雰囲気じゃない。
私はどうしたら良いか分からなくて後ろに居るユリウスさんを見上げた。
「私の屋敷には可愛いドレスがたくさんありますしお菓子職人が居ますよ」
「ぇ……」
ユリウスさんもお菓子とかで私が釣られるとか思ってる人なのね……