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6.無理は禁物です


『リンベル伯爵令嬢アイシャ様。

ノア王太子殿下より王城でのお茶会のお誘いでございます。◯月◯日◯時、王城にお越しください。私的なお誘いです。ドレスコードはございません。お待ちしております』


何故に王太子殿下から手紙なんて届くのよぉぉぉぉ………


あの悪夢のような誕生日パーティーをやり過ごしたはずなのに、王城から届いた手紙を前に私は固まっていた。


王太子よ、私の何処が気に入った?


誕生日パーティーでは挨拶を噛み、掴まれた手を引っこ抜き素早く後退したというのに、あの態度は明らかに令嬢として終わっていた。


万が一、王太子殿下の覚えもめでたい令嬢に格上げされたら両親が諸手をあげて婚約者候補に推挙しそうだ。何としてでも阻止せねば………


あまり姑息な手は使いたくなかったが、背に腹は変えられない。当日仮病を使おう!


自室で姑息な手段を練っていた私の元にお母様が駆け込んで来る。


「アイシャ!先ほど旦那様から聞きましたわ。ノア王太子殿下からお茶のお誘いの手紙を受け取ったのでしょ‼︎」


………情報、早っ‼︎


「アイシャ心配でございます‼︎

王太子殿下とお茶なんて卒倒してしまいますわ。お断りした………」


「大丈夫よ‼︎目の前で倒れるくらいの方が男性の気がひけるものよ!か弱い女性の方が男は守りたくなるもの。どんどん倒れなさい!」


うっわ~話をぶった斬ったよぉ………


弱々しくシナを作って、座っていたソファに倒れこもうとしていた私に容赦ない一撃がくらわされた。


「当日は少し大人っぽいドレスにしましょうね~

儚くて守りたくなる美少女に仕上げましょう。」


すでに王城でのお茶会に思いを馳せウキウキ顔の母に私の存在は無視され、スキップしながら部屋を出て行く母を見送る。


ありゃぁ、本気で王太子殿下の婚約者候補に推挙されそうだ。


私はソファに突っ伏し何としてでも王城でのお茶会を阻む決意をした。






王城でのお茶会当日、私は朝から腹痛でトイレに篭っていた。


始め仮病を使おうと考えていたが、お母様の気合いの入れように怖気づき仮病だとすぐバレる可能性に思い立った。仮病だとバレれば強制的に王城に連行されると恐怖した私は、強行手段に打ってでた。


昨晩寝静まった邸内の厨房に響くムシャムシャ音………


厨房の冷蔵庫を漁り見つけた美味しそうなプディング、ざっと20人前!


厨房の床に座りスプーン片手に巨大プディングを食べ続けること数時間、お腹が満腹になろうと構わず食べ続け、朝方お腹がキュルキュルグルグル鳴り出しトイレに駆け込むまで頑張った。


しかし、やり過ぎた。


………辛過ぎる………………

気持ち悪いしお腹痛い。


やっちまった感は否めない。上からも下からも止まらない私は絶賛トイレとお友達状態だ。


先ほどからひっきりなしにメイドや両親の声が扉の前から聞こえてくる。


「アイシャ!大丈夫なのか⁈

今医者を呼んだから後少しの辛抱だ!」


その後、ゲッソリとやつれた私はトイレから救出され医者から処方された胃薬を飲みなんとか落ち着く事が出来た。


そんな状態の私に誰も今日が王太子殿下とのお茶会とは言わなかった。奇しくも王城でのお茶会を回避した私だったが払った代償は大きかった。


翌日シェフからプディング行方不明事件の報告を受けた母が血相を変え部屋に飛び込んできた。


もちろんあっという間に行方不明のプディングが私のお腹に収まった事実を突き止め延々と母に説教されたのは言うまでもない。


………1ヶ月デザート無しなんて酷過ぎる………


シェフの作ったデザートが何よりも好きな私にとっては痛過ぎるお仕置きになった。


こんな事になるなら王太子殿下とお茶しときゃあ良かったと後悔しても後の祭りで、怒り心頭のお母様が立ち去った部屋に私の泣き声がさめざめと続いていたそうな。




それから数週間後、部屋でお気に入りの本を読んでいた私をお母様が呼びに来た。何やら大事なお客様が来ているようだ。


あの誕生日以来、たまに両親を訪れる貴族のお友達方の前に駆り出される事もあった私は油断していた。


お母様に続き、客間に入った私はあまりの衝撃に暫し口をぽっか~んと開け固まる。


「やぁ~アイシャ………」


そこにはキラっきらの笑顔を浮かべ優雅にソファに座るノア王太子殿下が居た。


私が母の後ろで回れ右して逃げだそうとしても許して欲しかった。


………王太子殿下の笑顔が怖いんですけど………

黒い、黒い、黒過ぎる………


逃げ出そうとした私は、もちろん容赦なくお母様に首根っこを掴まれ王太子殿下の眼前に強制連行される。


「リンベル伯爵夫人、急なお願いに快く応じて頂きありがとうございました。アイシャ嬢の体調は………

今日は大丈夫そうですね。」


「あの時は王太子殿下自らお茶に誘って頂いたのに急な体調不良で行く事が出来ず大変申し訳ございませんでした。今日のアイシャはすこぶる健康体ですわ。存分に楽しい時間を過ごせるかと」


………なっ、なんだ、この母と王太子の思わせぶりな会話は⁈


「あっ!わたくし所用がありますの。

王太子殿下、この後はアイシャがお相手致しますわ。」


妙にはしゃいだ母が部屋から去っていく。


………売りやがったな………………


ニッコリ微笑む王太子殿下を前に早くも逃げ出したい私の脳内で前世のある歌が木霊する。


………ドナドナドナぁ………仔牛を連れて………♪

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