3.衝撃的な出会い
今日は私の7歳の誕生日当日だ。
まぁ、精神年齢は29歳+7歳なのだから今更誕生日と言ってもあまり嬉しい訳ではないが、自身の誕生日なのに妙に落ち着いている私とは正反対に両親は朝からソワソワしている。
どうやら今日の誕生日パーティーに懇意にしている高位貴族の方達を招待しているようなのだ。
今までの私は幼いという理由で、わが家にやって来る貴族の方達に紹介された事は一度もない。
つまり今日の私の誕生日パーティーは、お付き合いのある貴族の方達へ、私をお披露目する意味あいも兼ねているのだろう。
それにしても、たかが友人家族を招待するだけなのに何故そこまでソワソワしている両親よ………?
精神年齢は自分と同じであろう両親を見て不思議に思っていたが、私を探しに来たメイドに声をかけられ、意識が逸らされた。
パーティーに出たくない私とメイドとの押し問答の末、逃げ出した私は恰幅の良いメイド長にとっ捕まり、強制的に自室に連れて行かれ、ドレスに着替えさせられる事となった。
「アイシャお嬢様、素敵でございます。まるで、花の妖精のようです‼︎」
ーーー花の妖精って………
メイドの過剰な褒め言葉に私の顔がひきつり、鏡の前に連れて行かれた私の顔は見事にひきつった。
鏡の中には、ヒラヒラのピラピラのレースがふんだんに使われたピンクのドレスに身を包み、髪をアップにまとめた少女が映っている。
軽く化粧を施された顔は、7歳にしては迫力があり過ぎる。ゴージャスな金髪につり目がちな目元が迫力を醸し出しているのは仕方ないにしても、アップにまとめられた髪型のせいで、いつもより数割り増しキツい印象を受ける。
こんなに完璧に仕上げなくてもいいじゃないか!
髪をフワッと下ろすだけで柔らかい印象になるのに、わざわざアップにするなんて、嫌がらせとしか思えない。鏡に映るメイドの満面の笑みを見れば嫌がらせではないと分かるが………
この顔にピンクは似合わないだろう!
これじゃ、何処ぞの悪役令嬢みたいではないか。
ーーーまさか悪役令嬢じゃないよね………?
私はゴージャス過ぎる顔を見つめ、内心冷や汗をタラタラ流していた。
しかし、7歳の私がメイドのお姉さん達に文句を言える筈もなく、そのまま両親の元へ連れて行かれる事となった。
誕生日パーティーが始まる時間が近づくに連れ、次々とやって来る高位貴族の馬車でエントランスが賑わい出す。
両親は、貴族の方達を迎えるためエントランスに行き、私とダニエルお兄様はパーティーが始まるまで別室で待つ事となった。
「お兄様、先ほどからピリピリされている様ですが、どうなさいましたの?」
私の目の前に座る兄は、先ほどから不機嫌そうに何かを考え込んでいる。
本人は気づいているのかいないのか、舌打ちまでしている始末だ。兄の不機嫌な姿を今まで見た事がなかった私は面食らっていた。
「………あっ!ごめん、アイシャ。
怖がらせてしまったようだね。
何でもないんだよ。時間が来るまでお菓子でも食べて待っていよう。」
立ち上がった兄は、テーブルを回り込み私の隣にピッタリと座ると、カップを持ち優雅にお茶を飲み始める。
………お兄様…近い………
兄妹にしては近しい距離に、そっと距離を取った私に胡乱な視線が突き刺さるが無視を決め込んだ。
「失礼致します。旦那様がお呼びでございます」
それから暫くすると招待客が揃ったのか、呼びに来た執事の後に続き会場入りすると立食形式の誕生日パーティーが開始された。
私は両親の隣で、挨拶に来る貴族の方達に紹介され、完璧なカーテシーをとる。
それを見た招待客に次々と褒め言葉を頂き、今までの苦労が報われたのを感じていた。あのお母様直伝の地獄のマナー講習を耐えた甲斐があった。
やっと挨拶地獄から解放された私はフラフラの足で一人になれる庭の四阿へと向かう。
今なら私が抜けても大丈夫そうだわ………
メイドからジュースの入ったグラスを受け取り庭に面した扉から外へ出ると、庭の小道を抜け四阿へ向かい進む。
あら?誰かいるわ………
離れたところから四阿を見ると3人の男の子が談笑しているようだ。
ひとりは、お兄様よね………
あと二人は誰かしら?見たことないわね………
そこには兄に負けず劣らずの美少年がいた。
柔らかくウェーブが掛かった金髪に碧い瞳の美少年と長い赤髪をひとつにまとめた緑の瞳の美少年。
私は生け垣のかげに隠れ、3人の様子を窺う。
ーーー眼福❤︎
はぁ~いいわ。美少年のスリーショット!
大好物だわ………
私はヨダレを垂らす勢いで眼前の光景にかぶりつく。
3人は親しげに話し込んでいる。
………同じくらいの年かしら?
眼前に広がる煌びやかな光景に、私の脳内妄想が開始される。
はぁ、久々のこの感覚~懐かしいわ~
あの3人はどういう関係かしら?
まだ恋は自覚してないのかしらねぇ~
優しい雰囲気の金髪碧眼の少年を二人が取り合う。
大人になるにつれ、自覚する恋心。そして自分と同じ様に見つめる視線に気づく。
友人がライバルに変わる瞬間………
二人から愛を向けられた彼は戸惑いながらも受け入れていくが、二人の間で揺れ動く恋心。
果たして彼はどちらを選ぶのか?
それとも二人の愛を受け入れるのか?
ーーーたまらん❤︎
私は暫くその場でニヨニヨしてしまう。
気づくといつの間にかお兄様と金髪碧眼の美少年が消えていた。そして赤髪の彼がこちらに向かって歩いて来るではないか。
………ヤバイヤバイヤバイ………
私は慌ててバレない様に四つん這いで逃げようとして捕まった。
「これはこれは、毛色の変わった猫が捕まりましたね。
ピンク色のメス猫とは珍しい………」
背後に立つ彼のドスの効いた声に震える。
このまま走って逃げられないかしら?
ゆっくり近づいて来た彼に肩を掴まれ、振り向かざるを得なくなった私と彼の目が合う。
私は最後の勇気を振り絞り眼前の彼を睨みつけた。
私はアラサーよ!こんな子供に負ける訳ないじゃない‼︎
「そっ、その手を離してくださいませ!
わたくしが自分の家で何をしていても貴方には関係ありませんでしょ‼︎」
私は彼の手を振り払い、ガクガクしている足を叱咤し、背筋を伸ばし歩き出す。
この時ばかりはボリュームのあるドレスを着ていて良かったと思えた。
「あれが、アイシャ・リンベル伯爵令嬢ですか。
なかなか楽しめそうだ………」
赤髪の彼の不穏な呟きがアイシャに届くことはなかった。