2.この世界は、ドコですか?
私は、あの羞恥プレイの日々をやり過ごし7歳になっていた。
誕生日を明日に控え、7年間に知り得た事を纏めるため、鍵つきの引き出しから取り出したノートを広げ、転生者である事がバレないように日本語で綴り始めた。
私は、リンベル伯爵家の長女として生まれた。名前はアイシャ・リンベル。
容姿は、まぁ転生前の私よりは可愛らしい顔つきよね。ちょっと気持ち目元がつり上がってるのが気になるけど………
両親は健在で、王城で執務官をしている父ルイは現在リンベル伯爵家の当主でもある。家では優しい父(親バカ)だが、執務官の中では切れ者と有名で、無能には容赦ないと怖れられている。
母ルイーザは、おっとりとした性格の可愛らしい夫人だが、よく色々な貴族家からお茶会に誘われているのをみると、社交界では幅をきかせているのかもしれない。
この二人は、貴族社会では珍しい恋愛結婚だったようだ。メイドの話によると、何処ぞの王女だった母を父が見初め、あらゆる手段を講じて手に入れたとか。
嘘か実か、真相は不明だが、今のリンベル伯爵家の立ち位置を考えるとある意味正解なのかもしれない。
リンベル伯爵家は、貴族社会の下から三番目の階級である伯爵家のくせに、お付き合いしている貴族各家は名家と言われる公爵家や侯爵家がほとんどなのだ。しかも、何故か頻繁に、高位貴族の方達が父や母に会いにわが家へやって来る。理由は分からないが、両親のバックには得体の知れない旨味があるのだろう。
あとは3歳上に兄がいるが、まぁ〜コイツも一癖も二癖もある奴なのだ。
名前は、ダニエル・リンベルと言う。
まだ、10歳の癖に大人びていて頭もすこぶる良い。見た目もよく、サラサラの黒髪に紫色の瞳は神秘的で、目元の泣き黒子が妙に色っぽい。よくメイドのお姉さん方を相手にゴニョゴニョやっているようだが、ここは触れないでおこう。
しかし一番厄介なのは、極度のシスコンだという事だ。
私が7歳になる現在も何かと理由をつけ、夜私と一緒に寝ている。兄曰く、私を抱き枕にしないと寝られないとの事だが………
私は貴方の抱き枕じゃないといつか言ってやりたい!
そんなこんなで私の転生先の家族は当たりだったようだ。
小説の中では不幸な生い立ちの転生者が成り上がって行ったり、ヒーローに助けられ幸せになる物語が多いので、自身の境遇を心配していたが、私は平凡に生きられそうだ。
しかし、未だにこの世界が何処なのか、何の物語に転生したのか、または物語ではない異世界なのか全く不明だ。
生活環境から考えてみても、不明な点が多い。
中世ヨーロッパ風の世界なのに、電気は通っているが、通信手段は手紙のみだ。
お風呂も蛇口をひねれば、水もお湯も出てくる。なのに、乗り物は車はなく馬車での移動だ。もちろん異世界特有の魔法がある訳ではない。
スマホのある日本で生活していた私には何かと不便に感じる事もあるが、伯爵家の令嬢であるため大抵の事はメイドがやってくれるので問題はない。
7年考えた私の結論は、どうやら過去の世界ではなく異世界に転生したらしい?という事だ。
今の段階で何も思い出せていないのだから、何かの物語に転生していても、きっとメインキャラクターを取り巻くモブか、もしかしたら物語にも登場しない誰かだろうと結論付けた。
悪役令嬢とかヒロインとかメインキャラクターに転生していないなら、この世界で自分の趣味に生きてもいいのではないか。
伊達に29年+7年腐女子をやっていない。
私は7歳の誕生日を迎え、今後の人生の指針を決めた。