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1.どうやら転生した模様………


「奥様‼︎可愛いらしい女の子でございます‼︎」


ここは夢の世界なのだろうか?視界いっぱいに広がる真っ白な世界と温もり。


バタバタと走り回る音に、喜びに満ちた歓声。

頭上からは沢山の人の声が聴こえる。


私は誰かに優しく抱かれているのだろうか?

身体に伝わる温もりと揺れが心地よく意識が飛びそうになる。不眠が日常化しつつある私にとって、こんな心地良い夢を見れたのは何年ぶりだろう。


「………本当に、可愛らしい………

わたくしの赤ちゃん………」


ーーーわたくしの赤ちゃん?はて誰の事だ?


そんな疑問も、身体に伝わった大きな揺れに霧散してしまう。どうやら、違う誰かの手に渡され全身をお湯で洗われているらしい。

さっきから全く目が見えていないので状況がはっきり掴めないが、肌に伝わる感覚でそう判断した。


それにしても不思議だ。

夢にしてはリアル過ぎる、石鹸の香りに身体を洗う手の感触。


私の最後の記憶を辿ってみれば、自室でお気に入りの小説を読みながらニヨニヨしていた所までは覚えている。たぶんあの後、寝落ちしたのだろう。


本当に夢の世界なのだろうか?

私の世界は真っ白なままなのに、異様に耳だけはハッキリ聴こえる。しかも目が見えない分、身体に伝わる感覚が鋭くなっている。もし、夢の世界なら視界が真っ白なままなんてあり得るのだろうか?色鮮やかな映像が写し出される筈ではないのか。


ーーー夢ではない………


唐突に襲ってきた確信と衝撃の事実に叫ぶが、耳に聴こえてきたのは、か細い泣き声だけだ。


嫌な予感が脳裏を過り、手足が動くか確かめるため渾身の力で暴れてみるが、思うように動かない。

そして何より不思議なのが、私を洗っている手の大きいこと………


ーーーまさか………






それから数週間後、私は理解した。

どうやら、とある世界の赤ちゃんに転生したらしい。日本での29歳までの記憶を持ったまま、赤ちゃんに転生って、恥ずかし過ぎる。


ーーー本当、とんだ羞恥プレイよ‼︎


「アイシャちゃん~オシメを換えましょうねぇ~♪」


私の母だと思われる可愛らしい女性がメイドの手を借り私の下腹部をタオルで拭い新しいオムツに替える。


その後は母乳を飲まされる訳だが、何が悲しくて女性の乳首を女である私が咥えにゃならんのだ。唯一の救いが意外と母乳が美味しかったことだけだなんて。


やっぱり赤ちゃんだから美味く感じるのだろうか、あの母乳?


思うように動かない手足と泣く事でしか表現出来ない自身の身体が恨めしい。





『ガチャ』


「ルイーザ!アイシャのご機嫌はいかがかなぁ?」


どうやら部屋に父と思われる男が入って来たようだ。


「まぁ~貴方、王城からいつお戻りに?」


「さっきだよ。アイシャとルイーザに会いたくて急いで帰って来た。」


ふたりは私の上で見つめ合いキスを交わし始めた。

この二人は、どうやらラブラブ夫婦のようだ。


ーーー本当他所でやってくれ………


私は二人のキスを中断させるべく最終手段に出た。


「………ふぇ…うぎゃ………うぎゃぁ………」


「大変だ!アイシャが泣き出してしまった‼︎」


私は、父らしき男に抱き上げられ頬ずりされる。

髭面でないのでチクチクはしないが、知らない男に頬ずりされるなんて、気持ち悪い………

私が激しく泣き出したのは言うまでもない。




さてここら辺で忘れない内に私の転生前の記憶を振り返っておこう。


私は29歳で記憶が途切れるまで、日本の商社で働いていた。中規模商社で新社会人の時から働き、30歳を目前にやっと企画チームのリーダーを任せられるまでになっていた。


仕事一筋で生きてきた私に彼氏が出来るはずもなく唯一の趣味を満喫しながら、日々を楽しく過ごしていた。


ーーー私の趣味、それは………


男同士の恋愛、世に言うBL本漁りをする事。


週末になれば家でゴロゴロ、スマホの電子書籍ストアでBL本を探し、夜な夜なニマニマしながら読みあさる。


街に出ればカフェの窓際の席を確保し、人間観察。イケメンの男同士が歩いていれば、そのふたりをオカズに妄想に耽ける。


そんな隠れ腐女子だった私はあの夜も一人ニマニマしながらBL本を読んでいたのだ。


29歳隠れ腐女子。こんな私に彼氏が出来る筈もなく、今後も結婚せず、仕事に趣味に生きて行こうと考えていたのに………


何故知らない世界の、しかも赤ちゃんに転生するのだ‼︎


よく本で読む異世界転生って、記憶が突然戻るのは、もっと大人になってからとか、多少物心ついた幼少期だとかでしょうに、生まれた時からって………


29歳の私には酷だ!


毎日の羞恥プレイに早く慣れることを願うだけだわぁぁぁ………


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