レンカの最期
レンカは順調に回復魔法の力を伸ばしていた。
だが、途切れることなく運び込まれてくる傷ついた兵士。一体いつ、戦いは終わるのか。それを考える暇もないほどの忙しさが続く。
そうして、気がつけば七十年が経過していた。
既に老境にあるレンカ――自分の力が恐ろしいまでのレベルに到達したことを実感している。
触れるだけで大怪我をあっという間に治せるし、仮死状態からでも難なく生命を取り戻す。
まるで神の如き力だ。
来た当初、ここは夢の世界だと思っていた。
だが、いつまでも醒めず、実存感は日に日に強まっていく。
最早これが夢だとはレンカには思えなかった。
ここで暮らし、仕事があり仲間がいて――そうである以上、たとえ夢なのだとしても、レンカにとって紛れもなくここが現実の世界だった。
あたしはここで生き、死んでいくのだ――レンカはそんな決意を抱いている。
「大院長、どうなさいました」
ある日、いつものように大部屋で傷ついた兵士たちの治療を行っていると、同じように年老いた側近の男が心配そうにレンカに声をかけてきた。
「いいえ、何でもないわ――」
と、レンカは黙々と兵士達を癒やしていく。
だが暫くするとよろめき、近くのベッドの手摺をつかんでしまう。
「大院長っ」
驚いて駆け寄る側近の男。
レンカ自身も訳が分からず、じっと自分の手を見た――僅かに震えている。
――魔力を、留めておけぬ?
いつもなら大量に体内に取り込める魔力。それが今、身体のどこかに穴でも開いているように取り込んだそばから流れ出していく。そのため、回復魔法の効力も弱くなっていた。
「済まないけれど、今日はもう――」
レンカはそう言って、自室に引っ込んだ。
部屋のベッド。
見慣れた天井をぼんやりと見つめる。
魔力の流出は止まっていない。そればかりか身体の調子も悪くなり、まるで魔力の流れ出しに合わせて機能を停止していくようだった。
――寿命じゃな。
レンカ、ここへ来てからの日々を思い返す。
成長した状態で放り込まれ、目の前には回復が必要な人の群れ。レンカは、日々、自分の力の限界を超えた回復力を発揮し、その度に壁を越えてきた。
――考えてみれば、まるで。
訓練だ。
誰かが自分を急速に成長させるためこの状況は作り出されたのではなかったか。レンカはそう考えて妙な納得を覚える。
――でもこれでは駄目じゃ。
レンカの回復魔法の力は限界を超え、彼女の生命力と共に消え去ろうとしている。
――ああ、あっけないね……。
未だに慣れない成長した自分の手。
じっと見つめ、穴が空くほど――見つめて。
――ウード、ガウ……。
そして、サンタクララ。
久し振りに彼らのことを思い出していた。
――あたしのこと、忘れちゃったかなぁ。
まるで童女のような言葉遣いで、レンカ。
――もういちど会いたいなぁ……。
ばちちちっ。
レンカの瞳に緑の明かりが灯る。
激しい明るさだった。まるで、尽きる直前の蝋燭のように。
――もっと、この力を使いたかった。もっとたくさんの人を救いたかった。
消えゆく緑の光、同時にレンカの意識が薄れ始める。
――最期なの? これで。
レンカは、傷ついた兵士達や仲間達、残していくものを惜しむ。
――中途半端で済まないねぇ。もし、次があれば。
周りの風景が一段遠くなり、レンカの魂、揺らいで。
――次は、もっとうまくやる。出来るよ、あたし。
そう考えた所で、レンカの意識は途切れた。




